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30話 確認・祈り

 森の中を駆け抜ける。


 戦闘の場まで辿り着き、自身に肉体強化を掛けて、腰の短剣でベアクローへ切りかかってみる。


 結果は、切り傷程度の…人で表現すれば薄皮が切れた程度だった。


(どんだけ堅いんだ…。)


 目を狙って突き立ててみるが突き刺さらずに滑ってしまう。


 父親たちが傷付けた箇所に突き立てても、出来るのは先ほどと一緒の傷程度である。


(流石は魔力なしの最上位種…肉体の強度が凄まじいな。親父たちが攻撃してこの位の傷だとすると、今の筋力ではでかい傷を付けるのに何時間も掛かってしまう。二人を援護するくらいしか出来ないな。)


 ベアクローへの直接攻撃は諦めて無属性魔法を解き、土を目や口などに詰めることにする。


 土を詰め終えて、戦闘範囲から離れて時を戻す。



クロス

ランク 1

魔法力 27988/72000

筋力 26

魔力 無10/時4

速度 28

状態 普通

金銭 0リラ



 やはり無属性魔法は魔法力の消費がでかく、調子に乗って使ってしまうと、すぐに魔法力がなくなってしまう。


 ベアクローは、いきなり視界や口などの呼吸が閉じられたことで混乱し、両手を振り回している。


 戦っていた二人も突然のベアクローの行動に驚きながらも、これはチャンスとばかりに無属性魔法の詠唱を始めた。


 この詠唱を聞いた時に、ベアクローがいきなり走り出した。


 二人が詠唱を完了し、武器を振りかぶった状態で、ベアクローが走り去ったのを見つめている。


 まさか傷を負ったベアクローが、逃げるとは思っていなかったのだろう。


(詠唱が聞こえたのか?耳も塞いどくんだった…。)


 とりあえず二人の無事を確認する。


「二人とも大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。しかし逃げられたのは面白くないな。」


「眠たい。だるい。腹減った。」


 二人をざっと観察したが、すり傷程度で本当に大丈夫そうだった。


 父親は戦闘よりも一次欲求の方が、傷なんかよりも重要そうだが…。


「これからどうします?」


「確認だが、そこに見えてるのがアジトで間違いないんだな?」


 ギルドマスターが顔を向けた先には、山肌に大きな穴を開けて出来たアジトが見えていた。


「はい。間違いないです。」


「それならいい。他の四人と合流するぞ。一人やばそうだったが状態はわかるか?」


 三人は走って街道へと向かった。


 クロスは、ギルドマスターが戦闘しながら、周りを把握していたことに感心する。


「回復魔法で傷は塞ぎました。後はわかりません。」


「失った血の量が問題か…。」


(傷ついた肉体は戻っても血は戻らないのか…。)


「水風系統の魔力5がいればいいんだが…。」


 話振りから察するに、回復魔法の上位版が存在するようだ。


 今の内に気になったことを聞いてみる。


「回復魔法で傷が塞がりましたが、目なんかも回復するんですか?」


「目だけは無理だな。それ以外であれば、肉体的には元に戻る。精神は本人次第だが…。」


 目だけは、神からの祝福を受けていて、人の手では回復や複製は不可能とのことだった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 半刻も走らない内に街道へと出た。


 街道では、一人が横たわったままで、その傍にターニャが心配そうに座り込んで看ており、近くに他の二人が疲労のためか、仰向けになって休んでいた。


「四人とも大丈夫か?」


「一人…シュウ、だけが、わかり、ません。」


 横たわっている一名については、まだ余談を許さない状況のようだ。


「ギル。あいつがいる。」


「あぁ。オレも考えたとこだ。すぐ移動するぞ!」


「しかし、町までは、まだまだ、あり、ますが…。」


 マードックは未だに息が整え切れていないようで辛そうに話している。


「とりあえず血は止まってるんだ。死にはしまい。」


(それはあんた達だけだよ…。)


 脳筋ズは短い会話で意志の疎通をはかると、マードックの言葉に対して無遠慮にのたまう。


「カインいけるか?」


「眠たいが問題ない!」


 二人は、互いの両手を組み合わせて、片方の手をやや上げ、もう片方の手を膝あたりの高さに下げる。


 そして膝を折り、片膝を地につけた。


 見た目筋肉な二人が、互いの両手を握って向かい合っている姿は、非常に暑苦しい。


 なにやら準備が出来たのか、今度はアイコンタクトで頷きあっている。


「準備は出来た!そいつをここに乗せろ!」


 言われた三人組は、まさかと思いつつも、本当にやるとは思っていなかったのか、「えっ!?」という言葉と共に固まっている。


 クロスは、二人のやることに耐性が付いたのか、固まる三人組を無視して横たわっているシュウを抱き上げて、二人の腕の間にゆっくりと座らせた。


(即席担架のつもりだろうけど、この二人が走ったら乗ってる人への振動というか負担が大きいような…。)


「よし!いくぞ!」


 ギルドマスターが声を出す。


「「せーのっ!」」


 声を出した次の瞬間に、二人は村の方向へ走り出した。


 二人の走りは、先ほどの戦闘と一緒で、凄まじく息が合っている。


 その上、一歩一歩が大きくまるで低空を飛んでいるかのようだった。


 乗っている人の高さが変わっていないことから振動についてはなさそうだが…。


(振動なさそうだけど、あれだと後ろに対する重力が凄まじいんじゃ…。まあ、あの人は二人に任せよう。)


「信じらんない!なにあれ!話には聞いてたけどおかしいでしょ!」


 硬直から復帰した女性が叫び出す。


「しかも…あっちは村の方角…。」


 ターニャについても、硬直からは復帰したようだが、未だに二人が走り去った方向を見て、唖然としている。


「ゼーロー村の、ギルド、マスターにも、考えが、あるん、だろう…。とり、あえず、我々も、ゼーロー村に、行か、ないか?」


「そうね…。それにしても、ゼーロー村って、あんなのばかりなのかな…。」


 叫んでいた女性はこちらを見ながらぼそりと付け足す。


 一応弁解しておく。


「僕を一緒の括りにしないでください。二人に関してですが、村に向かったのは私の母親が、確か上位の回復魔法を使えたので、ネストの町よりも近いゼーロー村を選択したのだと思います。」


「きちんとした、理由が、あるなら、いいんだが、せめて、簡単な、説明は、して、もらいたいな…。見ように、よっては、暴走、しているように、しか、見えない。」


(間違いではないかもね…。)


 運ばれた人の無事を祈りながら四人は村へ向けて歩き出した。


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