29話 合流・脱出
しばらく二人は呆然としていたが、我を取り戻したようで、クロスに聞いてきた。
「アジトは結局どこなんだ?」
「まずは南の山に行きましょう。」
「南の山だな!」
また暴走しそうになったため慌てて言い直す。
「まずは!です。ついてこないとアジトにはつけませんよ!」
この言葉が効いたのか、二人は大人しくなった。
「ではいきましょう。」
クロスは二人を伴って山の方へ歩き始める。
クロスの後ろを歩く二人も、大人しいままでついてきた。
半刻程歩くと森が途切れて、その先に山が見える。
更に近付き方向を確認する。
「ここか?」
「アジトなんぞなさそうだが…。」
「気が早すぎます…。」
未だに暴走しそうな二人を連れて、山沿いを村方面に向けて行く。
「この調子では、四人組が先に見つけるかもしれませんね。」
「「!」」
クロスの言葉に、二人は驚くとともに慌て出す。
「先に捜索完了されては、あいつに何を言われるかわからん!急がなければ!」
「全くだ!あいつ結構うだうだうるさいからな!クロス!とろとろ歩いてないで早く行くぞ!」
溜め息を漏らし、ペースを上げる。
徐々にペースを上げていき、最終的にこちらとしてはかなり精一杯な速さになったのだが、二人はまだまだ余裕がありそうだった。
二人を連れてしばらく行くと、誰かが叫んでいる声と動物の叫び声が聞こえてきた。
(もしかして…!!)
後ろをついてきていた二人にも聞こえたのか、あっさりとクロスを抜き去り、声が聞こえた方へ走っていく。
(流石に二人は早いな。)
クロスが二人に追いついて見たものは、四人組の内二人が血だらけで倒れており、後の二人も傷だらけで立っているのがやっとのようだった。
暴走二人組は、自分の武器を手にベアクローへと挑んでいる。
二人の連携は見事なものでベアクローを挟んで、一人が牽制し、ベアクローの意識がそちらへいった隙に、もう一人が無属性の詠唱で自身を強化し攻撃している。
(でも、あのまま攻撃してもジリ貧っぽいな…。)
確かに二人は、ベアクローに対して押してはいるように見えるが、いくら体力がバカみたいにあるとはいえ、睡眠不足で体力・魔法力も回復せず、いきなりの戦闘それもランク5のベアクローではいささか分が悪い。
しかも、このベアクローは通常のやつよりも賢いのか、一回目に後ろからの攻撃をくらった際に学習し、二回目からは前を向きつつも後ろ側も警戒し、急所を避けているように見えるので、このままではベアクローの命よりも、二人の魔法力切れの方が先なのは目に見えていた。
(まあ、もうしばらく保つだろうし、怪我してる四人の確認が先かな。)
戦闘を横目に、四人の状況を確認するため、一旦時を止める。
止めてからは、先ずは血だらけで倒れている二人に近付く。
男の方がひどそうだったので先に見てみる。
意識はなさそうで、左腕の傷から血が出続けているようだったので、布で腕を縛り付け止血する。
傷は骨まで達していたようで、止血した際に白いものが見えた。
それ以外にも外傷がないか確認すると、頭から血が出ていたが、こちらは滲む程度で、それほど血は出ていなかった。
恐らく転倒かなにかした際にぶつけただけと思われる。
応急処置を終えて、血まみれになっている二人目の女性に向かう。
こちらの女性はかなり血まみれに見えたが、出血箇所は見当たらず、打撲の後と防具が少々傷付いているだけで、気絶しているようだった。
(あっちみたいに頭を打ってるかもしれないし、とりあえずこのままおいておこう。)
今の現状では倒れている二人に対して、これ以上有効な手段が思い付かないので、時を戻し意識のある二人に声をかけてみる。
「そちらのお二人は大丈夫ですか?」
「とりあえず(はあはあ)大丈夫だ(はあはあ)。」
「私も…今のところ…大…丈夫…。」
二人からは返事があったので、各自怪我の状況は自己判断として割り切らせてもらう。
「一人出血がひどい方が居るんですが…、回復魔法使える方っていましたか?」
「そっちで気絶してるターニャが使える。」
「わかりました。」
気絶しているターニャの元に向かう。
近付いてターニャの横に座り、声を掛けてみた。
声を掛けると聞こえたのか、表情に変化があったので、体を少し揺すりながら再度声をかける。
呼び掛けを少し続けていると、ターニャは目を覚ました。
「目覚めましたか?…ターニャさんは体に違和感はありますか?無ければ一人状況が悪いので回復魔法をお願いします。」
「!!!…シュウ!」
ターニャは自分のことを無視して、今の状況を思い出すと、叫んで周りを確認しシュウを探しだす。
そしてシュウを見つけると駆け寄り、傷と出血量を見て青ざめて固まった。
青ざめて固まったままでは困るので回復を催促する。
「魔法力はありますか?あるのなら早く回復していただきたいのですが。」
こちらの言葉にハッとし、手をシュウの腕の患部に当ててから回復魔法を使う。
「水よ。風よ。この者を回復したまえ。『ベッセルング』」
『ベッセルング』:対象者の外傷を少しの範囲で回復させる【水属性20、風属性20】
詠唱が終わると、傷のあった辺りがゆっくりと光に覆われていく。
そして光がまたゆっくりと消えていくと、ざっくりと開いていた傷が塞がっていた。
見ている感じ的には、手を当てた箇所しか回復していないように見える。
(回復魔法で失った肉体を部分的であるとはいえ、元に戻せるのなら目を抉られても回復出来るのかな?)
以前牢屋で目を抉られていた女性を思い出す。
「回復出来たのなら、二人が時間稼ぎをしている今の内に移動しましょう。」
「このまま倒せるんじゃないか?」
二人の戦闘を見ながら、マードックは楽観的なことを言ってくる。
「最初の魔法を使った攻撃以降、まともにベアクローへ攻撃が入っていません。この状況がいつまで続くか分からない以上、足手まといになる可能性がある者は離脱すべきです。あの二人であれば…逃げるだけなら容易なはずなのでこの場は任せます。」
「…わかった。」
「えーっと。あなたはそこの女性を連れて街道へ移動してください。私はシュウさんを連れて行きます。ターニャさんも大丈夫なようでしたら、あちらを手伝ってあげてください。」
クロスは、シュウを背中に乗せる。
「やはり覚えてなかったか。私はマードックだ。」
「名前よりも先に移動しましょう。」
言ってからすぐに走り出す。
途中まで後ろがついてきていることを確認し、後ろとの距離を一気に離す。
そして、後ろとの距離を十分に離したことを確認してから時を止める。
時を止めてから、しばらく小走りで行くと街道が見えてきた。
街道に着いてからは、草原の方にシュウを寝かせてすぐに引き返す。
クロス
ランク 1
魔法力 50848/72000
筋力 26
魔力 無10/時4
速度 28
状態 普通
金銭 0リラ
ここまでで約半刻ほど費やしている。
戻れば一刻…この移動だけで全体の五分の一を消費することになる。
暴走二人組を思い出して改めて溜め息をつき、戦闘の場へ急いで戻る。




