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19話 下見・お酒

 マスターに勘定を頼むと「笑わせて貰ったから金はいい。」と男気溢れる返答が返ってきた。


(もう少しパンの数増やしてもよかったな。)


 店を出てお土産の下見を行う。


 裏通りは店が多く、人も多いので進むのも一苦労だ。


「何かお土産を見て回りたいんだけど…。」


「お任せください。」


 メイは手を繋ぐと裏通りを出て表通りを通り、中央広場へと向かう。


 中央広場から南側に行き店の前で止まった。


「このあたりがお土産には丁度よいかと。」


 案内されたのは工芸品や小物が置かれた店が並んでいる。


「一部流れてきた物もありますが、ほとんどがこの町で作られた品物を置いております。」


 目の前の店に入ってみる。


 店内は木彫りの人形など、木で作られた物ばかりだった。


 一通り見て気に入った物の値段を頭の片隅に控える。


(絡繰りみたいなのは無いけど、マリオネットみたいな操り人形はあるな。)


 値段を覚えてから次の店に入る。


 次の店は人形は人形でもぬいぐるみの方だった。


 こちらの値段は先ほどよりも遥かに高く。


 一体数万リラかかるものがほとんどである。


 流石に大きめのぬいぐるみは手持ちでは厳しいので、安めの小さなぬいぐるみを選ぶ。


 次の店からは雑貨屋が続き、食料品店となっている。


 雑貨屋と食料品店を一通り見てから、後ろに控えて付いてきていたメイに尋ねる。


「土産物はここだけ?」


「ここには大抵の物が揃っています。」


「そう…。」


 今までの店でお土産を選んではきたが、なかなか真新しい物は無かった。


(隣町だし、前の世界の知識があるせいか、やっぱりお土産のハードルが高くなるなぁ。)


「この町で有名で持ち帰り出来る美味しい物ってなに?」


「やはり、人気は中央広場のパン屋です。」


「そっか…、じゃあお酒のある店知らない?」


「お酒…ですか?………ハッ!(お酒を飲む→乱れる→私を襲う→一緒に寝る→翌日二日酔い→介抱!)」


 メイは何かを思い付いたのか、渋っていたような対応から何かに気づいたようで、決心したような感じに変わる。


(結構表情が変わるようになったなぁ…。)


「お任せください!」


 メイはやる気を漲らせ、クロスの手を引き裏通りへと入っていく。


 入った裏通りは人がまばらで、店というよりも工房のようなところが多くあった。


 そんな中、ある工房へ近づくと酒の匂いが漂ってくる。


(あまりずっと嗅いでいたい匂いじゃないな。前の世界でもあんまり呑むほうじゃなかったし…。)


 今まで父親のカインが夜に呑んでくるくらいで、まともに酒の匂いを嗅いだことが無かった。


 そのせいか、酒の匂いに顔をしかめる。


 店に入るとさらにいろんな酒の匂いが充満していた。


 店の中は自分の身長よりも高い樽が並んで置いてあり、その横に梯子を立て架けて樽の中身を混ぜている男達がいた。


「失礼します。どなたかよろしいでしょうか?」


「おっ、ツヴァイ家のメイ嬢じゃないか、今日はどうしたい?」


 近くにて樽の様子を見ていた男が話しかけてきた。


「果実酒を頂きたくてまいりました。」


「なんかの祝いの席でもあるのかい?5日くらい前に来てもらったから、いれたばかりだと思うんだが?」


 つい最近もメイはここに来たようで、納めてまたすぐに来たメイを不思議に思っているようだ。


「この度は個人的に来たのです。」


「基本屋敷か店にしか卸さないんだが…。」


 やはり買い物客が居なかったのは、ここが一般的に買い物する店ではないからのようだ。


 工房には職人しかいないようで樽など酒を造る道具しか見当たらない。


「そこをなんとか売っていただきたいのですが。」


「売りたいのはやまやまなんだが、親方に聞いてみないことにはな…。」


「では親方はどこに居られますか?」


「親方はまだ昼飯から帰ってきてないんだ。すまないな。」


 そこへ自分たちの後ろから男が入ってきた。


「店ん入り口で突っ立ってんじゃねえ。」


 男はそう言うと横を通り過ぎ一瞬メイを見たが、気にせず奥へ進む。


「丁度良かった。親方の話をしてたんですよ。」


 その言葉に親方と呼ばれた男は止まる。


「なんでぇ?」


「酒を売って欲しいみたいです。」


「昨年物の果実酒でいいのでください。」


(「売って」が抜けてるよ…。)


 会話を進めていくたびにメイの要求が上がっている気がする。


「ん?ここは売るとこじゃねえだろ。あんたも諦めろ。」


 親方は、メイの要求を無情にも切って捨てる。


 しかし次の男の言葉で態度ががらりと変わった。


「(親方…この子ツヴァイ家のメイドですよ。)」


「ぬっ!?」


 男のひそひそ話に親方は反応する。


「(しかもマリー嬢の親友だったはずです。)」


「なにぃ!?それを早くいわねぇか!」


 親方は驚くと、声を大にして男を叱りつけた。


「すまねぇ、ちょっと待っといてくれ。おい!今年物がそろそろだろう!それ持って来い!」


 親方は男に指示を出す。


 今度は逆に男が親方の言葉に驚いていた。


「出来立てで献上すらまだなんですが、いいんで?」


「構わねぇ!オレがいいって言ってるんだからな!」


 男は親方の言葉に納得したのかすぐに準備を始める。


「あー。ツヴァイ家のマリー嬢の知り合いとの事だが…マリー嬢は元気だろうか?」


 どうやら親方はマリー嬢に惚れているようだ。


「はい。今日砦から戻って来たので疲れてはいるでしょうが、彼女はいつもどおり元気です。」


「そうか。最近食堂でも見かけないからどうしたのかと心配してたが、元気そうでなによりだ。」


(もしや昼食遅かったのって食堂でマリーを待ってたんじゃないだろうな…。)


 親方はホッとした表情で胸を撫で下ろした。


「今日の昼は恐らく中央広場のパンを食べているので、今日の夜か明日にでも食堂に顔を出すと思います。」


「そうなのか!いや~いいことを聞いた!ありがとな!」


 親方は機嫌がいいようで満面の笑顔だ。


 そこへ指示を受けた男が陶器に入れた酒を持ってきた。


「準備出来やした。」


 親方は男から陶器を受け取るとメイに向き言う。


「これを持っていってくれ。マリー嬢によろしく頼む。」


 親方は真剣なようで、願いを込めたかのように酒の入った陶器を渡してくる。


「分かりました。彼女には伝えておきます。」


 メイは酒を受け取ると一礼してクロスの手を取り店の外に出る。


(結局お金いらなかったな…てかオレ行く意味あったのか?それにしても…。)


「ツヴァイ家には戻る気無いんだけど、…さっきの親方のお願いどうするの?」


「マリーへは手紙を送ろうと思っています。」


「ふ~ん。それにしても親方はマリー一筋みたいだけど何かあったの?」


「食堂で諍いがあったのですが…。」


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 ある夜食堂にて晩飯を食べていたところ、向こうがどんちゃん騒ぎを起こしていたため「少しは静かに食べれないのか」と注意したところ言い争いになり、食堂の女将の仲裁によりなぜか飲み比べにてハッキリさせることになったらしい。


 その際にマリーが勝負を買って出たのだが、勝負に勝つどころか、親方を完全に潰してしまったという。


 それ以来酒場などで顔を見かけると、酒を奢ってくれるようになり色々と話すようになったとのこと。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「一緒に居たはずなのに覚えられていないことには驚きです。」


「それにしてもマリーはよく勝てたね?相手はある程度呑んで居たとは言え酒職人の親方だよ?」


「関係ありません。マリーはある界隈では【うわばみ】として名が通っています。食堂の女将はそれを知っていたので勝負を持ちかけたのです。カードにも通常は消しているので見れませんが、状態欄に記載されています。」


(最初から勝ちは決まっていたのか…。まさかメイも!?)


 メイはクロスがまじまじと自分を見ていることに気付き言い放つ。


「私はお酒は呑みません。」


(良かった。本当に良かった。)


「疲れたしギルドに行こう。」


「分かりました。」


 聞いていただけだが疲労がたまったためギルドに行くことにする。


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