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139話 続き・終わり

 兵士たちの輪を抜けて会談の場所へと赴くと、4人は待っていたようで、話を中断してこちらを見ていた。


「なにか用か?こちらには全くないんだが。というか早くこの話をさっさと終わらせてほしいんだが………。」


 クロスの言葉遣いが聞こえたのか、周りの兵士たちがざわざわと騒ぎ出す。


 実際に王族に対しての言葉づかいではない上に、通常であれば処罰されてもおかしくは無いからだろう。


「いいところに来ました。連れてくるといいながらあなたが来なかったのでかなり警戒してしまいましたよ。」


「相手がいなかったからお前が俺を騙したのかと思ったんだぞ。」


 どうやら到着してすぐには会えずに、しばらくの間クロスの事を疑っていたようだ。


「文句を言うために呼んだのか?帰りたいんだが。」


「だめです!」


「だめだ!」


 二人一緒に声を合わせて言ってくる。


 実は二人とも既に仲が良いのではないだろうかと疑ってしまいたくなる。


「ではそろそろなぜ呼んだのか説明してほしいんだが?」


 二人はそれぞれを見て視線でお前が言えと言っているようだったが、結局ベルンの王の方が折れて話し出した。


「我々だけでは、それぞれの言い分を言い合うだけで、なかなか意見の擦り合わせすら出来なくてな。丁度第3者が欲しかったところだ。」


「そうです。全く自分の非を認めようとしない人が居るのでそれを客観的に指摘できる人が欲しかったのです。」


「………なんだって?そっちだって全くこちらの言い分を聞こうともしてないではないか!」


「自分が不利になりそうになるとすぐに大きな声を上げるのはどうかと思いますよ?」


 ずっとこの調子なのか、2人はさらに言い合いを続けている。


 静かにしている残った2人を見ていると、2人は互いをちらちらと見ながら恥ずかしそうにしていた。


 以前会った時の話し方や行動力をみる限りでは、あまりにも大人しすぎる。


 まるで猫を被っているかのような大人しさだ。


(親のあまりの態度に恥ずかしさが出ているのか、それとも………。)


 とりあえずは、ハリセンを取り出して言い合いを続けている2人を黙らせる。


「………女性を叩くとは何事です。」


「………いてぇ………。」


「そろそろ黙れ。」


 兵士たちはその光景をみてしばらく固まっていたが、事態を把握したのか持っていた剣を抜くとこちらへじわじわと包囲を絞り込んできた。


「面倒になってきたな………。ここにいるやつらを根絶やしにしたらこの争いはなくなるかな………。」


 クロスとしては考えていただけだったが、それが声に出ていたようで、王の二人はすぐに周りへと合図をして下がらせる。


「そろそろ本題に入った方がよさそうだな。」


「ええ。そうですね。脇道にそれ過ぎたようです。」


「本題に入る前にまず言っておくと、今の俺はドライ家の者となるんだが?」


 第3者として呼ばれたのであれば、クロスの今の立場は、ベルン王国側となる。


 これを言わないで後で発覚したとなれば、後々こちらへと矛先が向きかねないので先に行っておくことにした。


「あなたはこうしてこの場を設けたのですからこちらとしては問題ありませんよ。」


「なに?なぜドライ家なんだ?……あの時はたしか誰とも契約してなかったのではないのか?」


「とりあえず先に進めてくれないか?俺の事なんてどうでもいいだろう?」


 なぜこうも王が絡んでくるのかが全く分からない。


「お前は我が娘と結婚させようと「お断りします!」……えっ?」


 声がした方を見ると、姫の方がこちらを………というよりも王を睨んでいる。


「いや。お断りすると言われてもだな。我が王家には魔法力が多い者を入れなければならんわけであってだな。」


「それでもいやです!お父様は私をどこの誰とも知らない人にやるというのですね!?そして私はぼろ雑巾のように使い捨てられて、いづれは娼館へと売りに出されてそこで毎日男たちの相手をさせられるのですよ!それでもいいというのですか?お父様には思いやりも何もないというのですね!?このことはお母様に後で報告しますからね!私は絶対に反対です!」


 姫はそっぽを向くように王とは反対側を向きつつ、助けを乞うかのように、サンドラ王国の王子の方を見ている。


 王子の方もそれで通じたのか、頷くと話に入ってきた。


「ベルン王国では魔法力の多い者を迎え入れているということは分かったのですが、他に条件などはあるのですか?」


「戦闘能力があり、さらに言えば賢ければいうことはないな。」


 どうやら王は能力重視で婿を選んでいたようだ。


 王家の血筋を強くするという考え方で行けば正しいのであろうが、個人的に見ると間違っているのは間違いない。


「しかし、彼との結婚は出来ないのでは?既に結婚しているようですが?」


 王子はクロスの手にはまっている指輪を見ながらそう言ってくる。


「わが国ではあの指に指輪をはめるのは貴族間では結婚した証であるのですが、ベルン王国では違うのですか?」


 そういわれて他の王族もクロスの指を見始める。


 クロス自身もそういわれては気にならないわけにもいかず自分の指を見た。


 指輪は真ん中の指へとはめられており、ちょっと抜いてみようとしたが全く抜けなかった。


「むっ?なぜ抜けないんだ?」


 つける時には簡単に付けれていたので気にしていなかったが、今思うと付けた時よりも圧迫感があるように思われる。


「恐らく契約が解除されない限り取れることはないと思います。壊すことは恐らく出来ると思いますが、その際には指が無くなる可能性も………。」


 壊せると聞いたときは少し喜んでしまったが、確かに指輪に衝撃を与えるということは、自分の指に衝撃を与えるに等しいと言っても間違いないだろう。


 その際にどれほどの力を加えればいいのか分からないが、その威力によってはクロスの指が飛んでしまうかもしれない。


 そのような危険を敢えて侵す必要も感じなかったので、このままにしておくことにした。


「まあいいか……。とりあえず俺の事はいいから王族間の問題を片づけないか?」


「そこで提案があります。」


 更に王子が提案してくる。


 王の方は不機嫌そうにして話したくもなさそうな顔をし、女王の方は興味があるのか王子の方を見ている。


 姫の方に至っては期待したような目で見ていた。


 3人とも何も言う気がなさそうだったので、仕方なく進行役をすることにする。


「提案とはなんだ?」


「はい。先ほどからお二人のお話を聞いていましたが、それぞれに言い分があり、さらに言えばお互いに悪い点があると思われます。」


(ん?内容的にベルンの王の方が悪かった気がしたが、そこからどうやって双方が悪いというところまで持っていったんだ?)


「ですので、双方ともに恨みを無くし、まずは同盟を結ぶのがよいと思うのですがいかがですか?そうすれば、今の争いもなくなり犠牲も減らせます。」


「まずはとうことはその先があるのだろう?それを話さずして意見を求めようとするな。」


 王の方はあまり乗り気ではないようだ。


 女王の方も続けなさいと言ってくる。


「ええ。同盟を結んだだけでは、お互いの国での今までの軋轢などが解消されるとは思えません。しかし、お互いの国の者………たとえば王族が結ばれればどうでしょうか?」


 その言葉で姫の方はキラキラを瞳を輝かせてうんうんと頷いている。


 しかし他の二人はというと、かなり渋い顔をしていた。


 二人とも自らの子供の顔を見て、反対に相手の子供の顔を見る。


「ではそれで決定だな。」


 クロスが締めようとすると、王と女王が反論してきた。


「ちょっとまて!俺は認めてないぞ!」


「私もです!その男の血が入っているということは、いつ裏切ってもおかしくはありません!」


「では民主的に多数決を取ろうか。丁度この場には5人いることだし。ではこの提案に賛成の者は手を上げて。」


 クロスの言葉にて王子と姫、そしてクロスの手が上がる。


「はい。3人で確定と。では後は式の日取りとかについての打ち合わ「ちょっと待て!」………何?」


「全く持ってこちらの意見が無いではないか!」


「いや。必要としてないからいいんじゃないか?」


「(はあ)………。」


 女王に至っては溜息をついて諦めたようだ。


 しかしなおも王の方は食い下がってきた。


「いや。お前王になれるんだぞ?どうだ?いいだろう?娘もかなりの美人だし、自慢の一人娘だ。どうだ?」


 王はよほどこの話がお気に召さないと見える。


「あのな。結婚する本人の意思をもうちょっと尊重した方がいいとおもうぞ?」


「しかしだな。王族は国のためにあるのであってだな「もういいではないですか。」………。」


 その時に女王が王の話を止めてきた。


「私も今までの恨みは忘れることにしますよ。息子がそれで幸せならばこの提案で構いません。ただ色々と詰めなければならない問題があるようですが、そのあたりについてはこちらは大臣を呼びましょう。あなたの方も担当の者をお呼びなさい。」


「俺に指示をするな!…………(はあ)分かったよ………。」


 王の方も娘の懇願するような態度に考えを改めたのか、元気が無くなっている。


 その後はそれぞれが担当の者を呼んでいた。


 ベルン王国からはアインス家とツヴァイ家。


 サンドラ王国からは大臣3名が呼ばれていた。


「では後は勝手に話し合ってくれ。おれはここで失礼するよ。」


 さっさとその場から去ろうとしたが、王族による指示により兵に囲まれてしまう。


「ちゃんと最後まで責任もって立ち合いなさい。」


「最後まで立ってろ!」


「いや断るよ。」


 クロスは時を止めてアイリの元へと向かった。


 ここへ来るのに乗っていたホース車へと乗り込み時を戻す。


「ただいま。」


 本を読んでいたアイリはビクッとしてクロスの方を向くと、安堵したのか大きく息を吐いた。


「びっくりするじゃない!それでどうだった?」


「程よくまとまりそうだ。まあ面倒だったから抜けてきたが。」


「簡単に抜けれるものなのね。………それはともかく内容はどうだったの?」


 アイリは内容の方が気になって仕方ないようだ。


 クロスは王族たちの話を聞かせてやると、アイリは呆れたような顔をした。


「やっぱり女は行動力よね。待ってばかりでは絶対に損をするわ!」


「俺的にはもうすこしお淑やかにしてほしいところなんだが………。」


「クロスは私の事が嫌いなの?」


 ウルウル瞳でこちらへと近づいてくる。


 クロスは溜息をつきつつアイリを抱き寄せて背中をポンポンと叩いてやる。


 その時に、誰かが扉をノックしてきた。


「アイリ様。王がお呼びなのですが………。」


「今行くわ。」


 アイリは今までのウルウル瞳が嘘のようにスタッと立ち扉を開けて外に出た。


 その時に中を見た兵が驚いている。


「えーっと。報告なのですが、アイリ様と一緒に居る男性についても連れてこいと………。」


 男はこちらを見ながらアイリへと報告をしている。


 クロスは更に溜息を吐いてホース車を出た。


「会談からは抜け出れたんじゃないの?」


「ああ。黙って抜けて出てきた。」


「………あなたね………。」


 アイリは呆れたようにクロスを見たが、仕方ないと言わんばかりにクロスと共に会談の場所へと向かった。


 話し合っているところへ到着する。


 その際に兵士がかなり警戒していたが、クロスは気にしないことにした。


 もう今更な気がしたからだ。


「お呼びとのことで伺いました。」


「そろそろまとまったか?」


 アイリは他の者の手前大人しくしているようだが、クロスは気にもせずに声を掛ける。


 クロスの言葉にアインスとツヴァイは渋い顔をし、サンドラ王国の大臣達は怒ったような顔をしていた。


 その大臣たちが何かを言う前に女王が言葉を掛ける。


「クロス。あなたにはちゃんとこの場に居てもらいますよ。大体の骨子はできたので後は肉づけだけです。」


「そうだぞ。責任はとれよな!」


「それはあんたに言われたくないな………。」


 クロスの言葉に王はバツの悪い顔をする。


「では続きを始めましょう。」


 結局それから3刻ほどが掛かった間に食事を挟んだのでそれくらいかかったのだが、残りに関しては双方共に持ち帰ることでとりあえずは落ち着いた。


 ほとんど聞き流していたが、とりあえず覚えていたことは、この国境の地に新しく城を建てるということだった。


 建てるまでの間に今回の件について双方での意見の擦り合わせを行い、完成時にお披露目と合わせて結婚式を開くそうだ。


 城自体は2年あれば完成するとのことなので、それまでは色々と忙しそうではある。


 その後は双方ともに自らの国へと帰っていった。


 クロスはとりあえず宿へと向かうことにした。


 宿へと着きメイとシャルロッテを連れてドライ家へと向かう。


 ドライ家へと着くと、ナタリアとアリスが迎えにきた。


「いらっしゃい。」


「おかえりなさい。」


「いったいどこに居たんだ?」


「私は最初からこの屋敷に居たわよ?」


 今まで気には掛けていたが、どこに行ったのか全く分からなかった。


 メイに聞いてみると、家に帰っていると言っていたのでとりあえず探すのはやめていたわけだが、なぜここに居るのかが分からなかった。


「ん?ここの従者だったのか?」


「違うわ。もうクロスもドライ家に入ったみたいだし改めて自己紹介するわ。私はナタリア・ドライ。ドライ家の者よ。」


「…………なんだって?」


 ナタリアの言うことが理解できなかった。


「だから、ドライ家の者だって言ってるじゃない。」


「なんでドライ家なのに冒険者なんてやってるんだ?しかも従者にまでなって………。」


「仕方ないでしょう?大事な義妹にお願いされては。まあ私も家督としての順位は高くはなかったし気ままにやれるからよかったけどね。」


「まあ頼まれたのは分かったが、わざわざ従者にならなくても………。」


「従者にならないと傍に居る理由が無いじゃない。恋人なわけでもないし。………お金貰えるし………。」


「まあ最後のはさて置いて、確かに関係ない奴を近くに置いておく理由が無いな。」


 とりあえずは納得してクロスたちはアイリの部屋へと行った。


「アイリはいるぞ?」


 軽くノックをして返事が来る前に入ると、アイリは着替え中だった。


「早く出ていきなさい!」


「おっとすまん。」


 すぐさま扉を閉めて廊下へと出る。


「間が悪いですねクロス様。」


「礼儀が足りないんじゃない?」


「計算していたのですか?」


「なんで出てきたの?」


 メイ、ナタリア、シャルロッテはそれぞれクロスを批難し、アリスに至っては理由が理解できていないようだ。


「ふぅ………。とりあえず待つか。」


 それからは、今度は自身の結婚式だった。


 どうやらアイリは、あの簡易なものでは満足できていなかったようだ。


 そして約ひと月後………。


「クロス様………とうとうこの日が来ましたね。準備は万全でしょうか?」


「(はあ………)」


 メイの言葉に気が重くなるクロスだった。


 自分の番になって、ゼーロー村のギルドマスターの気持ちがよくわかったような気がする。


 何とも言えない気持ちだ。


 純白のスーツを着て、時間が来るのを待つというのは、精神的になにか来るものがある。


 そこへ扉を開けて誰かが入ってきた。


「そろそろ時間。部屋に向かって。」


 入って来たのはアリスである。


 どうやら呼びに来たようだ。


「さあ行きましょう。」


「ああ。」


 部屋を出て通路に出ると母親が待っていた。


「何度見ても高いわね。エドと同じくらい高いんじゃない?」


「そうかもね。」


 クロスは少し疲れたような返事を返した。


 その後母親に連れられて移動する。


 移動してもう一度部屋の中に入り、その部屋の奥にある扉を開いて出た。


 出たところは教会の入口に近い部屋であり、そこから歩いて中央の通路を通り祭壇へと向かう。


 途中にある長椅子にはゼーロー村の人でエドやリリーなどもいる。


 その中を歩いていき、途中で母親は手を離したので、残りの距離をクロス一人で進む。


 到着してしばらくすると、後ろの方で扉を開閉する音が聞こえて、こちらへと誰かが来ているのが分かる。


 その足音が一歩一歩近づくたびに心臓が早鐘を打っているのが分かった。


(結構緊張するもんだな………。)


 そして、クロスの横にとうとうアイリが来た。


 その到着を待って神父からの話が始まる。


(長い………長すぎる。普通は宣誓して終わりじゃないか?これっていつまで続くんだ?)


「………以上によりアイリ・ドライとクロスとの契約文とする。双方ともに異論はないか?」


「「異論なし。」」


 何度も練習させられてタイミングと声を合わせているので、この時も綺麗にはもった。


「ではこの水晶へと手を。」


 それぞれが水晶へと手を置いた………。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 数年後。


「やっぱり外は気持ちいいわね。」


 そこには貴族の服などではなく、平民が着ている服を着たアイリがいた。


「えーっと。あの山があそこにあって、川がここだから………今はこのあたりね。」


 アイリは地図を広げながら位置を確認し、満足そうにしている。


 アイリの見た目はあのころと違い成長していた。


 背は150と少ししか伸びていないが、身体は丸みを帯び、出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでおり、メリハリのついたものとなっている。


「おーい。アイリ。そろそろ出発するからイリーナを頼む。」


 そういって出てきたのはクロスだった。


 クロスは女の子を抱いており、ホース車を降りると、アイリへと子供を渡す。


「マイクは?」


「マイクにはメイがべったりだ。」


 クロスとアイリとの間には子供が二人出来ていた。


 二人は双子であり、それぞれにマイク、イリーナとつけている。


 結婚式を挙げてから色々とあった。


 クロスは地図を完成させたいのと、いろんなところを見て回りたかったので、アイリへと交渉した所、アイリとセリスにそれぞれ子供が出来たのならばいいということになった。


 しかし出来たら出来たで、生まれてばかりなのに、ほっといてどこかに行くのかなどと言ってくる。


 クロスとしても置いていくのには抵抗があったので、一緒に連れて行くことにしたのだ。


「あとセリスは子供と一緒に寝てる。」


 セリスとの間にも子供が出来ていた。


「あとどれくらいで到着するの?」


「そうだな。後2日もしないうちに到着するんじゃないか?」


 今はベルン王国を離れてサンドラ王国内を旅している。


 数年前の双方の国の王族同士の結婚により、国交は一応回復していた。


 貿易などについても始まり、今では頻繁に行われている。


 クロスは国内の地図は既に完成させているため、現在サンドラ王国の地図を作成していた。


 数年というのがあまりにも待てなかったので、こつこつと時を止めながら作っていったのである。


 クロスとアイリが屋敷を離れるに際して、任せてきたのが、ナタリアだった。


 ナタリアは文句を言いつつも、数年したら戻る約束をして一応納得してもらっている。


 そこにアリスとシャルロッテをサポートとして置いてきた。


 アリスとシャルロッテは付いてきたがっていたが、アリスは説得し、シャルロッテは普通においてきた。


 きっと次にあったら愚痴をかなり聞かされることだろう。


 最初は結婚してからのストレスはあったが、今ではそれに慣れたのか苦とは思わずに楽しんでいる。


 特に働いているわけではないが、お金は数年暮らすには十分にある。


 気ままな旅にて、家族と共においしいものを食べたりしながら、色々な所を回るというのはとても新鮮で楽しかった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「やあ。元気そうでなによりだ。」


「ん?誰だ?」


 クロスは視界の聞かない空間にて誰かに話しかけられた。


「はあ………。完全に忘れているね。君は僕だし僕は君だよ。」


「意味が分からないな。」


 相手は少し呆れたような感じだったが、その後に話した言葉の内容がクロスには理解できなかった。


「まあいいさ。そろそろ僕も回復したし、君に戻ろうと思う。」


「つまりどういうことだ?」


 回復したということも分からなければ、戻るという意味も分からない。


「ん~。やってみれば分かるよ。では準備はいいかい?」


「いや。まずは説明してほしいんだが。」


 なにやらこの会話にはデジャヴのような感覚を受ける。


「やった後で教えてあげるよ。」


 なぜかこの言葉は自分の言葉のように聞こえてきた。


「特に危険ではないんだな?」


「危険はないよ。」


「では頼む。」


 なぜかあっさりと信用してしまい、返事をする。


「ではいくよ。」


 視界は以前として暗いままだが、なにやら身体を包むような感覚の後に何かが身体へと入ってくるのが分かる。


 その感覚は嫌なものではなく、とても心地の良いものだった。


 いうなれば、失われていた体の一部が戻ってきたようなそのような感じだったのだ。


 そして目が覚めた。


「特に変わったところはないかな?」


 クロスは自身の身体を起こして見てみるが、特に変わったところはなかった。


 その音に気が付いたのか、メイが起きたようだ。


「クロス………様?」


「何?」


「いえ………何かありましたか?」


「いや。特に何もないよ。ただ幸せを噛みしめているだけだよ」


 そういうとクロスはホース車を出て空を眺める。


 世界はまだまだ広く、クロスの行ったことがある場所は、この星のほんの一部分にすぎない。


(まずは、数年たったら約束通り戻って、今度は正式に後を継がせることにしよう。そしたら晴れて自由に動ける。折角見知らぬ土地に来たんだ。楽しまないと。)


 クロスは未来の事を考えて笑みをもらすのだった。


一応終了です。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


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