135話 理由・制度
城の中に入ると、そこは衛兵たちの待機場のようで、入ってすぐ横にカウンターがあり、そこに衛兵が一人椅子に座っている。
その奥には机と椅子があり、数人が座っていた。
その部屋を出ると、さらに通路に出たので、正面の門の方へと移動する。
通路の扉を開けると、広いホールになっており、城の奥の方に幅の広い2階へと続く階段があった。
階段を上がったところにある両開きの扉を開くべく駆け上がる。
(ここを開いたら謁見の間かな。)
クロスの予想通りそこは謁見の間ではあったが、目的の人物はいなかった。
王の座っているであろう椅子の後ろの方にある扉へと入ってみる。
そこは通路となっており、部屋がいくつか並んでいる。
(端から順番に見ていくか。)
通路の一番端の扉を開けると、上へと続く階段だったため、後回しにして他の部屋を見ていく。
ほとんどが服だけの部屋や身だしなみを整えるための部屋ばかりで、居たとしてもメイドのような恰好をした者たちばかりだった。
クロスは諦めてさらに上へと上がる。
(やはり兵の数が少ないな。)
サンドラ王国は戦争に人を送っているためか、城内の兵の数がかなり少なかった。
途中途中にある部屋を開けて中を確認しつつ進んでいくと、捜していた人物を見つけることが出来た。
今まで見てきた人たちとは違い、肌の色が濃かった。
ほとんどが白い肌なのに対して、明らかに濃い肌色をしていれば嫌でも分かるだろう。
ただ問題は2人居り、どちらを連れて行くか悩むところである。
部屋への鍵代わりであろう閂を掛けて、まずは王族であるか確認する。
扉の前に陣取り時を戻す。
「少しいいか?」
クロスの言葉に2人は驚いたように、一斉にこちらへと振り向く。
「いつからいました?」
しばらく驚きで固まっていたようだが、先に再起動を果たしたのは年上の女の方で、もう1人のクロスより少し年上くらいの男は未だに固まったままだ。
「いつからなどどうでもいい。質問はこちらからだけだ。…あんたらがサンドラ王国の王族で間違いないな?」
「だったら何だというのです?」
正確に答えを返してきたわけではないが、ただの確認のようなものなのでよしとする。
「今戦争を仕掛けているだろう?理由を聞きたい。」
かなり警戒しているようだが、クロスの意図が分からないのか、少し考えて答えてくる。
「それを聞いてくるということはあちらの人間ね。…良いでしょう。教えてあげるわ。」
どうやら話す気になったようだ。
一応魔法無効化を詠唱しておく。
こちらの詠唱に対して、男の方が抜剣し襲いかかってきそうになったが、女の方に止められる。
「特に俺から害するつもりはない。ちょっとした保険だ。」
クロスの言葉に女は頷き、詠唱が完了してから話し出す。
「あれは数十年前のことよ…。」
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--回想--
「こんにちは。」
突然かけられたら声に振り返ると、同年代の子がこちらへと歩いてきているところだった。
その時の場所は、城の屋上にある庭である。
ここに立ち入るの者は基本的に王族しか居らず、定期的に庭師がくるくらいだった。
しかし、今目の前まで歩いてきている人物は今までに見たことがない。
始めは新しい庭師かとも思ったが、若すぎる上に、着ている物が自分の着ているものと遜色ないことから、王族ないしは貴族かと考え直した。
しかし、今のサンドラ王国では見たことがない。
年に数回行われるパーティーで必ずと言っていいほど、有名貴族は出席しているので、見たことがない子供などこの城にいるはずがないのだ。
不思議そうに少年を見ていると、更に話しかけてきた。
「挨拶聞こえなかったか?もう一回いうぞ?こ・ん・に・ち・は!」
少年は少女が絶対に聞き逃さないように近くで大声を上げたため、少女はあまりの煩さに耳をふさいで座り込んでしまう。
「どうしたんだ?」
少年は自分がやったことで座り込んだなど全く考えずに問いかける。
「………あなたの声が大きすぎる。」
「なんだ。聞こえてるじゃないか。」
「あなたは誰?」
「俺か?俺は………
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「ここからは言わずともわかりますね?」
「いやいや。今からが肝心な所だろう?それが今の状況とどうつながるんだよ?」
「察しが悪いですね。」
女はここまで言ったのにまだわからないのか?と、まるで出来の悪い生徒を見るかのように接してくる。
「実はベルン王国からの刺客だったとかそういう流れか?」
女は深く溜息をついた。
「ここからはあまり言いたくはないのですが………、あの後、色々とあって別れの際に将来結婚する約束を交わしたのです。」
「は?」
「え?」
女の言葉にクロスばかりではなく男の方も驚いている。
「それは本当ですか母上?」
「ええ。それをあろうことか………その約束を破っただけではなくその約束を忘れた上に、違う者と結婚したのです。………更に!私を結婚式へと呼んで放った言葉がなんだと思いますか?」
「いや………見当もつかないが………。」
「お前もそろそろ結婚したらどうだ?そんなことでは婚期を逃すぞ?………その他にも色々と言われました!」
これは言ってることが本当であれば、王の方がひどいように感じるが、小さいころの約束である。
忘れたとしても仕方がないように思えた。
そこで一応自国の王を弁護してみる。
「いや………一応子供の頃の約束なんだし「12歳の頃のことを忘れますか!?しかも結婚したのは15の時なのですよ!?3年後なのですよ!?」……まあ忘れないよね………。」
完全にフォロー失敗である。
女も話しているうちに思い出してきたのか、怒りのボルテージがどんどん上がってきているようだ。
「だから母上はあんなにもベルン王国を憎んでいたのですか………。」
どうやら息子は理由も知らなかったようだ。
よく見ると若干呆れたような目を母親に向けている。
しかし母親は一人で愚痴のように延々としゃべり続けている。
「とりあえず!2国!………というか王族同士で話し合ってみてはどうだ?」
あまりにも長い愚痴を遮りクロスは提案した。
話を聞く限り、王族同士の問題であり、それに民が巻き込まれるのはたまったものではない。
「そうですね。向こうが国境付近まで来るのなら考えましょう。」
「まずは兵を引かせろよ………。」
「そのあたりの運用に関しては大臣に一任していますので、よくわかりませんわ。」
どうやら戦争のやり方については、大臣などの下の者に丸投げのようだった。
「そういえば、結構人で賑わっていたが、徴兵などはしないのか?」
「徴兵とはなんです?」
「まあ簡単に言えば、民に戦争などが起こった際、兵士としてとりたてることだな。」
「なぜ民が戦わねばならないのです?それは兵士や奴隷が行えばよいことでしょう?わけの分からないことを言いますね。」
どうやらサンドラ王国では奴隷制度があり、兵士がその奴隷を使って戦争をしているようだ。
奴隷と言っても、国の奴隷であり個人での奴隷は無いようだった。
但し、抜け道として一定期間の貸し出しはあるようだったが……。