134話 発見・潜入
クロスが部屋から出て城から出るべく歩いていると、城の衛兵に簡単に見つかってしまった。
時を止めていると思っていたため、まったく気にしても居なかったのである。
慌てて通路の角にて時を止めて城を跡にする。
城から出て、入った時と同じように茂みに入り時を戻す。
それから何食わぬ顔にて宿へと戻っていった。
宿の中も外と同じように慌てていると思っていたが、そんなことはなく通常通りの営業をしていた。
受付にて鍵を貰い部屋へと行く。
中ではメイとシャルロッテが待っており、テーブルの上には食事が準備されていた。
「おかえりなさいませ。」
「おかえりなさい。」
「ああ。ただいま。ちょうどよかった。話したいことがあるんだが、腹が減っていたんだ。」
「それは丁度良かったです。料理は先ほど届いたんですよ。」
準備などを考えると、返ってきてからすぐに注文しないと間に合わないような気がする。
「準備がいいな…。食べるか。」
「こちらへどうぞ。」
メイが椅子を引きクロスを待っている。
「メイ。そういったことはしなくてもいいと以前言わなかったか?」
「それは失礼いたしました。」
特に悪びれた様子もなくメイは自分の席へと着いた。
「この部屋では3人だと手狭だな。」
「それは私に出ていけということですか?」
メイが若干むっとしたような声にて言ってくる。
「そうですよね。後から来たような者が我が物顔で居座ってはご迷惑なんですよね。私なんかいなくなればいいんですよね。」
メイは無表情のままネガティブ発言を連発しているので余計に怖く見える。
「いやいやいや。そんなこと言ってないだろう?メイは居ても全く問題はないさ。」
「言質を頂いたところで安心しました。これからもクロス様の身の回りは私が行います。(早くクロス様の子が欲しいものです。クロス様との子ならあの頃のクロス様が戻ってくるに違いありません。)」
「なんという罠だ…。」
「ということは私が………。」
今度はシャルロッテが、クロスの発言により顔が真っ青になっていく。
「部屋が手狭だというだけでなぜここまで話が膨らむのか不明だな…。」
クロスはシャルロッテへのフォローをするのを諦めて食事をすることにした。
「メイさんの時には引き止めたのに、私の時にはそれがないということは…。」
メイを見るとどこか勝ち誇ったような顔をしている。
そんな二人の心情は置いておいて、クロスはこれからのことを説明した。
「ということはこれからアンドラ王国へと向かわれるのですか?」
「そうだね。ぱっと行ってぱっと戻ってくるよ。」
「そのように簡単にいくとは思えないのですが…。」
メイは心配そうにこちらを見てくる。
それはそうだろう。
今から戦争をする相手国へと行き、王族を攫ってくるなど正気の沙汰とは思えない発言である。
しかし、クロスにとっては造作もないことだった。
食事を終えて一息ついたところで行くことにする。
「まあ、とりあえず行ってくる。メイとシャルロッテはここで待っていてくれ。もし危なかったらドライ家を頼るといい。そんなことは起こらないとは思うが。」
クロスは部屋を出たところで時を止めて隣国へと向けて走り出した。
ひたすらに西へと向けて走るが今回は地理的なものを知らない為、どこまで走るのか分からない。
街道をひたすら西へと走り抜ける。
途中でさすがに時間が掛かりすぎると感じて身体強化魔法をかける。
どれほど走っただろうか、途中で町を1つ通り過ぎていく。
体感的にはここまでで一日程ほど走っただろうか?
前方に黒煙が見え始めた。
(あそこが戦端が開かれている場所か。)
そこでは砦があったが、あるだけで所々ボロボロに崩されており砦としての機能は無いに等しかった。
敢えて言うならば遮蔽物として利用できる点だろうが、それは相手にもいえることであり、有利不利どちらともいえないだろう。
その中を相手国へ向けてさらに走る。
地面は所々が陥没しており走りにくいことこの上なかった。
しばらく走るとまた街道が始まり、立札が立っており、内容からサンドラ王国に入ったことが分かる。
(道を整備するのにどれくらい大変か分かってんのか!………いや、魔法を使えば簡単か?)
どうでもいいことを考えつつさらに西へと走る。
さらに一日程走り抜けると王都と思わしき場所が見えてきた。
(あそこがサンドラ王国の中心だな。走って二日くらいか?さすがに精神的に疲れるな。)
肉体的な疲れは無いとはいえ、ただ走るだけというのは精神的に疲れるものがあった。
途中途中周りの景色を眺めながらでなければ、途中で気分転換でもしていたことだろう。
さっさと王族を探すべく城下町へと入っていく。
サンドラ王国の中心部サンドラは下層・中層・上層・城とが壁にて仕切られており、完全に区域分けがされていた。
下層には、畑やそれを耕しているであろう農民たちと、その住まいがところどころにある。
下層から中層までの距離が、500メル近くあることを考えるとかなりの広さなのが分かるだろう。
ほとんどが畑であり、入口から中層の入口までには綺麗に石が敷かれて整備された道が続いていたが、それ以外には農道のようになっており、人が何度も通ったりしたのだろう、踏み固められて整備されたかのようになっている。
所々に柵があり牧場も見えることから、もしかしたらこの下層だけで食料を賄っているのかもしれない。
中層の門を潜ると、下層と同じように上層へと向けて石畳にて舗装された道が続いており、その両脇に店が連なっていた。
結構活気があるようで、通路には人が溢れている。
通行人が邪魔なため、建物の上を通って周囲を見ていると、中央の通りから外れた道でも、商店や住宅が散らばっており、そちらについても人が溢れているのが分かる。
下層にある家は木で出来た小屋のような感じであったが、そことは造りも変わり、石で出来た良いものとなっている。
これだけの人に溢れていると、この出歩いている人たちに戦争をしている意識があるのか不明な所だった。
さらに上層の門を潜り中へと入ると、完全に別物で高級住宅街といえるものだった。
一軒一軒が石で出来た屋敷になっており、敷地自体も広く、庭まで付いている。
道についても、中心の道だけ整備されているわけではなく、脇道についても綺麗に石畳が敷いてある。
さらに言えば、ゴミなども見当たらず、隅々まで清掃されているようだった。
出歩いている人をよく見ると、着ている物についても良いものを着ているように感じる。
中層との他の違いは、それほど人が出歩いていないところだろうか。
この国はかなりの貧富の格差が激しいようだ。
クロスはその中を走り抜け城へと辿り着く。
そのまま城の門を開け入ろうとしたが、開けることが出来なかったため、横の通用門から中へと入った。