132話 招待・正体
アイリも忙しそうなため、またにしても良かったのだが、アイリからの伝言の裏を読むと、王城にて待っていると言うことを暗に言っているような気がしたため、王城へと向かうことにした。
王城の前を延びる通りはいつも通り人で溢れかえっていたが、その顔を見るとどの顔にも不安や焦りの表情が見て取れる。
中には全くの無表情の者もいるが、内心ではどうかわからない。
ただ、これからの事を考えてなのか、店の物を買いあさっているようだ。
確かに移動するにせよ家に閉じこもるにしろ色々と物は必要だろう。
王城の登り口付近の、人目のつかなそうな場所へと行き、先ずは潜入ようのマントを取り出し、それを羽織ってフードを被り時を止める。
そして悠々と王城へ歩いていった。
王城の正門から入るのは初めてだが、こちらから入った方が、何処に何があるかが分かり易かった。
とりあえず以前の間取りを参考に、王の執務室付近から捜していく。
同じフロアを捜してみたが見当たらず、さらに下へと結局虱潰しに捜すことになった。
ただマシだったのは、下に降りて2つ目の部屋に居たことだろう。
円卓を囲み、一番奥から王…ヌル家、そして時計回りに、アインス家、ツヴァイ家、ドライ家、フィーア家となっている。
ドライ家の場所にはアイリが座っており、他のメンバーの中にあるとかなり目立つ。
他は最低でも40は超えていそうな者ばかりだ。
そのような中にあって、緊張した様子もなく佇んでいるアイリは流石と言えるだろう。
アイリの目の前に広げられた書類をメモ帳代わりに、少々書き込む。
円卓の王の位置からは死角となる位置にて時を戻す。
王には以前見つかっているので、今回は視界に確実に入らないようよく確認して行った。
「ィーア家には物資………。」
時を戻してすぐに、話していたであろう王が唐突に言葉を切った。
クロスはアイリを観察していたのだが、アイリが何故かこちらを向いたのである。
よくみると、ツヴァイ家とフィーア家も何故かこちらを見ていた。
この調子では他の2人も見ているのは間違いないだろう。
フードを更に目深に被り仕方なく棚の陰から姿を出す。
「嘘をついたな…。」
「嘘をついたつもりはないさ。君が勘違いしただけだ。」
「肝心なことを言わずに、勘違いするように仕向けた本人がよく言う。」
他の面々は王と話すクロスが何者なのかわからないので、王とクロスを交互に観察していた。
アイリだけはクロスの方をジッと見つめている。
「それは君の方も同じ事が言えるだろう?おあいことしようじゃないか。それで今度は何のようだい?」
王はどうでもいい話は終わりにして、本題に早く入れと言っているようだ。
「まず確認だが、戦争になるのは間違いないのか?」
「報告が本当であれば間違いないだろう。元々水面下でやり合ってたんだ、いつ起こっても不思議ではなかったな。」
どうやら世間には知られずに行われていたようだ。
「何が原因なんだ?」
戦争をするからには何かしら理由があるはずだ。
理由もなく戦争をすることなど有り得ないのだから。
「理由は分からないな。」
「は?」
あっさりと有り得ないことを言ってくる。
「と言うのも、長く続きすぎたせいで理由が分からなくなっていると言った方がいいかもしれん。こちらが忘れただけで向こうが覚えているかもしれないがな。昔はいい奴だったんだが…。」
王はなにか懐かしむように遠い目をしている。
その時に足を何かが束縛した。
その瞬間にアインス家とツヴァイ家が動き、喉元に短剣を突きつけてきた。
「さて、今度こそ色々と話してもらおうか。」
どうやら王が話していたのはこちらの油断を誘うためだったようだ。
クロスの両脇にはアインス家とツヴァイ家が陣取っている。
アイリの方を見ると顔を青ざめさせている。
恐らくフードの中身がクロスであることに気付いたのだろう。
フィーア家は静観しているようで、今のところ動きは見られない。
クロスは状況を確認し、王の言葉に応える。
「前回の目的は本心だ。今回は約束があったんでそのついでという所かな。」
(これで大体分かったな。王の属性に木があることと今回の魔法による束縛を関連付けすると、最初から魔法を使っていたと言うことだろう。かなりの魔法力が必要なはずだが、各家は魔法力が多いみたいだからな、これくらいは出来るんだろう。そして部屋の中に居たのが分かったのは、王の木属性魔法の範囲内に居たから…と言ったところか。)
「その知り合いとやらにも興味があるな。洗いざらい話してもらおうか。」
どうやら王は既に捉えた気でいるようだ。
クロスは小さく呟き時を止める。
無属性魔法にて木を消し去ろうとしたが、消し去ることは出来なかった。
(まさか、木属性の魔力が1とはね…。)
現在のクロスの無属性は魔力2であることを考えれば、おのずと分かるが、まさか王が魔力1とは思っても居なかった。
仕方なく長剣にて切り裂き抜け出してクロスの居た場所に王を配置する。
そしてクロスは王の居た場所へと座り時を戻した。
「さて、形成逆転ってところかな?」
先ほどまでの位置を入れ替えたことにより、アインス家とツヴァイ家の当主は驚きと共にすぐに手を引く。
王は目を細めるとクロスを興味深そうに見始める。
「形成は最初に戻っただけだと思うよ?」
「今の出来事の意味を考えれば違うと分かるだろう?」
「………。」
王は黙ってしまい、その両脇の二人も黙ってしまった。
その沈黙を破ったのは………。
「クロス。いい加減にして。」
アイリだった。
「上御三家には私が成り代わり謝罪いたします。この度は失礼いたしました。この者は私がここへ来るように仕向けたものです。」
「はあ。言ってしまうのか…。」
「クロス!」
「はいはい。」
クロスはフードを取り素顔を表す。
「お主は…。」
「「クロス?」」
アインス家の当主とは宿屋で会っており、顔を出したことで気付いたようだ。
王とツヴァイ家の当主はクロスという名に聞き覚えがあったのか、しばし考え込んでいたが、武闘祭を思い出したのか合点がいったようだ。
「武闘祭に出場していたあいつか…。」
「知り合いというのはドライ家のことだったか。」
「とりあえず。武闘祭終わったら顔見せろって言っただろ?家に行ってみたら居ないし、執事に伝言で王城に居るとか言われたからさここまでわざわざ来たんだぞ?何も言わずにどっかいったら怒っただろ?」
「それはそうよ!あなたは私のなんだから!武闘祭が終わったら式を挙げる予定だったのに!」
「いやいや。なんかそれ死亡フラグっぽいぞ?」
「死なないわ!」
しばらく言い合っていると、笑いながら拍手をしているフィーア家の当主?がいた。
「あなたたち面白いんだけど、そろそろ真面目な話がしたいわ。アイリはどうする?席を外すの?」
「ごめんなさい。………とりあえずクロスはそこを退きなさい。」
「はいよ。」
クロスは椅子から立ち上がりアイリの横へと進む。
興味深く見ていた王とあまり納得のいってなさそうなアインスと不満そうなツヴァイはそれぞれが席に戻る。
「とりあえずこの件は後程ドライ家に償ってもらうか…。」
「わかりました…。」
「そうだな。」
「なんであなたが賛同してるのよ!」
怒ったアイリに腹を殴られた………全く痛くはないが………。