131話 換金・約束
突然競技会場全体に分かるような鐘の音が響いたのである。
クロスのその音に反応して後ろへと飛ぶ。
オスカーも同様に距離を取り、状況を把握するべく周囲へと意識を向けた。
よくみると王の元に人だかりができている。
何かがあったのだろう。
一応オスカーへの警戒を解かずに待つことにした。
しばらく待つと王の言葉が伝えられる。
「皆の者。今年の武闘祭は中止とする。」
その言葉を放った時に観客席に座っていた者たちはざわざわと騒ぎ出した。
「予てよりちょくちょくと攻撃を仕掛けてきていた、西のアンドラ王国がとうとう動き出したとのことだ。」
さらなる言葉に観客たちのざわめきは大きくなる。
クロスはとりあえずメイたちと合流するべく歩き出した。
「おい!」
オスカーの掛けてきた声に振り向く。
「またやろな。」
「ああ。こちらからもお願いするよ。」
クロスはそういうと、進行方向へと向き直り片手を上げて返事とし、歩いていく。
クロスもオスカーもこのような形で試合を止められたままでは、不完全燃焼なのは間違いなかった。
王はさらに何か言っていたようだが、気にせずに進む。
途中耳に入ってきた言葉の中に、残念ながら賞金は等分で配られるので、ギルドへと行くように言っていたのが特に印象に残っている。
観客席の方へと向かうと、観客たちは家へと帰るようで、観客の波に抗いながら進んでいく。
(多少目立ってもいいから広場の方から行くべきだったか…。)
結構な高低差はあったが、無理な高さではない。
少し後悔するが、ここまできてしまったので、引くのも面倒とこのまま行くことにする。
通路を抜け出て時を止めれば良かったとさらなる後悔をし、気持ちを切り替えてさっさと向かうことにした。
メイたちは元の位置…VIP席の近くにて待っていた。
「ただいま。」
「お帰りなさいませ。」
「お帰りなさい。」
これから戦争になるかもしれないというのに、メイもシャルロッテも特に慌てるようなこともなく出迎えてくる。
「惜しかったですね。」
「まあ、仕方ないさ。それよりもこれからだが…。」
「はい!」
シャルロッテが元気良く手を挙げる。
「なんだ?」
「掛け金が返金されるそうなので、ギルドにいきたいです!」
「まあ、俺も賞金が貰えるらしいから行きたいが、今行くとだだ混みじゃないか?」
あの王の後に係員が、賭けについてもギルドにて対応すると言ったため、今頃ギルドは人だかりでてんやわんやになっているだろう。
しかも、隣国から攻めてきているという話まで出たのだ。
それが拍車を掛けているだろう。
王都と心中…運命を共にするか、それとも安全な地域にいどうするかで分かれる。
王があの場で公開したが、混乱がこれくらいですんでいるのは、以前の戦争にて勝利しているからかもしれない。
ギルドにて金銭の受け渡しをすることで、冒険者に傭兵としての依頼も出せるので、その手間も含めて話したのかもしれない。
真相は現段階では不明だが、かなりのやり手そうにみえたので、色々と考えているのだろう。
「ではどうしましょう?換金は明日の昼までで終わるそうなのですが…。」
シャルロッテは困ったような顔をしているが、実際に換金したら半額以下となるのは目に見えていたので、とりあえず保留とする。
「先に宿に戻っておいてくれ。」
「分かりました。…クロス様はどうされるのですか?」
「俺は一応約束があるからそれを果たしに行く。」
メイは約束の内容が分からないので、何のことか聞きたそうにしていた。
「詳しくはシャルロッテに聞いてくれ。それではまた後で。」
クロスはこれ以上何かを尋ねられる前にその場を後にする。
競技会場は未だに人が流れており、その中を行く気も起きなかったので、選手用の通路を通り抜け外へと出る。
外に出てしまえばこちらのものである。
屋根伝いに住宅街へと向かう。
目的の場所……ドライ家に到着し、近くに居た者に声をかけてみたが、まだ戻ってきてはいないようだ。
その時に屋敷のほうから老執事が現れた。
「クロス様でございますね。主から伝言をいただいております。」
どうやらアイリは、まだまだ戻っては来ないようだ。
内容を確認すると、王城にて今回の対応策などを練るそう。