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126話 シード・疲れ

 クロスが部屋へと入ると、前に試合をしていたルチアは、まだ部屋の中にて椅子に座っていた。


 説明は既に終わっているようで、寛ぎながら紅茶を飲んでいるようだ。


 クロスも近くの椅子へ座ると、ルチアの近くに居た係員が見計らったように説明を始めた。


 クロスの持っていた長剣については、この前の部屋にて既に魔法にて収納済みである。


「クロス様お疲れさまでした。早速ですが、明日の説明を行います。明日は本日と同じ時刻に来ていただいて試合の方法についても同様です。但し1名につきましては余りますので、王家またはアインス家・ツヴァイ家・ドライ家・フィーア家から選出されました1名と戦っていただきます。」


(どうやらシード扱いというやり方はしないようだな。)


 その後も前回と同じような注意点の説明を受けて説明は終わった。


(そういえば宿に置いてきたが、宿は一応今日までだったな。延ばしておかないとな。)


 そう考えてクロスは部屋を後にする。


 ルチアは未だに部屋に残り、紅茶を楽しんでいた。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「あれがドライ家のコレってほんとかしら?」


 ルチアは紅茶のカップを持ちながら小指を上げる。


 ルチアは独り言を言ったわけではなく、部屋にいた係員へ向けて尋ねたものだった。


「情報ではそのように聞いております。」


 この係員もルチアと同じ家名の従者であった。


「それにしても最近流行ってきているハリセン?だったかしら?あんなのに負けたら実力差が有り過ぎて今までの自分が全否定されそうで怖いわね。」


「あのハリセンですが、銅板を貼って補強しているそうです。」


「………ハリセンに意味あるの?」


「恐らくないでしょう。」


「まあいいわ。それにしても武闘祭ってあまり出たくはないのよね~。どうせ王家直属のヨハンが勝つだろうし。」


 ヨハンは、何時もは重鎧など着ていない。


 今着ている重鎧は王家にて保管されている宝の一種だった。


「確かに、王家があの鎧まで出してくるとは思いませんでしたね。」


「聞いた話だと、あの鎧って魔法の品なのよね?」


「そのように聞いています。今は無き魔工師たちが作った逸品だとか…。」


「フィーア家にも無いかしらね…。」


「確かありましたよ。」


「あるの!?」


「今は旦那様がお持ちのはずです。」


「なんであの趣味人が持ってるのよ…。」


 フィーア家の当主は、魔法力はあるが特に身体能力が高い訳ではなく、むしろ身体は肥えており悪かった。


 フィーア家と言ってもルチアは奥方の方の従者であり、何かと当主を毛嫌いしていたりする。


 奥方が当主と何故結婚したのか謎だった。


「その趣味に使われているようです。」


「庭弄りしかしてないでしょう?一体何に使ってるの?」


「一応彫刻もされてまして、石を削るのに使用しているようです。短剣なので特に疲れず持つことが出来て良いとおっしゃっていました。」


「なんて無駄遣いを…。でも短剣で彫刻ってどうやるのかしら?」


「どのような鉱石も軽々と削れるようです。」


「………勿体なさすぎね………。」


「後未確認ですが、他家にもそれぞれあるようです。物や効果内容などについては不明ですが…。」


「ないものねだりしても仕方ないわね。気分を切り替えて明日の試合も頑張りましょう。私のお小遣いの為に!」


「フィーア家ではないのですね…。」


「それはそれ!これはこれよ!」

 この後クロスの試合内容を聞いてやる気ががた落ちするルチアだった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 クロスは宿へ戻ると受付にて宿泊の延長を行う。


 早ければ明日で終わるかもしれないが、遅いと明後日までかかってしまいそうだからである。


 延長が終わり部屋へ戻ると、機嫌の悪そうなシャルロッテが待っていた。


「今更どうやってとか理由は置いておくとして、この紙に書いてあることはどういうことか説明してください。」


 シャルロッテは、紙をクロスに見えるように突きつけてくる。


「説明も何もそのままなんだが…。」


 紙には、


--------------


見知らぬ人について行くな馬鹿


宿で大人しく待ってろ馬鹿


--------------


 と書かれてあった。


「分からないから聞いてるんです!」


「(はあ…)おいおい説明するから、まず何故あそこで食事していたか聞こうか。」


「えっとですね、私が買い物の為に大通りを歩いていたんですが、前から歩いてきた方と当たっちゃいまして、その時に引っ掛けたみたいで私の服が少し破けてしまったんです。弁償すると言って聞かなかったんです。断ってたんですが、それなら食事でもと言うことで食事をご馳走になってたんです。あそこは隠れた名店らしいですよ。


 あまりの内容にクロスは脱力感を味わっていた。


「簡単に人を信用するなと何度も言ったよな?どうしてついて行ってしまうんだ?」


「逆になんで人を信じる事が出来ないんですか?」


 人を疑うことを覚えたと思った矢先にこれである。


 クロスはまたも溜め息を吐いて教えてやる。


「シャルロッテの居た場所は裏ギルドに関係する場所だ。理由はお前の横に座っていたやつはカードの状態が盗賊だったからな。理解できたか?」


「そんな………でも盗賊の人にだっていい人も居るのでは……。」


「いい人が盗みを犯すのか?いい加減現実を見ろと言ってるだろ。」


「………。」


 シャルロッテは最初の威勢がどこかに飛んでしまったようで、肩をガックリと落とし落ち込んでしまった。


「今後近づいてくる奴はみんな盗賊だと思っとけ。………ところでちゃんと財布は持ってるんだろうな?」


「勿論ですよ。肌身離さずちゃんと胸に………胸に………あれ!?」


 シャルロッテは、首の部分から下がっているはずの紐を探して、首の周りに手を這わせまわす。


「で?どこにあるって?」


「ちょっと待ってください。」


 シャルロッテは着ている服を脱ぎだし上半身だけ下着姿となる。


「何度探してもないだろうよ。」


「………分かりました。………クロスさんが盗ったんですね!」


「お前は馬鹿か………。」


「人を疑えと言ったじゃないですか!教訓を与えるために盗ったのでしょう?」


「そんな面倒なことはしていない。………とりあえず宿泊を延ばしておいたから今日は大人しくしていろ。俺は少し出てくる。飯は勝手に食っておけ。」


 そう言い残しクロスは宿を出る。


(さて………ゴミ掃除でもするか………。)


 夕刻に近づいてきた町の中をクロスは裏通りの方へと歩んでいった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「ナタリアもう少しです。」


「……そろそろどこかで寝ましょう。」


「そんなことをしている暇はありません。予定通りであれば明日に武闘祭は終わってしまいます。私たちには休んでいる暇はないのです。」


「いや………私は別に休んでもいいかと………。」


 なんてことを言うのでしょう。


「そんな弱音は聞きたくありません。」


 私はナタリアの言葉を切って捨てます。


 きっと疲れで正常な判断力が鈍ってきているのでしょう。


 確かに半日ほど走り続け、シュトラウスからホース4頭を使いほぼ休みなく進んでいます。


 しかしもう少しです。


 明日の朝には王都へと入れるはずです。


 この調子でいけば少し早く到着できますが、その時間をこのような場所で消費してしまうよりも、王都の近くにて休んだ方が安心というものです。


 ナタリアには今少し我慢してもらう方向で行きましょう。


 待っててくださいクロス様!


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


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