124話 2試合目・3試合目
「ただいまの勝利は5番のポール選手です。惜しみない拍手を!」
終わった段階である程度拍手はされていたが、係員の一声により更に大きな拍手へと変わる。
「さて次の試合へと進みましょう。選手の方はまた広場の方へと来てください。」
試合の終わった前の組の選手が広場を後にしてから、クロスたちは広場へと集まった。
ここまでで既に昼前になっている。
それを考えると前の試合はかなり長い時間戦っていたことが分かる。
「では次の番号を発表します。次の番号は7番!7番のヨハン選手はあちらへ移動してください。」
7番のヨハン選手が移動し終わってから次の水晶が引かれる。
「次の番号は8番です。8番のニコラス選手あちらへ移動してください。」
8番のニコラス選手が移動するのと同じくして、クロスたち他の選手も通路へと移動する。
(この試合は8番が少し有利かな?)
8番のニコラス選手は風と木の属性を持っており、完全な魔法型だった。
今まで使っていた魔法から察するに、両方の属性の魔力についても4以下であるのは間違いないだろう。
それに比べて7番のヨハン選手は重鎧を纏っており、手には槍を持っている。
移動するたびに通った土の地面が陥没していたことから、かなりの重量があると思われた。
戦う時には、移動で風属性魔法にて補助を使っているのが分かったくらいで他の魔法は見ていない。
しかも、予選とは違い相手との距離が短くなったとはいえまだ50メルある。
クロスの素の状態で走っても、最低一発は魔法を受けることからもヨハンが走った程度では何発受けるか分かったものではない。
ただ、未だに風属性魔法しか使っていないことから、他の属性を使った総合的な戦い方が見られるかもしれないとクロスは少し楽しみだった。
試合は、クロスたちの移動が完了してから始まった。
予想通り、ニコラスはその場にて詠唱を行う。
その間ヨハンはというと、ゆっくりと移動しながらニコラスへと向かっていた。
見る限り特に慌てた様子もなくゆっくりと向かっている。
そしてニコラスの魔法の詠唱が完了した。
ニコラスが使ったのは『ウーア・ゲヴァルト』という風属性魔法の魔力2の魔法である。
広場にて5mはあろうかという竜巻がヨハンへと向けて進む。
ニコラスは一気に勝負を決めるつもりなのだろう。
しかしここで思いもよらぬことが起こった。
ヨハンは特に避けるでもなく、自ら竜巻の方へと進み、竜巻の中へと入ってしまったのだ。
(何がしたいんだ?)
竜巻にて周りの土ぼこりが舞い上がり中の様子は分からない。
ただ、しばらくすると竜巻から何事もなく歩いてくるヨハンが居た。
鎧には砂埃が付いた程度で特に何もないように見える。
移動速度から考えるに、そのまま歩いてきたのだろう。
対戦相手であるニコラスは唖然としていた。
残り30メルになったところで我に返ったニコラスは再度詠唱に入る。
今度は風属性と木属性の合成魔法である『ドナー・シュラーク』を使用する。
合成魔法である雷はヨハンの上部に集まり落雷のように一気に落ちる。
しかし無情にもヨハンには効かなかったようだ。
全く歩みを止めずに進んでいる。
合成魔法すらも効かず最終的にはニコラスが降参する形になった。
それもそうだろう。
魔法メインの戦闘なのに、その頼みの綱である魔法が効かないのであればどうしようもない。
「ただいまの試合7番ヨハン選手の勝利です。惜しみない拍手を!」
その後同じようなやり取りがあり、水晶が引かれる。
次は10番のトリスタン選手と3番のオスカー選手だった。
10番の選手は槍と大盾のスタイルだ。
戦法的には5番のポール選手と同じだが、違いは盾の大きさと槍の長さだろう。
ポール選手は盾にて攻撃を受け流し、隙を見て攻撃していたが、トリスタン選手は大盾にて相手の攻撃を受け止めて盾の端から槍を突出し攻撃していく戦い方だった。
3番のオスカー選手は両手に剣を持っていることから二刀流スタイルなのだろう。
試合開始の合図と共に双方とも相手へ向けて走り出した。
特に魔法を使うこともなく剣と槍・大盾での攻防が続く。
二刀流は伊達ではないようで、突き出された槍を剣にて受け流し、その槍に沿うようにしてもう片方の剣を突き入れていく。
トリスタン選手は右利きなのだろう。
右からしか攻撃が来ない為か、オスカー選手は事もなげに槍を捌いていく。
しかし、大盾のせいか槍に沿って突き入れてもすぐに防がれるてしまう。
しばらく続いた攻防は、トリスタン選手の魔法によって変わった。
盾でしばらく防いでいたが、それは詠唱の時間を稼ぐためであり、その詠唱が完了したのだ。
水属性魔法がオスカー選手へと向けて放たれる。
ただ、オスカー選手も黙っていたわけでは無く、こちらも無属性魔法の詠唱をしていたようだ。
オスカー選手は自らの速度を上げたようで、至近から放たれる前にトリスタン選手の後ろへと回り込む。
トリスタン選手から見たら魔法が邪魔で見えなかったのだろう。
首筋に剣を突きつけられて気付いたようだ。
そこでトリスタン選手が降参し、試合は終了となった。
クロスは、オスカー選手の使った魔法は無属性魔法の『フリュー』(魔力15)であることからその上位版である『マハト』(魔力4)は仕えないと考えた。
もしマハオを使えるのであれば、消費魔力が同じなので上位を使うと思ったためだ。
無駄に下位の魔法を使うこともないだろう。
ただ、他の選手を油断させるため…ということであれば有り得る話だが、それでもしミスをしてしまってはどうしようもない。
「ただいまの試合はオスカー選手の勝利です。勝利したオスカー選手に惜しみない拍手を!」
拍手に見送られて移動するオスカー。
オスカー、トリスタン両名が出ていき、再度クロスたちは広場へと集まる。
残りは4名。
残った3名の内誰かと当たる訳である。
この中でクロス的に一番弱そうだと思ったのは9番である。
明らかに運だけでここまで来たように思える試合内容だった。
(9番と当たると楽なんだが…。)
そんなことを考えていると水晶を引かれて番号が呼ばれる。
「それでは次の試合は…4番のクルツ選手。あちらへ移動してください。」
クルツ選手が移動して、次が呼ばれる。
(さて誰になるかな…。)
「次は…6番のルチア選手。あちらへ移動してください。」
どうやらクロスは最後の試合になったようだ。
残った選手と共に通路へと向かう。
(次の試合は楽勝だな。)
そう思い椅子に座り待っていると、試合開始と共に対戦相手の男は何を思ったのか、クロスの座っている近くの椅子に座り話しかけてきた。
「あんた確か女と一緒にいたよな?あれはあんたの女かい?」
いきなり話しかけてきたのもあれだが、その内容も意図が不明すぎた。
「用件はなんだ?」
男はニヤリとして答える。
「な~に。かなりの美人だと思っただけさ。あんな女は他の男が放ってはおかないだろうな。」
さらにニヤニヤしながら言い放つ。
「で?結局何が言いたいんだ?」
「今頃どうしてるかと思ってね。」
「付き合いきれないな。」
「無事だと良いな。王都とは言え、治安の良いところばかりじゃない。まああんたがさっさと負けて会いに行けることを祈ってるよ。」
男はそういうと、試合の観戦を始めた。