123話 4日目・開始
4日目の朝。
気持ちよくいつもの時間に目が覚めた。
昨日は一通り試合を観戦し、夕食を取ってから昨日の係員に会いに行った。
会いに行ったと言っても居場所を知っているわけでは無く、いつもの通りを歩いていたら向こうから声を掛けてきたのだ。
そのまま深夜までつきあい宿へと戻った。
そして風呂へと浸かり寝てから今に至る訳である。
横を見ると、シャルロッテがだらしなく寝ている。
というよりも足が半分ベッドから落ちているのを見ると、寝癖が悪いとつくづく思う。
最初の頃は、あまりの寝相にベッドから蹴り落としていたが、そのうちこちらへは寄って来ずに、ベッドの端の方へと寄るようになった。
最初と比べれば格段の進歩と言えるが、寝相が悪いことには違いない。
そんなシャルロッテをさておいて、朝食を注文する。
朝食が運ばれてからシャルロッテを起こして食べさせて、お金を持たせる。
「今日はこの金で好きにするといい。ただ日が沈むまでにはこの王都の中にはいるようにな。」
「?武闘祭を見に行ってはいけないんですか?」
「いや。今日は大会が長くなるようだから、昼飯代を渡しておこうと思ってな。だから武闘祭を見ててもいいし、何か必要な物があれば買ってもいい。前に渡した金ももうあまりないだろう?」
「はい。そういうことでしたらありがたくいただきます。今日でどこまで決まるのでしょう?」
「夕刻まで続くと言っていたような気がするな。大体順当にいけば二日くらいで終わるそうだ。長引けばいつまでかかるか分からないがな。」
「そうなんですか。」
朝食を食べ終えていつもの場所へと向かう。
向かう途中に観客席を覗いてみると、昨日と同じように席の取り合いを行っていた。
本日もかなりの人が入っているようだ。
その後集合場所へと向かった。
集合場所には既に外の出場者も来ており、クロスが一番最後だった。
(集合時間まであと半刻はあるはずだが…みんな早いな。)
クロスが最後だったためか、それともマントについたフードを被っているためか、かなり露骨にジロジロと見られた。
そんな中を通り設けられた椅子へと座る。
「おはようございます。みなさま集まりましたので、定刻よりも早いですが先に説明させていただきます。」
内容については昨日と同じことを言っていたのだが、クロスにとっては聞き逃していた部分があるだけに、だいぶ助かった。
(相手が死ななければどんな攻撃も可なのは一緒だが、まさか部位欠損まで可とはね。)
本戦からは部位欠損ありだが、その時点で負けとなり、更に治癒出来なければ、今回の大会の出場資格を失うとのことだった。
さすがにそこにいくまでに降参するだろうが、なかなか過激な試合になりそうだ。
部位と言っても手足のみで、失血死は死とはカウントしないようだ。
なかなか変なルールだと思いつつ、試合が開始されるまで待った。
試合はトーナメント方式で行われ、優勝者を決める。
三位などの順位については、対戦相手の順位で決まるようで、負けた時点で終了となる。
対戦運も必要ということだろう。
時間になり広場へと進む。
始めに広場にて今回の10人の名前が知らされる。
水晶玉の順番に紹介…と言っても前回の試合を参考にしたものだが、名前・使用武器・戦法を紹介された。
風属性魔法を使って声を広範囲に届けているのだが、それに応える歓声もかなりの大きさだ。
クロスは名前を呼ばれた際に軽く手を上げるに留めたが、他の選手は歓声に応えるように色々とアピールしていた。
王族からの長々とした挨拶があり、それが終わってから王が始めの水晶玉を取る。
「最初の数字は5番です。5番のポール選手はあちらへ移動してください。」
係員に誘導された方へと5番のポール選手が行き、残りの者は次が引かれるのを待つ。
2回目は王妃が引くようで、箱の中に手を入れていた。
水晶を引き数字を近くの者に読み上げる。
「次の数字は2番です。2番のロータル選手はあちらへと移動してください。」
2番のロータル選手は、5番のポール選手とは反対側へと移動していく。
その後、クロス達は通路へと戻る。
そこには椅子とテーブルが置かれ、その上に水差しが準備されていた。
クロスたちの移動が終わり試合が開始される。
しばらくは二人ともにほとんど動きは無かった。
まずは相手の様子見と言ったところなのだろう。
ただ、傍目には動きが無いように見えるが、じわじわと距離が縮んでいるのは分かる。
最初にあった50メルという距離が、今では30メルにまで縮んでいる。
二人とも剣使いだが、一人は両手剣でもう一人は片手剣と盾を持っている。
両手剣と言ってもそれほど長いわけでは無いが、横幅が結構ある。
前の試合では見る機会が無かったのでどういう戦い方をするのか興味があるところだ。
もう一人の方についてはオーソドックスな戦い方で、攻撃を盾で受け流し、出来た隙を剣で突くというものだった。
二人の距離が20メルになろうか…というところで、両手剣使いの方が先に仕掛けた。
走りながら何事か呟いているのが分かる。
それに気付いたのか片手剣使いの方も詠唱をしているようだ。
両手剣を相手に向けて振ったところで詠唱が完了したようで、片手剣使いが盾にて受け流そうとしたところを足元の土を柔らかくすることにより、バランスを崩させることが目的だったようで、盾で受け流すことが出来ずに体が傾いていくのが分かる。
ただ、片手剣使いも詠唱が完了したようで、更に追撃をしようと両手剣使いが振り抜いた姿勢を元に戻そうとした際に、両手剣使いが固まるのが分かる。
バランスを崩した上に、相手の両手剣の衝撃を受けても詠唱を止めなかったことに、心の中で賞賛を送る。
次への行動が早かったのは、片手剣使いの方だった。
体勢を崩し、倒れそうになる勢いそのままに受け身を取って、すぐさま両手剣使いに向かったのである。
両手剣使いの方はというと下半身まで伸びた木にて身体を固定されてしまっており、動けないようだ。
迫りくる片手剣使いに対して両手剣を振るが、長くなくただ幅が広い剣ではリーチ的にも有利なわけでもなく、また下半身が固定されてしまい満足に力が入らないのか、盾にて簡単に受け流されていた。
徐々に両手剣使いは体に傷を負っていくが、その間に唱えていたのだろう。
火属性魔法が完成したようだ。
その炎は木を焼きつくし周囲へと波及していく。
片手剣使いは詠唱が完了する手前にて既に離脱しており、魔法の効果範囲にはいなかった。
距離が置かれて一旦仕切り直しとなったが、両手剣使いは脱出するまでの間に片手剣使いからの攻撃を結構な数受けている。
片手剣使いに至っては、最初に受け身を取った際に土が付いているくらいで特に外傷と呼べるものはなかった。
その後は、両手剣使いが挽回しようとやや無理な攻撃を仕掛け、片手剣使いがそれを危なげなく受け流し、隙が出来た時だけ攻撃していくというのが続いた。
最終的には、両手剣使いの首筋に片手剣使いが剣を突きつけた段階で降参し試合は終了した。