120話 共闘・登録
クロスたち4人は、広場の中央にて各々距離を取り開始の合図を待った。
係員の合図と共に対戦相手が3人ともクロスへと向かってくる。
しかし、速度から言っても昨日のユフィと比べて遅く、クロスとしては3人かがりでも全く問題はなかった。
相手の武器は、刃引き済みの剣使い2人に槍使いが1人の構成である。
改良を施したハリセンの威力を確かめるべく、クロスはマント内にてハリセンをしっかりと持つ。
3人は、打ち合わせをしていたかのように剣使い2人が前衛で、槍使いが後衛のようだ。
剣使い2人は、左右(左右といってもクロスから見て少し後方)から同時に攻撃し、そこへ槍使いが前から石突きの部分にて突きを放ってくる。
初めてとは思えない連携にクロスは少し感心した。
もしかしたら購入したのではなく、番号が合うように交換したのかもしれない。
そんなことを考えつつ、先ずは槍使いの対応をする。
剣使い2人が攻撃を仕掛け、槍使いがその退路を塞ぐように来たので、移動先を確保するためハリセンにて槍を打ち払い、空いた空間に身体を入れる。
そのまま槍使いの裏へと回り込み、後頭部をやや強めに打ち込むとそのまま倒れてしまった。
剣使い2人は、そんな槍使いには見向きもせずに、また左右から攻撃するべく回り込んできたので、クロスは片方の剣使いへと向かった。
速度は対戦相手の2人と同じくらいに抑えているが、左右から同時に攻撃するために距離を取ったのが間違いだった。
クロスがもう一人に向かったことで、慌ててクロスの方へと走ってくるが、間に合うはずもなくクロスは1対1にて楽に相手を倒した。
ただ、攻撃してきた手を叩いたのだが、まさか強く叩いたら折れるとは思わなかった。
相手は剣を取り落とし手を握り締めている。
少し心配になり最初に後頭部を叩いた槍使いを見た。
少ししか力を入れていなかったので大丈夫だとは思ったが、これで死なれては色々と困る。
ある程度加減した一撃を加えて倒し、後ろから向かってきた最後のひとりの相手をする。
最後の剣使いは、勝負に出ているのか、身体強化を掛けていた。
途中で追いつけないと分かり、自身を強化することにしたようだ。
クロスは詠唱が終わるのを待つ。
先ほどからの速度から考えても、今唱えている身体強化魔法では、クロスの速度には追い付けないだろう。
相手選手の詠唱が完了し、こちらへと向かってきた。
クロスの予想通り十分に対応可能な速度だったので、剣筋に注意を払いつつ、相手選手の隙を突いてハリセンにて手を打ち据える。
身体強化を施したせいなのか、それともクロスが力を入れていないせいか、余り効いていないように見えたので、少しずつ力を込めて叩いていく。
相手はハリセンで叩かれても無視して攻撃していたが、途中から明らかに顔をしかめ始め、遂には距離まで取ってしまった。
(これくらいの力加減でやっと利くわけか…。)
ここで初めて相手が話しかけてきた。
「あんたには全力を出しても勝てないことはよくわかった。しかし、だからと言って簡単に諦めるわけには行かない!」
相手は木属性の魔法を唱え始めた。
何をするのかと詠唱完了まで待つ。
完了した魔法はクロスを束縛するものだった。
「油断したな!」
相手はそう言いつつこちらへ向かって走ってくるが、先ほどまでの身体強化を解いているためだろう、明らかに動きがスローに見えた。
相手が唱えた魔法は木属性の『ドルン』でクロスの腰からしたを、木にて縛り付けるものだ。
クロスは特に慌てることなく、振り抜いてきた剣を片手で止め、もう片方の手でハリセンを振り抜く。
剣を片手で止められたことに驚いた瞬間に側頭部に一撃を見舞うと、相手は意識を失い倒れた。
無属性魔法にて木の魔法を無効化し、VIPの方へと歩いていく。
通路では勝ち名乗りのようなものをしようと思ったが、実際にその場所に立つと、フードで顔を隠しているとは言え恥ずかしいと思ったからである。
最初に倒した槍使いに関しては、途中で回収され医務室にいるようだ。
係員からの勝者コールにて、とりあえず死んでいないことは分かった。
「クロス選手の勝利です。尚、他3名については1名重症ですが死んでいません。」
スポーツの実況のように解説するわけでも無く、淡々と事務的に進める係員が言い終わると、ちらほらとまばらに拍手が起きる。
(居心地が悪いのはこの微妙な空気のせいに違いない。)
クロスは早足で広場を後にした。
今回は部屋を選ぶのではなく部屋は決まっていた。
その部屋へと入ると、先に入っていた2人の他にもう2名係員が待機していた。
昨日の段階では部屋には何もなかったが、今回はテーブルと椅子が並べられており、ゆっくりとくつろぐことが出来るようになっている。
「お疲れさまでした。飲み物をどうぞ。」
係員が差し出してきた飲み物を受け取り、軽く口を潤す。
「まだ必要でしたらおっしゃってください。用意いたします。」
「いや。必要ない。」
コップを返し適当な椅子に座る。
最初の予選会の時とはえらい違いである。
参加費用として1万リラ取られているとはいえ、全て賞金にまわっていると考えていたので、この待遇は少しうれしく感じてしまう。
今回は、昨日とは違い全員揃わずに5名揃った段階で説明がされた。
「明日からは一対一にて試合が行われます。順番としましては昨日と同じように箱から水晶を取っていただき同じ数字の人と対戦することになります。取られました水晶には必ず自分のお名前を登録しておいてください。『シュテルン』と魔法を唱えることで登録は可能です。時間は本日と同じ日の出から1刻後に集合してから開始となります。ここまではよろしいですか?」
係員は5人の反応を確かめて先を続ける。
「では箱から水晶を取ってください。ちなみにこの中には同じ番号は入っていません。後、大通りにあるスタッドガードという店があるのですが、そちらにて夕食が提供されます。もしよろしければ食べていってください。では1試合目の方からどうぞ。」
係員は店の宣伝をしてから箱を出した。
(この大会のスポンサーか何かかな?)
それぞれが水晶を取り終わる。
水晶は珠であり、大きさ的には直径5セム程であった。
水晶には何も刻み込まれておらず、向こうが透けて見える。
他にも同じような疑問を持った者が居たようで、係員に質問していた。
「数字がどこにも書いていないがどういうこった?」
「数字は登録を行っていただければ浮き出るようになっております。一戦目については暗黙の了解があり、参加証の売買がされていますが、2戦目以降はそういったことが出来なくなります。ちなみにその水晶がこれからの参加証となります。始まる前に預かって勝者にのみお渡しします。敗者の水晶については明後日からの総当たり戦にて使用します。他に質問はありますか?」
「いや。ない。」
クロスも早速水晶に登録を行う。
「シュテルン」
ギルドのカード登録以来だが、今回はカードではなく水晶だ。
水晶を見ていると、名前と数字が浮き出てくる。
(今回は1番か…。)
「では後は解散となります。この部屋から出ていただいて構いませんが、他の部屋へは入らないでください。」
その言葉と共にクロスは部屋を出た。