表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/139

12話 殲滅・報酬

 しばらく盗賊たちの通った後を見失わないように追跡を行った。


 途中まで真っ直ぐに進んでいたが、唐突に直角に曲がり山のほうを目指す進路に変わる。


 その後すぐに盗賊たちと思われる集団を発見した。


 ざっと見た限り、盗賊たちは、ホース車にいたメイドの言ったとおり二十数名いるようだった。


 盗賊たちの間をすり抜けて先頭の方へ行くと、目的の人物がいた。


 その少女は、二人の女性に挟まれ、一人の腕に抱きつき心細そうな表情をしていた。


 その少女を挟んで両脇に立っている二人といえば、二人ともにクロスよりも背が高く、大人びて見える。


 表情は一人は無表情であり、もう一人は悔しそうな顔をしていた。


 メイド二人は十分美しいと言えるが、群を抜いて真ん中に立つ少女は美しかった。


 ただ、三人共に周りの状況のせいでその美しさに翳りはあるが…。


 その女性たちの周りには、盗賊たちが配置され、武器を持ち威嚇しているようだった。


 一番先頭に回り込み先頭に居た男のを見る。


 恐らくこの盗賊たちのボスであろう人物がいた。


 体は大きく、腰の両方に剣を下げている。


 そのボスの顔は、ハッキリ言って、十人が十人山賊顔だと言うだろう。


 一通り盗賊たちを観察し、盗賊たちをこの場にて片付けようとしたが、この先にも居るかもしれないと思い直し、盗賊たちの後をつけることにした。


 盗賊集団の先回りをして、茂みの中に身を隠す。


 盗賊たちは、特に騒ぐわけでもなく、静かに進んでいた。


 攫われた女性たちの周囲を武器で威嚇していた盗賊は女性だけに注意し、他の数名は周囲に気を配っていた。


 かなり手馴れているのか、襲撃が成功したにも係わらず注意を怠らないようだ。


 この集団を見ていると、ホース車に残った連中は一体なんだったのだろうかと疑問が残るが、ホース車の処理とメイド一人の見せしめのために敢えて残したとすれば、考えられない話ではない。


 移動に関しては盗賊たちの警戒心が高いので、時を止めた上で先回りし、茂みにて時を戻す作業を繰り返す。


 その作業を繰り返していると、盗賊たちは目的の場所に到着したようで、一人が山の方へと進み出ると、山から枝が落ちてきた。


 山の方を注意深く見てみると、山の一部分に山肌に隠れるようにして黒い部分があり、そこから人が一人顔を出していた。


 それが合図だったのか、進み出た男は、投げられた枝が落ちたあたりの山肌を調べると、何かを確認したのか、詠唱を始めた。


 詠唱が完了し、魔法が発動すると、そこには大きな入り口が姿を現していた。


 入り口が出来ると、盗賊の集団も動き出し、その入り口へと向かう。


 クロスは時を止めて、先にアジトの中へと入っていった。


 アジトの中は、薄暗くはあったが、ランプの明かりがあるため、視覚的には問題は無かった。


 入り口から真っ直ぐ先に階段があり、その通路の両端に部屋がいくつかあった。


 部屋の中を覗いてみると、食料庫や財宝庫、寝室などがあった。


 一階部分を一通り見たので二階へと上がる。


 二階も一階と同じように、上がった先が通路になっており、その先に先ほど外から見たときにあった見張り穴があり、その横に男が立っている。


 部屋は二部屋しかなく、ひとつの部屋は開け放たれて中の様子が窺えた。


 大きいほうの扉の部屋の中にはテーブルと椅子があり、テーブルの上には酒とつまみが置かれている。


 その酒やつまみを運んでいる盗賊が数名いた。


 盗賊たちの祝勝会でも挙げる準備でもしているのだろう。


 その部屋の一番奥には豪華な椅子が置かれており、先ほどあった盗賊のボスの顔が頭を過ぎる。


 観察を済ませ、今度は小さいほう(普通の大きさ)の扉を開ける。


 部屋は大きい扉の真正面にあり、大きいほうの扉を開けていれば、もし小さいほうの扉が開いてもすぐに分かるだろう。


 それまでに通路の見張りに気付かれてしまうが…。


 部屋の中は牢屋になっており、その中には女性が二人鎖に繋がれていた。


 女性二人は共に全裸で、体の彼方此方に傷跡が目立ち、髪はぼさぼさになっている。


 また、顔は生気を失っており、一人に関しては片目が抉られていた。


(とりあえず殲滅確定っと。)


 一度外に戻り、集団を含めた盗賊の人数を把握する。


 最初にやった三人を除け集団の人数は十七人。


 アジト内に残っていた人数が一階に二人。


 二階には、見張りも含めて五人。


 総勢二十四人の盗賊団…小規模ではあるが、その分小回りも利くし、何かあった際には逃げやすいだろう。


 数え終わってから、二階の大きい扉の部屋…大広間の一番奥の豪華な椅子の裏に隠れる。



クロス

ランク 1

魔法力 16715/72000

筋力 25

魔力 無10/時5

速度 27

状態 【時の管理者】 普通

金銭 0リラ



 そこで時を戻して待っていると、通路で女性の怒鳴り声などが聞こえてきたが、何かされたのか声は無くなり、代わりにこちらへと向かってくる気配があった。


「準備は一通り済んだだろう。とりあえず飲むぞ。」


 ボスと思わしき男は、準備をしていた男たちに声を掛けて豪華な椅子へと座る。


「お前はここに座れ!」


 そっと横から覗いてみると、ここに来るまで、女性二人に挟まれていた少女が怯えた表情をして立っていた。


 少女は男が怒鳴ると、泣きそうな顔をして立ち尽くしている。


 男は、しばらく待っていたが、一向に座ろうとしない少女にイライラし始めたのか、手を伸ばして無理やり横に座らせた。


 盗賊のボスは、男たちが杯を持つのを待ち声を掛けた。


「野郎ども!今日の狩りは成功だ!まだここに移動してきたばかりの一発めから幸先がいい!戻るまで少しここらを俺たちが独占するぞ!俺たちの未来を祝って乾杯!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」」」」」」」


 ボスの掛け声を合図に飲み始める盗賊たちを余所に時を止める。


 顔を上に向けて酒を煽って、固まっている盗賊たちの、がら空きの喉へと短剣をはしらせる。


 喉を上に向けているので斬り易かったが、念のため胸にも一突きしておく。


 盗賊のボスに関しては、がら空きの喉に一閃したが、切れ難かったので突き刺しながら切り裂いた。


(さすが盗賊のボスなだけのことはあるかな。大広間には十八人っと。)


 大広間を後にし、対面にある部屋へと入る。


 部屋の中には男たちがメイド二人に群がっていた。


 最初に繋がれていた女性は胸に短剣を一刺しされて死んでいるようだ。


 新しくこの部屋に来たメイドの内の一人は、四肢を鎖に繋がれ引っ張られており、服も切り刻まれて男二人に体中を嘗め回されもうもう一人に男が股の間に居た。


 もう一人の女性に関しては同じく四肢を鎖で繋がれて引っ張られ、男一人に頭を押さえつけられて、もう一人が目をくり貫こうとしていた。


 くり貫こうとしている目は茶色をしており、恐らく魔法での逃亡を考慮してのことだろう。


(目をくり貫くと魔法が使えなくなるとはね。)


 男たちをメイド二人から離して大広間の男たちのように喉を斬り、胸を突く。


 メイドの鎖を解くべく鍵を探してみるが男たちは持っていないようだった。


 とりあえず鎖を解くのは後回しにして残りの盗賊を捜す。


 最後の一人は、一階の寝室で、二階の牢屋にて鎖に繋がれた女性を抱いていた。


 その男の首を切り裂き、胸を一突きする。


 これで数えていた人数通りである。


 二階に戻り牢屋に行ってから鍵を探す。


 鍵は、部屋の中のランタンの下にぶら下がっていた。


 鍵を取り、メイド二人の拘束を解く。


 二人目の無表情なほうの女性の拘束を解く際に、またムラムラときたため、おいしく戴くことにした。


(報酬ということで。)


 クロスは十分堪能した後に、大広間に戻り、衣服を正す。


(疲れもしないし、痛みもない。感じるのは基本快楽のみか…これも時の管理者の影響なのかな?)


 目を覆面のように片方を覆い、少女の前に立って時を戻した。


 時を戻すと、一斉に周りの男たちは喉や胸から血が吹き出た。


 盗賊たちは一瞬で絶命したことだろう。


 少女は何が起きたのか分からないのか、こわばった表情のまま大広間の中を呆然と見ていた。


 いつまでもこのままでは、埒が明かないので声を掛ける。


「おい。助かりたくば俺について来い。」


 少女はビクッとなると、静かに立ち上がり、こちらへと向かってきた。


 クロスは、少女がこちらへ来たことを確認すると、向かいの小さな部屋へと入る。


 小部屋に入ると、身支度をして牢屋の扉を開けようとしている二人が居た。


 メイド二人は、入ってきたクロスの後ろに少女が居ることを確認すると、駆け寄ってくる。


「お嬢様!ご無事ですか!?痛いところなどありませんか?」


 二人して少女の体を彼方此方から観察し触診している。


 大丈夫か確認してくるメイド二人のほうが、全く無事には見えないのだが…。


(そんなことだと、相手に不安を与えるだけだと思うんだけどな…。)


 メイド二人は少女の無事を確認すると、こちらに向き直り警戒しつつも話しかけてくる。


「あなた様が助けてくださったんでしょうか?」


「…そうなるな。」


「他の方はどちらに居られるのでしょう?」


 どうやら他に仲間がいると思っているようだ。


「他など居ない。さっさとここを出るぞ。血の臭いが濃すぎる。出るぞ、ついて来い。」


 部屋は盗賊たちの血によって、床一面が血に埋め尽くされようとしていた。


 クロスは三人の横を通り過ぎ部屋を出る。


「待ちなさい!まだあんたについていくとは言ってないわ!」


 振り返ると、先ほど目をくり貫かれそうになっていた女性がこちらを睨んでいた。


「付いてきたくなければ好きにするがいい。とりあえず俺は盗賊からお前たちを解放した。それだけだ。外には危険な獣がいるが…運がよほど悪くない限り大丈夫だろう。(とりあえず盗賊さえ討伐できれば後はどうでもいいかな。報酬ももらったし。)」


 三人に踵を返して、階段へと向かおうとしたときに、またしても声がかかる。


「お待ちください。先ほどはマリーが失礼な事を言い申し訳ございません。お手数ですが、我々を連れて街道まで行ってはもらえないでしょうか?」


「メイ!何言ってるのよ!こいつの言うことはまだ信じられないわ!」


「しかし、現状ではここにいるよりもいいですし、そちらの部屋の中を見る限り、盗賊たちは死んでいるようです。それに、こちらの方面について調べた際に、この森にはベアクローが居ることが分かっています。わたしたちでは、もし遭遇した際に助かりません。」


「…わかったわ。」


 全く納得できてはいない顔だったが、不承不承というような形で言葉を発する。


「勝手について来い。」


 クロスは階段を下りて三人に通路で待機するように言うと、寝る部屋へと入った。


 部屋の中には死んだ盗賊と、既に事切れていた女性がいた。


(既に死んでいたか…。)


 クロスは盗賊の血がついていない毛布を集めて部屋を出る。


「これでも着ておけ。」


 メイド二人に毛布を投げる。


 メイド二人は少し唖然としていたが、自分の状態を思い出したのか、毛布を体に覆い始めた。


 三人をまた通路に置いて他の部屋へと入る。


 そこには今まで溜め込んだであろう財宝が置いてあった。


 ここでどうやって持って帰ろうか考えていたときに、魔法で持てないかと思った瞬間、頭に浮かんできた。


 『トロイメライ』:時空間へ物を出し入れする【時属性10、無属性10】


「(やってみるか…。)時よ。無よ。この部屋にある物を時空間へと吸い込みたまえ。『トロイメライ』」


 詠唱が完成すると、目の前に陽炎のような靄が出現し、その靄が財宝に近づき、通り過ぎた後には財宝は消えていた。


 靄よりも大きいものは入らないのか、棚などは残ってしまってはいたが、初めて使った魔法の成功に嬉しくなる。


 その後、他の部屋も見て周り、同じように魔法にて吸い込んだ。


 通路に居た三人はいぶかしむような顔でこちらを見ていたが、全く気にならない。


 四部屋とも一通り回り、アジトの入り口へと向かう。


 入り口は、既に閉められており、ランタンが明かりを灯している壁となっていた。


 壁を叩いてみると、厚さは薄いのか、音が抜けるように聞こえる。


 自身に強化魔法を施して、入り口の壁を蹴破った。


 外に出ると、日がだいぶ傾いてきたのか、薄暗くなってきている。


 入り口付近の木に括られていた、ホース二頭の手綱を持って来た道を歩き出す。


 あの盗賊たちは、足跡をほとんど残すことなく来ていたので、戻るのにもだいぶ苦労した。


 もう一度来いといわれても分からないと答えるだろう。


 途中後ろについて来ていた気配が離れていくような感じを受けたので振り返ってみると、少女が疲れたのか、ゆっくりとした足取りになっていた。


「護衛する気が少しでも有るなら、こちらの速度に合わせたらどうなの?」


「勝手について来いと言ったはずだ。」


 マリーという女性は何かにつけてクロスを敵視しているように感じる。


「あんたねぇ!」


「すみませんが、しばらくお待ち願えないでしょうか。」


「…。いまさらだが、ホースには乗れないのか?」


「乗れません。出来ても御者程度でございます。」


 少し期待して口の悪い女を見てみるが…。


「…乗れないわよ。悪いわけ?」


「いや。それならばお前が、強化魔法でも使って運べばいいだろう?」


「はぁ?あんた何言ってるの。強化魔法がそんなに長く使えるわけないでしょ!頭おかしいんじゃないの?」


「(はぁ…)仕方ないな。俺が運ぼう。」


「あんたなんかに任せられるわけないでしょ!」


「そういうことはそこの少女を運べるようになってから言うことだ。」


 クロスは少女たちに近づき、ホースの手綱を放して、時の流れを変える。


 メイド二人は、近づいてきたことにより警戒していたが、クロスが一瞬で消え、再度現れたときには少女の脇に立ち、少女を抱きかかえていた。


「何を勝手なことを!」


 クロスは気にせずにもと来た道を駆け足で進む。


 メイとマリーはそれぞれ一頭ずつホースの手綱を持つとこちらを追ってきた。


 そのまま軽く走ることしばし、荷車に到着するころには夕刻になっていた。


 荷車の近くに行くと、血の臭いが充満していた。


 周りには風がなく、最初に殺った盗賊三人の死体のせいだろうと、そちらを見ると、死体は千切れて散乱していた。


(盗賊に対してあのメイドが復讐でもしたのかな?)


 荷車に近づき、少女を降ろす。


 少女は地面にへたりこむとこちらを見つめていた。


 クロスは気にせずに、荷車の中を見るが誰も見当たらない。


 その後、メイとマリーが追いついてきた。


「あんた…ねぇ…(はぁはぁ)。早すぎる…わよ…(はぁはぁ)。」


 追いついて早々にマリーは文句を言ってくる。


 あのまま行けば、この森の中で野宿になることは間違いなかっただろう。


 そんなことはクロスとしては反対であるし、もしそうなった場合は見捨てるしかなかっただろう。


 この森にはあの獣が居るのだから…。


「おかしいな…。ここにも一人いたはずなんだが…。」


 メイの文句を無視し、ここにいた人物を思い出す。


「「「!!」」」


 三人は驚き、クロスに続くように周囲を見回した。


「ベル!」


 マリーの一声により、荷車の中の荷物が動き出す。


「ここにいます…。」


「無事だったのね!」


「よかったです。」


 三人はベルと呼ばれた少女の声に安堵していた。


 クロスは、三人が再開を喜び合っている中、ホースを荷車に繋ぎ直していた。


「もういいか?街道に向かうぞ。」


「分かりました。どうぞお嬢様お乗りください。」


 少女は力が入らないのか、へたり込んだままで動かない。


「あんたなんかしたんじゃないでしょうね!?」


「しらん。」


 結局、マリーが身体強化の魔法を使い、ホース車に乗せたわけだが、少女はすぐに寝てしまったようだ。


 クロスは三人が乗り込んだのを確認し、ホース車を街道へと走らせる。


 街道へ出るころには辺りは暗くなり始めていた。


 とりあえずホース車を森から離れた箇所へと持っていき停めると、荷車の外に付けてあったランタンの火を灯した。


 既に村から歩いて一刻ほど来たところである。


 父親からの話が本当であれば、走って二刻…残り一刻半も走れば隣町に着くだろう。


 最悪歩いても今日中には着くはずだ。


「街道に着いた。」


 クロスは御者台から降りて、町の方へと向かう。


「お待ちください。このまま護衛として残ってはいただけないでしょうか?」


「…面倒な上に、報酬もなしではやる気も出ない。以上だ。」


「報酬なら出します!所持しているお金は少ないので、依頼料としては不足かもしれません。残りは私が報酬ということでお願いいたします。」


 メイというメイドの言葉に、マリーは凍りつき、ベルは青白い顔をしている。


(時を止めずにやったことはない…魅力的な提案では有るな。)


「分かった。いいだろう。ただし、夜については番を立てねばならないので、交代が必要だ。番を決めておけ。大体交代時間は三刻ほどだ。」


 決まればやることを早くせねばならない。


 クロスはこの荷車で過ごすための準備を始める。


 ランタンだけでは明かりが心細い上に、深夜の冷え込みがあるため、火を熾すことにする。


 薪を取りに森へと向かった。


「メイ。あなた一人で払う必要はなかったんじゃないの?もしくはセリーヌ様に頼むとか…。」


「私たちの給金はそれほど多くはありません。セリーヌ様に至っては心身ともに疲れています。こういったことを頼むために起こすべきではありません。」


「でもね。あなた自身で払うって言っても、セリーヌ様の従者なんだから、あなたの意思だけではどうにもならないわよ?」


「従者を移動させるわけではありません。私の体で満足していただくだけです。」


「あんたね。自分を大事にしなさいよね!」


「構いません。既に私はあの場所で奪われてしまっています。」


「「!!」」


 メイの言葉に二人は凍りついた。


 自分たちも既に奪われた身ではあるが、メイの口から言葉として出ると何も言えなくなる。


「分かったわ…。」


「理解が得られて何よりです。」


「…。」


 話が終わってしばらくするとクロスは戻ってきた。


 クロスは薪を組むとランタンから薪へと火を移した。


「番は決まったか?」


「はい。初めに私と…その前にお名前を伺ってもよろしいでしょうか?ご存知かとは思いますが、私はメイ、こちらがマリーで、こちらがベルです。」


「…クロウだ。」


 本名を言ってしまうと、折角隠した顔が無意味になりかねないので、一応偽名を言っておく。


「では、改めましてクロウ様よろしくお願いします。初めに私とクロウ様、次にマリーとベルが番を行います。」


「分かった。」


「それでは二人とも寝てください。また後で。」


「メイも気をつけて。」


「失礼します…。」


 メイド二人は、荷車の中へと入っていった。


「クロウ様、護衛を引き受けていただきありがとうございます。」


「あぁ。」


「つきましては初めに報酬を支払いたく思います。」


「…通常報酬というのは達成したときだと思うが?」


「これは私なりの考えがあってのことです。最初に報酬を支払えば、罪悪感で逃げようとは思わないでしょう?(早く盗賊たちのことを忘れたい…。)」


「確かにな…。」


 その後、クロスから求めるわけでもなく、メイの方から求めてきた。


 元々毛布で包まった中には、ぼろぼろになった衣服が辛うじて引っかかっているだけであり、脱がす必要も無かった。


 メイを抱いている間も、クロスは周囲に気を配りつつだったので、時を止めた際とは違い、心身ともに疲れてしまったが…。


 そんなことをしているうちにあっという間に三刻が近づいてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ