116話 矯正・武闘祭
数日もするとシャルロッテの伸ばす口癖は言わなくなった。
たまに伸ばしてしまうようだが、最初に比べれば遥かにマシと言えるだろう。
その間にも、筋トレと魔法の訓練は継続して行わせていた。
未だに獣に対して攻撃は出来ないが、外で焚火をしたりするのには役に立っている。
「あと7日か…。」
「武闘祭までもう少しですね~。あうっ。」
ハリセンで訂正させつつ最近の事を考える。
この数日矯正のためにハリセンで叩いていたのだが、それをパルヒムに見られた際に、見せてほしいと言われて見せたところ商品として売り出してもいいかと聞かれた。
こんなものが商品になるのかと思い、勝手にしたらいいということで言ってみると意外にこれが売れたようだった。
店で売っていたものは少々硬い紙にて作られたようだが、この数日であっという間に王都に広がり子供たちの間でも広がっている。
親としては子供が木剣などを振り回すよりも、ハリセンの方がよいということで人気になっているようだ。
そんなこんなで、王都内でハリセンを使用していても、それほど不自然にはならなくなったのはクロスとしてはありがたかった。
途中でアイリからの使者が来たり、見知らぬ奴になぜか尾行されたり、シャルロッテが未だにスリに狙われたりと通常の生活を送りつつ武闘祭を待つ。
シャルロッテが進歩したことは話し方だけではなく、やっと人を疑うということを身に付けることが出来た。
軽いマジックでイカサマをしていたのだが、全く気付かない上にタネを明かしても、魔法みたいですと喜んでばかりだったが、財布を持ったスリを取り押さえた際にやっと盗まれるということを認識したようだった。
なので注意するようにはなったのだが、未だに無防備なのはなぜだろうか。
注意しているのは収納する場所だけであり、そこに収納したら安全だという考えがよくわからない。
今回は小遣いとしてシャルロッテに数万リラ渡しているので、スリなんぞに取られるのはなかなか業腹であった。
一通り買い物を済ませて宿へと戻る。
そこでいつものようにシャルロッテを鍛えて、昼からは町中の依頼をシャルロッテにやらせたりと少しずつでも王都に慣れさせるべく色々と行わせた。
そういったことを数日行い武闘祭まで三日となった頃にアイリからのお誘いがあった。
何度か使者が来ても、何かと理由を付けて断っていたのだが、さすがにずっと断るわけにもいかず、行くことになったのである。
というのも使者だけならば良かったのだが、今回はアイリからの手紙まで渡してきたのである。
シャルロッテには部屋で食事を取るように伝えて、アイリのところへと使者に連れられて向かう。
「というか、ほんの数日前に会ったばかりじゃないか?」
「なに?私に会いたくなかったの?もしかして………私を嫌いになったの?」
アイリはクロスに詰め寄って、目をウルウルとさせながらこちらを見ている。
クロスは溜息をつきつつアイリの頭を撫でてやる。
それだけで機嫌がよくなったのかアイリは嬉しそうに抱きついてきた。
その後はアリスも交えて食事を取った。
「アリス。ここでの生活はどうだ?」
「暇。」
良いのか悪いのかよくわからない言葉を返されてしまい、どうしたものかと考え込んでしまう。
アリスはそんな話題を変えようと話を振った。
「クロス。武闘祭が終わったらなんだけど、私のところに来てね。」
「ん?ああ。もちろんいくぞ。(アリスに答えを聞かないといけないからな。)」
「も…もちろんなんだ…。(私のところに来るのは当たり前だよね!そうだよね!)」
そうして食事会は終わり、宿へとクロスは戻っていった。
宿に戻ると、風呂に入っているのかシャルロッテが居なかったので受付に行き合鍵を貰い中に入った。
どうやら二人で泊まるときには、言えば合鍵を貰えるようだった。
最初からくれればいいのにと思い聞いてみたが、実際には一人一部屋にて使用しているため、そのようなことはほとんど無いとのことだった。
部屋にて寛いでいるとシャルロッテが風呂から戻ってきたので、代わりにクロスが風呂へと行く。
脱衣所に入ると、どうやら中に人が入っていたようなので、部屋へと戻ることにした。
家名持ちと一緒に入るのは遠慮したいと思うクロスだった。
部屋へと戻り結局は寝ることにした。
シャルロッテが戻ってきたクロスを見て不思議そうにしていたが、寝ると一言言ってベッドへと入ったので結局は何も言ってはこなかった。
今更ではあるが、ベッドが一つしかない為にシャルロッテとは同じベッドにて寝ている。
だからと言って、シャルロッテとの間に何かあるわけでもなく、そんなことを思う時にはクロスは夜の町へと出かけていた。
そんなこんなでシャルロッテの話がやっと普通?になってきた時には武闘祭当日となった。
「とうとう武闘祭の日がきましたね!」
「ああ。お前の話し方も矯正出来て達成感を感じるな。」
「そんなことは言いっこなしですよ!では行きましょう!」
朝食を食べ終えたクロスは、シャルロッテに手を引かれて競技会場へと向かう。
まだ早朝だというのに大通りは人が溢れており、競技会場へと行くだけで大変な状況に見えた。
さすがに、この人の群れの中を突き進む気が起きなかったので軽く身体強化の魔法を掛けてシャルロッテを抱き屋根伝いに競技会場へと向かう。
クロス以外にも同じ考えの人が居たようで、屋根を走る姿がチラホラと見えた。
競技会場の入口へと辿り着き、シャルロッテを下す。
シャルロッテが少し残念そうに見えたのは気のせいだろう。
寝る時もクロスを抱き枕のようにしていることからも、甘えたいのだろうと思われた。
そんなシャルロッテを伴い、VIP席に近い場所を確保する。
そこでシャルロッテに、このあたりに居るように言ってからクロスは選手控室の方へと向かった。
数年に一回ということもあり、出場選手は控室に収まらずに外部の広場にて待機となった。
選手はだいぶ前から来ていた者がほとんどだったようで、クロスが来た時には外部の広場も人で溢れかえっていた。
(これだけ多いと、トーナメントなんてのは無理だろうし、バトルロワイヤル的なものになるのかな?)
クロスはマントについているフードを目深に被り、広場の端の方にて他の人を観察していた。
一刻ほど待っただろうか、やっと予選が始まった。
予選は5人ずつ行われ、その中で一人が次へと進めるものであった。
但し、会場が広いため数区画に割った中で行われるので、一気に数グループをまとめて行うことが出来たので、サイクルは早いようだった。
グループ決めは特になにかで決めるようなものではなく、競技会場に近い者から順々に行くようであった。
それを知った数名が、周りを見ながら近づいたり離れたりしているところを見ると自分よりも弱いと思われる奴と一緒に参加しようと思っているのだろう。
クロスはそんな風景を見ていたが、ここに居ては他の選手の戦いが見れないと気付きさっさと行くことにした。
もちろんアリスに言われた腕輪を付けてである。
クロスが入口に近づくと、先ほどから近づいたり離れたりしているやつの一人が扉へと寄ってきた。
そんな様子をマントの下にて笑いながらクロスは順番を待った。