115話 気絶・アイリ
まず始めたことは、シャルロッテの実力を測ることだ。
王都の東門へと行きベルナウ平原へと出る。
そこでホーンラビットを探した。
さすがに王都周辺には居らず、結局一刻ほど歩いた場所にて見つけることが出来た。
「よし、まずはおまえがどの程度か確認する。ホーンラビットと戦ってみろ。」
「無理ですよ~。戦えません~。争いはよくないことです~。」
いきなりの軟弱な発言を無視して時を止めて、ホーンラビットを一匹捕まえてから時を戻す。
ホーンラビットは自分の状況に気付いたのか暴れだしたが、クロスとしては全く問題にならない。
そのままシャルロッテの方へと連れて行き、木剣をシャルロッテへと投げ渡す。
「とりあえずそれでやってみろ。」
「あの~話聞いてました~?」
クロスはホーンラビットをシャルロッテの方へと投げて逃げ出さないように見張る。
結果はとても残念だった。
シャルロッテは我武者羅に木剣を振り回したが、目を瞑っていたせいかホーンラビットの攻撃を躱すこともできずに体当たりを喰らってそのまま意識を失ってしまったのである。
振り回していたおかげで多少は正面衝突のコースをずらすことが出来たので良かったが、もしまともに喰らっていれば骨が折れていただろう。
(これほどとは…。まずもって戦うという意思が無いことが問題だな。)
クロスは気絶したシャルロッテを抱いて王都へと戻った。
結局気が付いたのは昼過ぎであり、触診してみたが打撲のみのようだった。
起きてからいきなり「わ~わ~」と叫びだしたので頭に軽くチョップして黙らせた。
「いたいです~。」
「そうだな。まずは簡単なことから始めよう。その口調を矯正からだな…。」
「何かまずいですか~?」
シャルロッテは自分の口調について考えているようだった。
「その間延びしたような言い方を無くすだけだ。簡単だろう?」
「わかりました~。」
全く分かってないシャルロッテに溜息をつきつつ、寝ている間に作成したハリセンを取り出す。
「今後間延びした言い方をした場合はこれで頭を叩くのでそのつもりでな。」
「はい~。あうっ。」
はい~と伸ばした瞬間にハリセンにて叩かれたシャルロッテは頭を押さえて屈んだ。
「伸ばすなと言っただろう。」
「わかりました~。あうっ。」
二度目のハリセンに涙目になりつつこちらを見てくる。
「全く分かってないようだな。今後もビシバシと行くから気を付けろよ。」
シャルロッテは喋るのをやめて頷いている。
そこからはアリスよりも筋力の無いシャルロッテの筋トレと魔法の訓練を行った。
元々魔力はランクが高いので、相手と戦う際に近接戦を行う必要はないと思い直したのだった。
ただ、口を塞がれたりしたときのために筋力は必要かと思い筋トレをさせたのである。
ただ、この日にアイリからの使用人が訪れてシャルロッテの事を聞かれた際に、またしても呼び出しを喰らったのはさすがに思ってもみなかった。
「浮気者!」
「いったい何のことだ?」
部屋に入ると同時に、唐突に始まるアイリの発言に少々困惑してしまう。
「部屋に女を囲ってるって聞いてるんだから!」
「ああ。あれは俺の監視?らしいぞ。」
「監視?」
アイリに簡単な概略を説明する。
「エルフの村ってあるんだ…。確かにこの国にも数人は居たからどこかにあっても不思議じゃないのよね…。それにしてもなんでクロスが監視されないといけないの?」
「ん~なんか強い奴は監視しているらしい。よくしらないけどな。」
実際は泉関係も含むのだが、その辺を言う気はなかった。
「ふ~ん。エルフに認められるくらいには強いわけね。そうだ!これを武闘祭当日には腕に巻いておいて。」
アイリは机の脇にある棚からギルド章のような腕輪を取り出した。
「これは?」
「私からのプレゼント。当日ははめててね。人が多いからクロスかどうか分からないし目印みたいなものだから。」
「まあいいけどさ。」
アイリから腕輪を受け取り屋敷を後にする。
(なんとかうやむやに出来たな…。)
クロスは宿へと帰っていった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「やったわ!腕輪を渡せた!タイミング的にもどうやって渡そうか悩んでいたのよね!」
アイリは窓からクロスの去っていく後姿を見ながら喜んでいた。
「お嬢様。クロス様が屋敷を出られましたが、追尾はどうしましょう?」
「必要はないわ。ただ、情報収集だけはしておいて。それと昨日の夜にクロスと接触のあった人はこちらの者だったでしょうね?」
「はい。それは間違いありません。当家にて仕えている従者の者です。」
昨日のクロスの行動はアイリに筒抜けであった。
元々クロスと結ばれるまでに、欲求不満が溜まり見知らぬ女と関係を持っては困ると夜の店へと手回しをしていたのである。
「そう…一応今夜も張らせておいて頂戴。あと、その子にはつらい役をさせている自覚はあるわ。その者の手当てを考慮するから書類を回しておいてちょうだい。」
「わかりました。(本人が喜んでいたなんていったらどうなるのかしら…。)」
アイリにとっては、夫婦となれない者に抱かれる人はすべからくつらい思いをしている、という考えしかないのである。
実際には従業員の中から立候補者を募ったところ、数名が立候補してきた。
どうやら屋敷に来ていたクロスを見ていた者たちのようで、クロスはアイリの思い人というのは話題には出されないが、周知の事実であり、あわよくば妾狙いのようだった。
「とりあえず武闘祭が楽しみかな。(それで晴れてクロスは私のもの!)」
「それはいいのですが、アンドラ王国への対応はどうされるのですか?」
いきなりの話の転換に、アイリは溜息を洩らす。
「とりあえずそれは王家が考えることでしょう。私たちはその方針に従って動くだけ。まあ私の所有するものに危害が加わらないようには動くけどね。」
「では当家の者を数名あちらに送った方がよろしいですか?」
アイリは少し悩んでから答えた。
「そうね…。ひとつ前の町のマクデブルグに少しずつ送っておいて頂戴。名目は護衛と買い物でいきましょう。偵察の行動は任せるわ。」
「わかりました。ではそのように。」
そそくさと従業員はアイリの部屋を出た。
アイリは窓の外を見てニヤニヤと笑っていたのだった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇