109話 従業員・再会
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(全く!あいつのせいでえらい被害を被ったわ!アインス家の人に悪印象で覚えられてしまうなんて…。)
あの時、廊下にて1人騒いでいると、アインス家の当主自ら廊下を歩いてこちらへと来たのである。
そこで、廊下では静かにするよう指示をされ、さらには何処の者かも尋ねられた。
ここで、自分の所属を言わなくても、調べられてはすぐに分かってしまうので、仕方なく正直に話すと、理由を話せと部屋へと招き入れられ今までずっと説明していたのである。
周りはすっかり夕刻になっており、今は従業員の部屋にて窓の外を見て時間を潰していたのだった。
(それにしてもこういう方法を提案してくれるとは思わなかったわね。)
女性が従業員の部屋にいるのは、クロスたちが夕食を注文するのを待つためである。
その際に、従業員の代わりに部屋へと入る計画だった。
確かにこの方法ならば正攻法ではないが、会うことは可能だろう。
呼び紐が引かれるのを女性は待った。
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夕刻になり、そろそろ食事を取るべく呼び紐を引く。
しばらくすると従業員がやってきたので、食事の手配を行う。
アリスは魔法の使い過ぎにより眠ってしまっていた。
魔法力の増大により、どれくらいまでなら大丈夫なのかまだ把握出来ていないようだ。
そんなアリスを眺めつつ時間を潰していると、食事の用意が出来たようで扉をノックする音が聞こえてきた。
扉を開けて料理の載ったカートを貰おうとしたが、従業員の女性はそのまま部屋の中へと入ってきた。
「料理だけ貰えればいいんだが?」
「やっと部屋に入れたわ。」
クロスの言葉を無視した発言をした女性は、よく見ると扉の前で粘っていた女性だった。
「なんだ。ここの従業員になったのか。雇われたようで良かったな。」
「違うにきまってるでしょ!」
クロスの発言に女性は怒り始める。
「料理は置いて下がっていいぞ。最初はつらいかもしれないが頑張れ。」
そういってクロスは女性を追い返そうとしたが、逆効果だったようで女性はまたもや騒ぎ出してしまった。
あまりにもうるさいので、叩きだそうとした所にアリスが起きた。
「うるさい…。」
どうやらアリスにとってもうるさいものだったようで、起きてしまったようだ。
「申し訳ありません。…ですがクロス様も酷いのではありませんか?」
未だに勘違いしたままアリスへと話しかけていた。
「あなた誰?」
「これは申し遅れました。私はドライ家に仕える者でミランダと申します。この度は我が主人にお会いしていただきたくお迎えに参りました。」
急に態度を変えて畏まり挨拶をするミランダ。
「私には用はない。」
用はないという以前に名前の勘違いを解いてほしかったのだが、アリスは料理を見ると一言告げ、そちらの方へと歩いて行ってしまった。
(確かにアリスにしたらドライ家よりも食事の方が大事だな。)
元々アリスにドライ家と言っても通じないだろう。
ドライ家と言っても通じず、食事に夢中なアリスを見て、固まってしまったミランダは、クロス(アリス)が寝起きの上に空腹なので正常な判断力が無いのだろうと思い直し、再度言葉を掛ける。
「食事でしたらもっと良いものをご用意できますよ!」
ちょっと必死になり始めたミランダを気の毒に思いながらも、勘違いを正さずにクロスもアリスの横で立ちながら食事を始めた。
一通り食べ終わり、ミランダの方を見ると、テーブル椅子に座って不貞腐れたように両肘を付き、手に顔を乗せてこちらを見ていた。
「食べ終わりましたか?満足しましたね?では行きましょう。」
何かもうやけくそのような言い方になってきていた。
「じゃあ行くか。」
「あなたは呼んでいません!大体あなたは何なのですか?」
やっとこっちの事について興味?を抱いたようだ。
「俺はこいつの保護者?みたいなもんだ。」
アリスの頭を撫でながらそういうと、ミランダは何とか納得したようで仕方ないと言わんばかりに溜息をついた。
「とりあえず二人には来てもらいます。もう決定しました。はい行きますよ。」
ミランダはクロスとアリスの背を押して部屋の外へと押し出す。
クロスはアリスと顔を見合わせる。
クロスはアリスへと頷くと、アリスは溜息をついた。
まるでクロスだけで行けばいいんじゃないの?と言っているかのようだ。
(そんな態度に出るくらいならアリスが誤解を解けばよかったろうに…。)
クロスは面白さ半分から誤解を解くか解くまいか微妙だったので、アリスに任せていたのだが、アリスは解く気は無いようだった。
ミランダについて宿の外へと出て、ドライ家の屋敷へと向かう。
ドライ家は南側の住宅街にあり、そこは、アインス家にも劣らない屋敷だった。
そんな中を入っていき屋敷の中へと案内される。
ミランダは執事に何事か話すと、執事はどこかへと行ってしまい、しばらく待つと執事が戻ってきて何事かをミランダに伝えた。
「さあ離れないでついてきて。…それと分かってるでしょうけど、あの方はもう昔と同じではないから接し方には十分注意しなさいよ。」
最初は丁寧に話していたのに、クロスと思っているアリスにも対応がぞんざいになってきたように思えた。
ミランダについていくと、ミランダはある部屋の前にて止まり扉をノックする。
「ミランダです。クロス様をお連れしました。」
「はいって!」
中から懐かしい声が聞こえてきた。
扉を開けて中に入ると、ずいぶん成長したアリスが居た。
年齢は12歳であるが、十分に女らしさが身体に出てきており、着ているドレスがそれを強調していた。
部屋の中にてアリスにミランダが軽い説明を行おうとしたが、その前にアイリは立ち上がりこちらへと走ってきた。
「クロス!」
アイリは間違えることなく、こちらへと抱きついてくる。
クロスはミランダの方を見ると、唖然として固まっていた。
「久しぶりだな。アイリ。」
「久しぶりねクロス。姉さんから手紙が来た時にはどうしようかと思ったけど無事で良かった…。」
手紙の内容が気になったが、クロスの胸に顔を埋めて泣いているアイリに声を掛けずらかったので何も言わずに背中をポンポンと叩いてやる。
しばらくアイリの好きにさせていると、ミランダのわざとらしい咳によりアイリは自分のしていることを思い出したのか、クロスからさっと離れた。
「以前は挨拶にも来ずにごめんな。宿のあの部屋の許可を出したのはアイリだろ?」
「ほんとよ。クロスは昔ゆっくり風呂に浸かりたいっていってたじゃない?だから王都に来たらあの宿に泊まると思って許可したの。挨拶に来なかったときは違う人だったのかもと思って、一応従者に確認に行かせてみたのよ?それにしても背がおっきくてかっこよくなったね。」
アイリは上から下までクロスを見て頬を染める。
「外見については分からないが、最近になって急成長してね…。」
その後も最近の事を話し、ランク7になったことを告げた時にはかなり驚かれた。
「それなら…クロスは武闘祭に出るの?」
「ああ。お金が出るみたいだし、自分の力量がどれくらいか知っておきたいからね。」
その言葉でパッとうれしそうな顔をするアイリに不思議そうに首を傾げる。
「絶対入賞してね!」
「まあ…そのつもりだけど。」
理由は分からないが、アイリのテンションが上がっているようだった。
そこへ声が掛かる。
「クロス…。眠い。」
後ろを見ると、アリスが目を薄くしてクロスの服を引っ張っていた。
「その後ろの子は誰?」
一気にテンションが下がり、逆に冷たい声音を発するアイリが居た。