104話 魔力・討伐
もちろんそんな突進でクロスをどうにか出来るわけでもなく、シャルロッテはクロスの腰に突進した姿勢のままくっ付いていた。
くっ付いているというよりも、シャルロッテとしては一生懸命泉から離そうとしているのだろうが、クロスは微動だにもしない。
クロスはそんなシャルロッテを気にするでもなく、紐を持ったままアリスの状態を確認している。
「ところでいつまでつけておけばいいんだ?」
「すぐに上げてください~。」
なにやら泣きながらこちらへと懇願してくる。
そんなシャルロッテを余所にこれくらいでいいか、とアリスを引き上げる。
「望み通り引き上げてやったぞ。」
合成魔法にて紐を収納し、代わりにタオルと服を取り出す。
「それで拭いて着替えさせてやれ。」
「うう~。大丈夫ですか~?しっかりしてください~。ひどいです~意識のない人を泉に入れるなんて~おに~あくま~。」
文句を言いながらアリスを介抱している光景を見ていると、不思議なことに濡れていたはずのアリスから、どんどん水気が引いていくのが分かった。
そしてしばらくすると完全に乾いた状態に戻っていたのである。
近づいてみてみると、服まで乾いた状態であった。
「さっきまで濡れていたのに乾くとはな…。蒸発でもしたのか?」
疑問を口に出すとシャルロッテが答えた。
「この泉の水はこの子に吸収されたんです~。」
「なるほど。だから濡れてなかったのか。」
納得である。
アリスの胸元に居れてあるカードを取り出し、アリスの手にて握らせてそれを胸に当て内容を確認する。
アリス
ランク 1
魔法力 7600/8000
筋力 20
魔力 土10/木20
速度 27
状態 普通
金銭 0リラ
どうやら、言われていた通り魔法力の上限が増えるようだ。
シャルロッテはクロスが何をするのかと見ており、そのカードを見ると不思議そうな顔をした。
「これは何ですか?」
「冒険者用のカードだな。これで自分の状態が分かる。」
さらに増やそうかと考えたが、あまり時間がなさそうだと思い直して、ギルドへと戻ることにする。
「ではまたな。置いて行かれる理由は分かるはずだ。」
「そんな~。」
まだ何かを言う前に時を止めてギルドへと戻った。
ギルドマスターの部屋に入ると、サラが居たので、場所を変えて2階の廊下にて時を戻し1階へと降りる。
その時に一部のギルド職員が不審な目で見ていたが、クロスは気にせずにサラの居るギルドマスターの部屋へと入っていった。
「準備は出来たか?」
「出来てるわよ。どこに行ってたの?」
「少し考えていたことを実行しただけだ。」
「ん~。気になるけど聞かない方がよさそうね。」
「ああ。それで?どこにいけばいいんだ?」
「それなんだけど、町の南の入口で待たせてるわ。後はここで依頼を受けていってね。私たちの為にも頑張ってきてね。」
サラは微笑みながらこちらに手を振ってきた。
「ああ。またな。」
クロスは内容には取り合わずに別れの言葉を告げる。
アリスを抱いたまま町の入口へと向かう。
そこで待っていたのはパルヒムだった。
「ご一緒させていただけるとお聞きしました。どうぞよろしくお願いします。」
「ああ。別に一緒でも構わないが、護衛する気はないからそのつもりでな。」
「はい。勿論です。」
パルヒムは、こちらの返答にも気を悪くしたようなそぶりも見せずに笑顔を保っている。
「ではいくか。」
それから町を出る。
昼過ぎであり、昼食を取っていないことを思い出し、パルヒムに食べるものを持っていないか尋ねたところ持っていたのでそれを食べつつ山へと向かう。
山は石を取り除いたままとなっており。特に誰にも邪魔されることなく上ることが出来た。
途中でアリスが起きたので状態を確認してみると、特に変わったところはないとの返答だったので、魔法の練習をするように言った。
「詠唱までの間の言葉はあの時も言ったが、我が意図に沿いてに変えた方がいいだろう。何をするのかが分かりにくくなる。その分イメージが重要になってくるのでそのつもりでな。」
アリスは頷くと、歩きながら魔法の練習へと没頭する。
クロスはアリスに意識の一部を割きつつも、周囲の状況へと意識のほとんどを向けていた。
いつ襲われてもいいようにである。
魔法ならば事前に分かるが、弓などの武器だと周囲を警戒していないと避けるのが至難なためである。
しかし、そんな警戒は無用だった。
唐突に詠唱文が頭に浮かんだのである。
その瞬間に魔法無効化をこちらも詠唱する。
今回はホース車一台分であるのでクロスの魔法効果内に入るので十分防ぐことは出来る。
クロスは魔法の飛んでくる方を確認し、時を止める。
そこには数人の男たちが居たので、一人を残し首を刈る。
残った一人をホース車の近くへと連れてきて、他の仲間について尋問することにした。
「さて、仲間はあと何人いる?」
「う…あ………なぜ……。」
男はいきなり変わった視界と、狙っていた男が目の前に居ることに動揺し、まともに喋れないようだった。
「答えろ。」
「………。」
男は下を向いて黙り込んでしまった。
面倒なので始末するかと思っていると、ホース車の方で悲鳴が聞こえてきた。
「た………たすけてくれ!」
そちらへと向き直ると、男がパルヒムを人質にしているのが分かる。
「そこにいたのか。」
「はっはっは。これで形勢逆転だな!」
俯いていた男はその光景を見て勝ち誇ったような顔をしていた。
パルヒムを人質にしている男もこちらを見てニヤニヤと笑っている。
パルヒムはというと首に短剣を当てられて青い顔をしていた。
「この男を助けたければ持っているものをすべて捨てろ!」
「お前たちはあと何人いるんだ?いい加減教えてもらいたいんだが?」
とりあえず、人数が知りたかったので不利に見える状況を利用して聞いてみると答えが返ってきた。
「6人も居るんだ!お前はもうおしまいさ!」
先ほど魔法を撃ってきたあたりに居た男たちは4人、反対側からホース車を襲った男たちは2人。
男の言ったように人数は合っているようだった。
「そうか。それだけきければ十分だ。」
「分かったらとっとと持ってるもん全て捨てるんだ!」
自分たちの優位を疑わない盗賊たちを無視して時を止める。
時を止めた中で残り3人の首を刈り取り時を戻した。
「これで依頼は一応完了だな。アリス出てこい。」
アリスは、盗賊たちが襲ってくるや否や、素早くホース車の下に潜りこんでいた。
アリスはクロスに言われると、ホース車の下からゆっくりとこちらへと向かって出てくる。
「良く気付いたな。えらいぞ。」
アリスの頭を撫でて、血まみれのパルヒムたちに声を掛ける。
「そろそろ呆けてないで、服でも替えたらどうだ?」
パルヒムたちを着替えさせている合間に、アリスには盗賊たちの後始末をさせた。
後始末と言っても、盗賊たちの体を魔法にて埋めるだけである。
このまま街道に放置しておくと、最悪獣…もしくは魔獣が近寄ってくるかもしれないからだ。
そして、埋めた後に思い立つ。
(そういやまたカード取り忘れたな。)
埋め終えたころにはパルヒムたちも着替え終わっており、さっそく先へと進むことにした。
パルヒムたちは、髪についた血まで落ちていたのでどうやったのか確認した所、御者の一人が火と水の属性で、それぞれを別々に詠唱することで湯を沸かしそれで頭についた血を落としたそうだった。
(火と水か風呂とかには便利そうだな…。)
聞いておいて、全く関係ないところに思いを馳せるクロスだった。