102話 整理・気絶
「まずは状況の確認からしようか。」
「お願いします~。」
シャルロッテはやり方については丸投げのようだ。
「まずシャルロッテは森から出るために俺についていきたいと。」
「そうです~。」
「ここでまず一つ目だ。俺について行ったことにして一人で出ていっては駄目なのか?」
「駄目ですよ~。村の掟で決まってるんですよ~。掟は守らないといけないんですよ~。」
「別に誰かが見ているわけじゃないだろう?」
「そんなことを考えると咎人になるんですよ~。」
どうやらその辺は曲げるつもりはないようだ。
「では次だ。俺にはお前についてこられてもメリットがない。だから連れて行くつもりはない。」
「私こう見えても魔法が得意なんですよ~。役に立ちますよ~。」
「具体的に言え。」
「もし毒に掛かっても直せますよ~。安心して色々と食べられますよ~。お得ですよ~。」
そういわれて両目を確認すると赤と黄だった。
確かに火属性と木属性は合成魔法にて状態異常の回復が出来たはずだが、どのくらいのレベルで使えるのかが分からない。
「最低でも全ての状態異常を回復できなければな。」
ついてくるためのハードルを諦めさせるため上げておく。
「大丈夫ですよ~。複合魔法はすべて使えますよ~。」
「複合魔法?」
複合魔法という言い方は初めて聞いたので聞き返してしまう。
「そうです~。それですべての病気や症状にも効きます~。いいですよ~おとくですよ~。」
エルフたちの間では、合成魔法ではなく複合魔法で通っているようだ。
本人が魔法が得意だといった通り、もし魔力が5以下であれば魔法に関しては確かに素晴らしいだろう。
「ではその複合魔法とやらを使ってみろ。」
口で言うだけなら簡単であるため実際に使わせてみる。
「どこかわるいんですか~?」
「いや。特に悪い場所は無いな。」
「それだと使っても意味が無いですよ~。」
「では使えないということだな。」
「使えますよ~。」
なにやら押し問答になりそうだったので、メリットとは見なさないことにした。
「では病気になる予定もないし、毒なども受ける予定はないからメリットとは言わんな。」
その言葉で焦ったのはシャルロッテである。
「そんな~!どうすればつれていってくれるんですか~。」
そしてとうとう泣き出してしまった。
「かなりの足手まといになりそうだな。」
「ひどいです~。」
さっさと行くべく身体強化を掛ける。
「無よ。我が意図に沿いて肉体を強化したまえ。『マハト』」
そして次に時を止めようとすると、腰にシャルロッテがしがみついてきた。
「待ってください~。何でもしますから~。連れて行ってください~。」
「何でもか?」
その言葉にシャルロッテは躊躇もせずに答える。
「もちろんです~。」
きっと何も考えていないのだろう………いや、森から出ることは考えているのかもしれない。
「ふむ。そうだな。ではシャルロッテが俺が言うことに拒否するまではついてきていいぞ。」
「ほんとですか~。ありがとうございます~。」
シャルロッテは泣き顔を引っ込めて微笑みだした。
見ていると非常にだらしない顔だ。
「(はあ…)とりあえずその背負っているものを寄越せ。」
シャルロッテからリュックを受け取り、身体強化を解く。
シャルロッテは不思議そうにしていた。
「ではまずはあっちを向け。」
シャルロッテを逆方向に向かせて魔法を詠唱する。
「時よ。無よ。我が意図に沿いて時空へ入れたまえ。『トロイメライ』」
リュックを収納して再度身体強化を施す。
「もう向いてもいいぞ。」
シャルロッテは振り返ると、周囲をキョロキョロと見始めた。
「え~っと。私の荷物はどこですか~?」
「気にするな。あと俺の背に乗れ。」
「う~。わかりました~。」
実際はかなり気になるのだろう。
しかし、クロスが言ったことを拒否した時点までしか、ついてきてはいけないと聞かされているので聞くに聞けないようだ。
不満顔のままクロスの背に飛び乗る。
クロスはそんなシャルロッテの思考がよくわからなかった。
(頭がいいのか悪いのかよく分からないやつだな…。)
時を止めて進もうと思ったが、来た時にかかった時間を考えると、今からいけば昼ごろには着きそうだったので使うのをやめることにした。
単純に今度は背負った状態で走れば、来た時よりも疲れるかな?という単純な好奇心が生じたのが最大の理由ではあるが…。
今度も全力に近い速度で進む。
途中「わ~」とか「きゃ~」という声が聞こえたが無視して突き進む。
途中食料になりそうな獣を見かけたが、わざわざ街道を外れるのを面倒くさがったので、真っ直ぐにアルテンへと向かうことにした。
(この調子で行くと、日の傾き具合から言って少し昼を回るかもしれないな。)
昨日に昼食を通った時には、日が既に真上付近まで来ており、昼が近いことを示している。
「なにかたべないですか?」
シャルロッテの言葉に違和感を覚えたので立ち止まり、振り向く。
「なんだって?」
「食事にしませんか?」
どうやら語尾の伸ばしていた部分が無くなっていた。
「いつもその喋り方は出来ないのか?」
「お腹すいてるんです。朝食を食べる前に出たのでお腹すいてるんです。」
どうやらお腹が減ったことにより、精神的に余裕がなくなると語尾の伸ばす部分が無くなるようだ。
「このまま町に行くぞ。」
「うう~~。わかりました~~。」
無視して再度走り始めると、シャルロッテはかなりお腹がすいているのだろう。
クロスの髪や首を甘噛みし始めた。
「ええい!うっとおしい!少しくらい我慢しろ!」
「もちろん我慢してます…。」
シャルロッテの甘噛みをやめさせて再度走り始める。
シャルロッテは噛むのはやめたが、今度は空腹を紛らわせるためだろう。
クロスにギュッと自分をくっつけてきた。
今度は別に痛いわけでは無く、むしろ走る邪魔になりそうになかったのでそのまま町まで爆走した。
町付近まで来てからシャルロッテを下に下す。
「町が見えてきたぞ。ここからは歩きだ。」
「はい…。」
どんどん元気が無くなってきたシャルロッテを余所に、クロスはどんどん町へと近づいていく。
町の門まで着くと、またしても通せんぼをくらった。
「まて!ここは通させんぞ!」
「もういい加減にしたらどうだ?」
門衛の態度にイライラを募らせつついうと、門衛は変わらずに少し高圧的に言ってくる。
「カードを見せろ!早くするんだ!」
「お前にわざわざ見せたくはないな。」
そういってから無視して町の中へと入ろうとすると、門衛が持っていた槍を振ってきた。
「ここは通させんぞ!」
そういってクロスの前に棒を横にして立ちはだかる。
「しつこいな。いい加減にしろ!」
クロスは門衛の後ろに素早く回り手刀にて気絶させる。
その光景を見ていたもうひとりの門衛は唖然としてこちらを見ていた。
「俺はギルドにいく。詳しくはギルドマスターにでも確認しろ。」
そう言い残して町へと入っていった。
申し訳なさそうにシャルロッテもクロスの後に続き町へと入っていく。