10話 ギルド・初依頼
アイリが村を出て以降、教会に集まることはなくなった為、本格的に親の手伝いをすることになった。
手伝いと言っても家の手伝いではなくギルドでの親の手伝いだったが…。
ギルドで最初に行ったのは、ギルドについての冒険者に対する決めごとや、依頼に対する取り扱いなどを覚える事だった。
時間になったら母親と父親よりも少し早めに帰宅し料理を作る。
父親が帰って来たら一緒に食べて、食後の運動に剣術と体術の練習を家の近くで行う。
それから寝る前に身体を拭いて布団の中に入る日々が続く。
クロスは布団に入った後に、時を止めて魔法の練習も行った。
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ギルドの仕事も慣れてくると、父親の杜撰さがよくわかる。
ある時では、
「父さんこの依頼はいつ届いたの?」
「右上に書いてるだろ?」
「書いてないよ…。」
「げっ!母さんには内緒な!」
というようなことから、
「この達成した証を入れた袋はどうするの?」
「後で焼却だ。」
「依頼書も一緒に入ってるよ?しかも血で文字が滲んでる…。」
「あー…達成されたのがわかればいいか。」
「だめだと思う…。」
ということがあったりと今までよくやってきたものだと思った。
しかし、ギルドの仕事は充実していて面白い。
その後に何度かエドたちにも会い話したが、みんなも親の仕事の手伝いを覚えるのが大変だといっていた。
ギルドの雑用にも慣れて来た頃、獣の解体をする事になった。
(親父がしてるのは見たことあるけど、うまくできるかな?)
解体場所に持ってこられたのはボア(猪みたいなの)だった。
短剣を持ち父親に手を添えられるようにして刃を入れる。
(もっと小さいのからやりたかった…。)
父親が手伝ったのは最初だけで、その後は指示だけを送るようになり、指示をだす傍らで刃物を研いでいた。
この日から解体作業も手伝いの内容に加わった。
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「よし!今日はバラしもないし研いでみるか。」
「いつも父さんがそこでやってるやつ?」
「そうだ。この石の順にやっていくんだぞ。まあやってみろ。」
「わかった。」
切り株で出来た台の上には三種類の石が置いてあった。
見た目には色の違いしか分からない。
切り株の横には水と布が置いてあった。
いつも父親が座っていた場所に座り、見よう見真似でやってみる。
「刃の角度にも気をつけろよ。そいつのはその角度だ。…もっと力を込めろ!さすってるだけじゃだめだ!」
研いでる最中に色々とだめ出しされながら一通り刃を研ぐと次は横の石に移る。
「後二回同じことをするんだ。」
「一個じゃダメなの?」
「だめだ。それだけだと目が荒すぎる。」
「わからないよ。」
「あ~。えーっとだな。」
わかっていたことだが、父親は自分でやる分には分かるのに人に教えるのは苦手だった。
仕方ないのでこちらから質問していく。
内容は簡単で傷を目の粗いもので削り、その粗い削りを目の細かいものに変えていき切れ味を元に戻すとのことだった。
「自分の物は自分で手入れできるようにならないとな。」
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解体や研ぎもだいぶ上手く出来るようになり、歳も12歳になった頃、父親に冒険者登録をしておけと言われた。
今の内からおつかい系の依頼を受けさせるためらしい。
「カードでこまめに自分の状態を確認しとけよ。」
「分かったよ。」
用紙に記入し、前に持ったことのあるカードを持ち、水晶に手を当てて登録するための言葉を紡ぐ。
「我クロスをカードに刻め。『シュテルン』」
『シュテルン』:カードに自分の情報を登録する【例外20】
カードに名前などの状態が表示される。
「次からは水晶使わなくてもカードで確認出来るからな。」
「便利だね。」
「無くすなよ。知ってるとは思うが無くしたらすぐに新しいのを作るんだぞ。」
「わかってるよ。新しいのを作るまでに悪用されるかもしれないからでしょ。」
「名前だけだからって油断してると知らねー借金してたりするからな。」
「気をつけるよ。」
カードにはお金を預けることができる。
もし無くすと新しくカードを作るまで、前のカードが使えてしまうのだった。
せっかくなので自分の情報をみてみる。
クロス
ランク 1
魔法力 72000/72000
筋力 25
魔力 無10/時5
速度 27
状態 【時の管理者】 普通
金銭 0リラ
いいのかわるいのか不明だったので父親のカードを見せてもらう。
カイン
ランク 5
魔法力 400/400
筋力 57
魔力 無3/土10
速度 44
状態 【ノーラと契りし者】 普通
金銭 5,340,000リラ
(親父の筋力の半分にもなっていないのか…。しかも結構金も持ってるな…。)
内容について聞くと数字がでかい人で二桁後半あり、無属性など魔法で強化すると三桁に届くそうだ。
「カードの内容は信用出来るやつにしか見せるなよ。」
「わかってるって。」
「首飾りとして作っといたからこれに入れとけ。」
「ありがとう。」
貰ったカードケースにカードを入れ蓋をし首から下げる。
(時と無の合成魔法で別空間とか作れないかな?)
思い浮かべると詠唱分が頭に浮かぶ。
『トロイメライ』:空間へ物を出し入れする【時属性10、無属性10】
(後で試してみよう。)
無属性は他属性との合成魔法がなかったので時属性とも無いと思っていたが、どうやらあったようだ。
「よし、新米冒険者に早速依頼だ!」
「いきなりだね。」
「いきなりだからこそいいんだよ!急な依頼もあるし馴れとけ!」
父親は手紙を渡してきた。
「それを隣町シュトラウスのギルドに届けるだけだ。簡単だろ?」
「行ったこと無いよ?」
「街道まっすぐいきゃあイヤでも町には着く。そこで人に聞けば分かるだろ。」
「どれくらいかかるの?」
「軽く走ってニ刻(2時間)くらいだ。」
「向こうでギルドを探すとなると…今からだと下手したら夜になるよ?」
今が昼過ぎで普通に行けば夕方頃だが少しでも時間がかかれば夜になってしまう。
「向こうに着いてギルドに手紙を渡せば、二日間泊めてもらえるように書いてある。だから大丈夫だ。」
「二日間?(なぜ一泊じゃなくニ泊なんだろう?)」
「町を一通り見学して来い。出来そうな依頼があったらやってみるのもいいかもな。この村は小さいせいかあんまし依頼が無いしな。」
「分かったよ。母さんはこのこと知ってるの?」
「あぁ。…忘れるとこだった。これで自分にあった剣とか買ってこい。2~3本買えるはずだ。」
1万リラ(1万円程度)硬貨を五枚渡される。
「いつも使ってる短剣じゃだめなの?」
剥ぎ取りに使っている短剣は長らく使っていたので手に馴染んでいた。
「刃の研ぎすぎで薄くなってるじゃねえか。いきなり使えなくなった時に予備は持っとくもんだ。」
「それもそうだね。」
(確かに予備があった方がいいし、予備にも馴れてた方がいいな。)
「間違っても南の森に近付くなよ。」
「わかってるよ。ベアクローがまだなんでしょ。」
倒伐依頼はかなり前に出ていたが、警戒心が高くなかなか見つけることができないでいた。
「わかってるならいい。んじゃいってこい。」
「行ってくる。」
「土産楽しみにしてるからな!」
「土産話楽しみにしてて!」
「話かよ!」
一旦家に帰り、着替えの服などを詰めた袋を肩に担ぎ、父親に見送られ村を出発した。