赤とのお祭り
サーフィンを早めに切り上げて、家に帰って着替える事にした
「カイ、これあげる」
ユキが持ってきたのは、青の格子柄の浴衣だった
「良いの?高そうだけど…」
「良いよぉ、俺はこれがあるしぃ」
そういって着てる物をみしてきた、薄い灰色で袖と裾の方が徐々に白くなって末端は真っ白な甚平
「ならありがたく、貰っときます」
着てみて一つ気づいた、これってユキ用だからデカイ!
「でかくない?」
「裾は安全ピンで」
「袖は?」
「時間がないから無理」
裾は何とか合わしたけど、袖は長い、貰っといて文句を言うのは良くないな
「じゃあ、お返しで髪いじってやるよ」
「大丈夫なのぉ?」
「任せろ!」
「任した!」
俺はユキの髪と自分の髪を軽くいじった、案外得意なもので
「何か良い感じぃ」
「だろ、マミ姉とデートの時は任せろ」
「頼んだよ」
俺達が支度をし終えて、暫く話してると、下から聞き慣れた叫び声が…
「カイ!ユキ!」
うるさい、何でチカは飽きないでよくやるよな、迷惑だし
「あれどうにかしてよぉ」
「無理」
「即答かよぉ」
「早くしろ!」
せっかちだな、早く行かないとチカが暴れそうだから、下に降りてビックリした
『カワイイ…』
「チカちゃんがメイクしてくれたからね」
「チカメイク上手いな」
二人共メイクしてたし、チカはあげてた前髪を下ろして流して留めてる、は朝顔柄のピンクの浴衣が似合ってるし
マミ姉は長い髪を簪でまとめて、桜のちりめんの濃紺、かなり大人っぽい
「ユキ君も髪、カッコイイよ」
「カイがやってれたんだよぉ」
「凄いじゃねぇか、カイ…、って何その浴衣」
来た、何とか回避してたのに、触れて欲しくない所に
「ユキに貰ったから、ユキサイズで合わなかった」
「良いんじゃない、カワイイよ」
「うん、カイ君カワイイ」
「男にカワイイは、無いだろ…」凹むよ、確かにデザインは良いけど、大きすぎるだろ、凹んでる俺の腕にチカがしがみついてきた
「凹んでないで行くぞ」
「…行くか」
いつもと違うチカに、少しドキドキしてる、いつものボーイッシュなチカとは違ってマジカワイイ。
神社ではお祭りが始まってた、案外賑わってた
「カイ行こう!」
「行くか!」
チカに腕を引かれて、よろめきながらついていった
「ユキ、マミ姉!先に行ってるから」
二人は笑いながら手を振ってた、急にこれだからしょうがないか
「カイ、どれから行く?」
「行きたい所はある?」
「特に無いけど」
「じゃあ焼そば」
「いきなり?」
「腹減ったから、良いだろ?」
「行くか」
今は普通に手を繋いでるけど、始めて手を繋いだんだよな。
焼そばを買って、とりあえず裏の方で座って食べてた
「はべふ(たべる)?」
「いいから食べれば」
呆れてるし、でも腹減ってたんだからしょうがないだろ
「カワイイ」
「まふぁ…」
“ゴクンッ”
「またカワイイって言った」
「だって何かカワイイんだもん」
「チカには負けるよ」
「えっ?ホントに?」
何で話を回避するのにのろけなきゃいけないんだよ、我ながら馬鹿だな
「食い終ったから行こ」
「ねぇ、ホントにカワイイ?」
いつまで言ってんだよ、確かにカワイイけど真面目には言えないから。
うるさいから、チカの頭に手を乗せて、俺の額をチカの額にくっつけた
「ひっ」
「メチャクチャカワイイ」
チカが顔を真っ赤にしてるし、言っちゃ悪いけど、扱い易い奴
「ほら、行こう」
「…うん」
さっきみたいに手を繋いで歩いてた
「どっか行きたいところある?」
「金魚すくいがあるから勝負しない?」
「ホントに良いの?」
「な、何で?」
「俺に金魚すくいで勝負を仕掛けて、無事に帰った奴はいないからな」
「どんな金魚すくいだよ」
チカも馬鹿だな、金魚すくいの覇王と呼ばれたこの俺に勝負を仕掛けるとは、朝●龍に素手で喧嘩を仕掛けるようなもんだよ
「じゃあ先にチカから良いよ」
「分かった!行くよ〜」
チカは慎重に小さい奴を見極めてすくっていった
「やった〜!5匹だよ、5匹!アタシの勝ちだな」
「フフフ…、5匹程度で勝ったと思うな」
そういって俺は始めた、東京のと違って元気だな、でもまだ甘い
「ほい、ほい…、ほいほい……」
「お、お兄ちゃん、もう止めてくれよ」
はいTKO、毎度の事ながら金魚で入れ物がいっぱいになってる
「カイ…、凄すぎ」
「連続TKO記録のレコードホルダーだぞ」
「金魚すくいってところがスケール小さいよな」
「うるさい!おっちゃん、一匹でいいから選ばしてよ」
「いいよ!もってけ」
この反応いつ見ても清々しい、勝者だけが味わえる美酒ってか
「じゃあチカ、罰ゲームだ」
「何だよ?」
「めんどくさいから、チカが選んで」
「何だよそれくらいかよ…、ならこの出目金」
「持ってけ、もう来んなよ」
「考えとく」
気持ち良かった、“もう来るな”は金魚すくいに行くと言われる言葉トップ3に入るよ
「楽しかった」
「おじさん、今頃泣いてるよ」
「いつもの事だよ」
「この出目金カワイイな」
ここで世間一般では
「お前の方がカワイイよ」
って言うのかもしれないけど、それだとつまんないから
「チカの100倍はカワイイんじゃねぇの?」
フグみたいに膨らみだした、これはこれでカワイイんじゃないの
「アタシの方がカワイイって言えよ」
ふてくされたちゃった、しょうがない、人前ではあまり使いたくない手だけど…、耳元で
「チカはカワイイよ、だって俺が大好きな人だもん」
期待通りに顔を真っ赤にしてくれた、あんまりこういうのろけみたいな事したくないんだよな
「馬鹿…」
「何か食いたいものある?俺はたこ焼き食うけど」
「また食うの?」
「うるさいな、何も無いの?」
「たこ焼きでいいよ」
俺はたこ焼きを二つ買った、チカが誰も来なくて、丁度良いところを知ってるらしいからそこに行った。
そこは神社の裏の方にあって、池の前に岩がある、そこに二人で座った
「狭いね」
「そうか、密着して良いじゃん」
「変態」
“ボフッ!”
チカのボディブローのせいで、俺は岩から逆さまに落っこちた
「苦しいから…」
「だってカイが…」
「ゴメンゴメン。ほらたこ焼き、冷めないうちに食べちゃおう」
ここは静かでいい、お祭りの賑やかさが嘘みたいに静かだ、海が近いのもあって波の音だけが響いてる、潮風もきもちいいし最高の場所だ
「何でこんなところ知ってんの?」
「アタシの泣いてた場所」
ビックリした、自分が泣く所ってのは大体、人に知られたくない場所なのに
「俺なんかが来て良いの?」
「良いよ、だってもうここじゃ泣かないもん」
やっぱりじゃなきゃ俺なんかが来れる分けないもんな
「今度からはどこで泣くの?」
「カイの胸の中!」
満面の笑顔で言われると責任重大だな、でもそれだけ俺が頼られてるって事か
「なら任せろ」
「ありがと」
この時間、この場所、そしてチカ、全部が俺の背中を押してくれた気がした