アオと少女
「stay with me」
「ねえ、あなたはコスモスの花ことばを、知っている?」
「宇宙のことかい?」
「ええ・・・それも正しい言葉だけど、コスモスは、花の色によって花言葉が違うのよ」
「赤いコスモスは、愛情・調和、白いコスモスは、優美、ピンクのコスモスは、純」
「日本名では、秋桜ともいわれているの」
「あなた、もう、さっきからボーとして、なに考えているの」
「ああ、宇宙の花言葉かい?」
「もう、いい、私、帰るわ」
レストランで食事するのも、ユウにとって、彼女と会うのは久しぶりだった。
「あぁ・・・ごめん・・・送っていくよ」
「いいえいやだわ、今のあなたは私を見ていない」
「一緒にいる理由もないわ、だからひとりで帰ります」
「ごめん、俺が悪かった、謝るよ、ただ今は仕事のことで頭がいっぱいなんだ」
「いい絵を描くことが俺の仕事なんだ」
「ユウ、言い訳するのね」
「私には関係ないことだわ、あなたは画家、せいぜい、いい絵をかくのね、さよなら」
「待てよ・・・・」
これで三度目である。ユウにとって、いつも問題になることは、私の仕事のことである。
ユウは頭の中にイメージを沸かせて白いキャンバスの前にするとき、すがすがしい気持ちと、どんな場面でも同じだった。
しかし今のユウには、何を描いたらいいのか、分からない。
いつもだったら、ユウはある言葉を思い浮かんだときに、イメージが浮かぶ。
そしてイメージが消えないうちに、いっきに描き上げる。
しかし今は何も浮かばない。こんなことは初めてだった。
「もう自分には思いを貯めるための電池が必要なのかもしれない」
「それに、心を優しく包み込む充電器も必要だ、一刻も早く見つけないと」
「何もかも失い、死んでしまう」
画家は普通、心の中に目を持っている。
イメージが見えた時、心を奮い立たせ、完成された絵を思い浮かべて描く。
しかし、ユウの場合は違っていた。
最初は、言葉で頭に浮かんだことを、文字の持つ思いや深さ、色、形、が心に刻み込まれて、頭の中で迎えられた絵と思い浮かぶ。そしてその一瞬で、絵は完成している。
ユウは、誰もいない丘の上に来た。ここからはいい夕陽が見ることができる。
ユウだけしか知らない場所。
少しは良いイメージが浮かぶかもしれない。
その時、夕陽を見ることのできる丘に、突然若い少女が現れた。
ユウしか知らない場所にいきなり現れた。
「おは達磨、ごこは誰しか知らない場所だ、どうやって来たんだ?」
少女は、コバルトブルーの瞳をしていた。
その瞳に吸い込まれそうなブルーの瞳をしている。
「私は、青、アオとか、ブルーとかみんなは、呼んでくれるわ」
コバルトブルーは、話を始めた。
「私は、あなたをずっと見てきたわ、十二月から始まる三科展に出品する、F150号を描く予定のはず」
「自分の思いを表現できるように作品を出品する。しかしあなたは今、電池がない」
「そろそろあなたには、充電器を見つけるべきだわ。でも今は、何もない」
「今あなたには、私を必要だと思うの」
「今まであなたを見て、そしてやっと私のことが必要になったことを私は知った・・・」
「もう一度言いうわ、私はコバルトブルー」
「今のあなたの必要な充電器なの、あなたに渡すわ」
「今度のあなたの絵には、コバルトブルーが題目になると思うの、さあ、始めましょう」
コバルトブルーはいつきに話しだした。
「アオといったね、確かに今は言葉を必要としている」
「コバルトブルー・・・わかった」
「コバルトブルーの瞳を、題目にしよう。そしてアオ、私の充電器になってくれ」
ユウはF150号に構図を考えた。
夏が始まろうとしていた。
ユウは、六畳二間に、小さなキッチンとテーブル、狭いトイレと風呂のついた、一軒平屋のアパートに住んでいた。
昼間は、夏の海の砂浜にある「海の家」という、夏の間だけの簡易式の休憩所でアルバイトをしていた。
風通しのいい休憩所では、冷たいかき氷や、スイカ、焼きそば、アイスクリーム、などを販売し、お客さんに休憩場所を提供している。
ユウは、いつもビーチサンダルに青い短パンに白いTシャツで毎日働いている。
朝は八時から、帰る頃は、いつも七時ごろである。ユウが明日の仕込みの終わりに、アオが現れた。
アパートに着くと遅い晩飯をアオと食べた。
それからやっと絵と向き合える。
あの日以来アオとは、不思議な関係を持っている。
年齢もわからない。
ユウにとっては、そんなことは関係ない。
絵が描くことができれば、それだけで十分だった。
ユウはあの時から、「コバルトブルーの瞳」の抽象を描いていた。
アオは、ユウにとって大切な充電器であった。
充電といっても横寝るときにアオと手をつないで眠るだけ。
ただそれだけである。
朝、ユウが起きるころにはアオはいない。
朝飯は、海の家で食べる。また熱い一日が始まる。
九月になった。
海の家もそろそろ終わりを迎える。
ユウはまだ絵を描いていた。もうそろそろ完成させて、
絵の額縁に入らなければならない。
アオは今でも変わらず夜になると海の家に来ていた。でも絵はまだ完成しない。
「君はこれからあなたのアパートに直接行くわ」九月の半ば、
海の家は終わり、ユウは朝から、絵を描いた。
夜になるとアオがユウのアパートに直接来た。
夕食を一緒に食べ、ユウはアオと一緒に絵を描いていた。
しばらく額と絵、また二つは描き始めた。
アオは月を見ていた。
「いい月だわ・・・私を照らし光り輝くのよ」
今夜、絵は完成する。
ユウとアオは、絵を観ていた。コバルトブルーの瞳の美しくきらびやかな光る瞳を、サインを書く・・・
そこには、人魚が描かれていた。人魚の体は美しく輝き、尾びれは金色に輝いていた。
そして人魚の目はコバルトブルーに輝いていた。
瞳を見ていると、絵は完成した。
ユウとアオは、手をつないで横になった。
そして、横になったまま夜空を見上げた。
星と月が輝き、エアコンも消した、お互い夜風を合って、そしてキスをした。
アオ「あのねユウ、あなたのための絵が完成した。今までありがとう」
ユウ「君の住むところを一緒にいることはできないのかい」
アオ「未来は誰にもわからない。絵についていることはできないわ」
「さよなら・・・」
窓ってくれたありがとう。お互いあなたの部屋に置いてきたわ」
「さよならアオ」コバルトブルーの瞳から涙があふれ落ちた。
アオは、海に向かって飛び込んだ。朝陽が尾びれにあたってきらびやかに輝いた。
「アオ・・・・アオ・・・・アオ・・・・」
「アオ・・・・・・・・・・」ユウは、その場で泣き崩れた。
あれから一カ月、二科展に出品した。
でもユウの作品の「コバルトブルーの瞳」は、自宅に戻ってきた。
ユウは、これで絵を毎日見ることができる。
入賞してしまえば、絵は画家の名前とともに全国をまわって展示される。
「これでよかったんだ、毎日アオに会える」
もう、人魚になってしまったアオにはもう会えることはできないだろう。
でも、アオと共に描いたこの絵は私の大切な絵になった。
「ありがとう、アオ!」




