表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ヘラヘラと笑う女の子

作者: くろねこ
掲載日:2026/05/20

春の終わりだった。


大学の学生相談室の窓際で、結城楽々(ゆうきらら)は笑っていた。

「いやー、昨日も切っちゃって。あ、でも浅いですよ? 縫うほどじゃないので安心してください」

そう言って、コンビニの新作スイーツの感想でも話すみたいに腕を隠した。

向かいに座るカウンセラーの女性は、驚いた顔をしなかった。

それが少しだけ、楽々には不満だった。

「……もっと引きません?」

「引いてほしいの?」

「どうだろ。分かんないです」

楽々は笑う。

昔からそうだった。

泣きそうなときほど、笑ってしまう。


楽々は地方の大学に通う一年生だった。

講義にはちゃんと出る。レポートも期限内。バイトも無断欠勤なし。

また、予定さえ合えば、ボランティア活動に参加する。

周囲からは「真面目で優しい子」と言われていた。


けれど家に帰ると、空気が変わる。

父親は機嫌で世界が変わる人だった。

黙っている日は静かな地雷で、怒鳴る日は天気災害みたいなものだった。

母親は疲れ切っていて、いつからか娘を「相談相手」にしていた。

「お父さん、今日も仕事で怒られたみたい」

「お金、本当に厳しい」

「楽々だけはちゃんとしてね」

小学生の頃から、楽々は「子ども」でいる方法が分からなかった。

泣けば面倒を増やす。

怒れば空気が悪くなる。

だから笑う。


中学に入る頃には、胸の奥がずっとざわざわしていた。

家のドアを開ける音。

足音。

ため息。

LINEの通知。

全部に身体が反応する。

何も起きていないのに、常に「何か悪いことが起きる前提」で生きていた。


 


高校一年の冬、初めて腕を切った。

理由は覚えていない。

たぶん些細なことだった。

母親の「あなたは楽でいいよね」という一言だったかもしれないし、友達との既読無視だったかもしれない。

でも、刃を引いた瞬間、頭の中のノイズが一瞬だけ静かになった。

「うわ、すご」

それが感想だった。

怖いより先に、安心が来た。


 


それからは、楽々は少しずつ「壊れ方」が上手くなった。

長袖で隠せる場所を選ぶ。

深く切らない。

授業は休まない。

笑顔を作る。

「大丈夫です」を反射で言う。

高校の保健室の先生には、一度だけ言われたことがある。

「あなた、本当にしんどい時ほど明るくなるね」

楽々は笑って答えた。

「サービス精神ですかね」

先生は笑わなかった。


大学に入って一人暮らしを始めると、少し自由になった。

でも、自由は突然、空白になる。


夜。

誰もいない部屋。

静かな天井。

急に、「生きている意味」が分からなくなる。

死にたい、というより。

消えたい、に近かった。

最初から存在していなかったみたいに。

楽々は大量の薬を机に並べた。

市販薬と、飲み残しと、頓服。

スマホでは動画が流れている。

芸人が笑っている。

楽々も笑った。

「やば。人ってこんな時でも普通に笑えるんだ」

その時、スマホが鳴った。

学生相談室のカウンセラーからだった。

『今日、“消えたい感じが強い”って言ってたの気になってる。返信はいらないけど、水だけは飲んでね』

楽々はしばらく画面を見ていた。

たぶん、あの人は「見抜いていた」。

へらへら笑って、冗談みたいに希死念慮を話す理由を。

本当に助けを求めるのが怖い人間は、深刻そうにできない。


拒絶された時に致命傷になるから。

だから最初から、軽く話す。

冗談っぽく。

ネタみたいに。

「大したことない感じ」で。

その方が、安全だから。

楽々は薬を箱に戻した。

代わりにコンビニへ行った。

夜風が冷たかった。

帰り道、橋の上で立ち止まる。

川を見下ろしながら、ふと思う。

「ああ、私、本当はずっと、“誰かに止めてほしい”んだ」

その言葉に、自分で驚いた。

死にたいのではなく。

苦しいまま、一人で放置されるのが怖かったのかもしれない。


次のカウンセリングの日。

楽々はいつもの調子で笑った。

「いやー、ギリ生きてました」

カウンセラーは静かに言った。

「うん。来てくれてよかった」

それだけだった。

励ましも、説教も、過剰な心配もなかった。

でも、その一言だけで。

楽々は少しだけ、泣きそうになった。




六月の雨は、中途半端だった。

傘がいるほどではないのに、空気全部が濡れている。

楽々は駅前の精神科クリニックへ向かいながら、スマホの予定表を何度もスクロールしていた。


月曜、講義四コマ。

空き時間にレポート。

夕方からバイト。


火曜、学生ボランティア。

空き時間に友達と課題。

夜は別のシフト。


水曜、実習説明会。

カウンセリング。

その後オンラインミーティング。


画面は予定で埋まっていた。

隙間がない。

隙間があると、不安になるから。


待合室で番号を呼ばれる。

診察室に入ると、主治医はカルテを見ながら言った。

「最近どうですか」

楽々は反射で笑った。

「元気です。めちゃくちゃ忙しいですけど」

「寝れてる?」

「……まあ、ほどほどに」

「何時間くらい?」

「三、四時間?」

「それを“ほどほど”って言う人はだいたい危ないんだよね」

楽々は少し笑った。

「いやでも、動いてないと不安になるので」

主治医はペンを置いた。

「“何が”不安?」

その質問に、楽々は一瞬だけ黙る。

診察室のエアコンの音がやけに大きかった。

「……役に立ってない自分、ですかね」

言った瞬間、自分でも変な感じがした。

そんなこと、考えないようにしていたから。


高校の頃からそうだった。

生徒会。委員会。ボランティア。勉強。

予定が埋まっていると安心した。

誰かに必要とされている感じがした。

逆に、予定のない休日は怖かった。

朝起きて、何もしない時間。

急に、自分が空っぽになる。

 

小さい頃、家では「手のかからない子」でいることが評価だった。

母親が泣いている時は話を聞く。

父親が怒っている時は空気を読む。

問題を起こさない。

迷惑をかけない。

「楽々はいい子だね」

その言葉が欲しかった。

だから、“役に立つこと”が存在理由になった。


主治医が静かに聞く。

「何もしない自分には価値がない感じ?」

楽々は笑った。

「うわ、重」

「否定はしないんだ」

「……まあ」

視線を落とす。

左腕の古い傷跡が、薄く白く残っていた。

最近は切っていない。


でも、その代わりみたいに予定を詰め込んでいた。

動いていれば、不安を感じなくて済むから。

疲労で頭がぼんやりしている方が、余計なことを考えないで済む。


「この前、バイト後に過呼吸っぽくなりました」

「いつから?」

「覚えてないです。なんか最近ずっと息浅い感じで」

「食事は?」

「忘れてることあります」

「希死念慮は?」

楽々は少しだけ口角を上げた。

「ゼロではないです」

「“消えたい”感じ?」

「……はい」

主治医は少し間を置いた。

「楽々さん、“頑張れなくなること”をかなり怖がってるよね」

その言葉に、心臓が跳ねた。


頑張れなくなったら。

大学へ行けなくなったら。

バイトを休んだら。

返信が返せなくなったら。

きっと見捨てられる。

役に立たない人間は、置いていかれる。

そんな感覚が、ずっと身体の奥にある。

理屈ではなく、もっと古い恐怖として。

 

「休む練習、必要かもしれないね」

主治医が言う。

楽々は苦笑した。

「それ、一番苦手です」

「知ってる」

「休んだら、終わる気がするんですよ」

「何が?」

楽々は答えられなかった。

人間関係か。

存在価値か。

自分自身か。

たぶん全部だった。


診察が終わり、待合室へ戻る。

会計を待ちながら、スマホを開く。

バイト先のグループLINE。

大学の課題連絡。

ボランティアのシフト調整。

通知が並ぶ。

それを見て、少し安心する自分がいる。

まだ必要とされている。

まだ、消えていない。 

でもその時、不意に主治医の言葉を思い出した。

「何もしない時間に耐えられない人は、“疲れている”というより、“安心できてない”ことが多いよ」

楽々はスマホの画面を消した。

待合室の窓の外では、雨が少し強くなっていた。




夜十一時過ぎだった。

楽々は大学のレポートを書きながら、イヤホンで音楽を流していた。

静かな部屋。

冷えた麦茶。

パソコンの光。

今日は比較的、落ち着いている方だった。

バイトも問題なく終わったし、カウンセラーにも「少し疲れてる顔してるけど、前より無理のサインに気づけてる」と言われた。

だから少しだけ、「普通」に近づけている気がしていた。 


スマホが震える。

通知欄に表示された名前を見た瞬間、呼吸が止まった。

父。

その文字だけで、身体が固まる。

しばらく画面を見つめる。

既読をつけたくない。

でも無視したら怒るかもしれない。

指先が冷える。

結局、震える指で開いた。

『お前、最近全然連絡しないな』

それだけ。

たった一文。

なのに、楽々の心臓は激しく鳴り始める。 

次の瞬間には、頭の中で過去の声が一斉に蘇っていた。

「誰のおかげで飯食えてると思ってる」

「お前は甘い」

「泣くな、面倒くさい」

「なんでこんなこともできない」

怒鳴り声。

ドアを叩く音。

食器の割れる音。

母親の泣き声。

身体が、“今”ではなくなる。

楽々はスマホを伏せた。

でも数秒後、また通知が来る。

『既読ついてるよな?』

喉が締まる。

息が浅い。

部屋は静かなはずなのに、世界全部がうるさい。


——返さなきゃ。

——でも怖い。

——無視したら怒る。

——怒らせたくない。

——でも嫌だ。


思考がぐちゃぐちゃになる。

楽々は、とっさに笑った。

「うわ、最悪」

誰もいない部屋で、乾いた声が出る。

昔からそうだった。

怖い時ほど、冗談みたいに振る舞う。

本気で怯えていると認めた瞬間、自分が壊れそうだから。

返信欄を開く。

『ごめん、大学忙しくて!』

明るい文面。

絵文字までつける。

送信。

送った瞬間、吐き気がした。

すぐ既読がつく。

『言い訳ばっかだな』

視界がぐらりと揺れた。

 


その瞬間、楽々は立ち上がっていた。

呼吸がうまくできない。

胸が苦しい。

頭の中で「逃げたい」が暴れている。

気づけば洗面所にいた。

鏡の前。

荒い呼吸。

震える手。

「大丈夫、大丈夫」

そう言いながら、全然大丈夫じゃない。


スマホがまた鳴る。

通知音だけで肩が跳ねる。

もう内容を見る勇気がない。

でも見ないともっと怖い。

楽々は床に座り込んだ。

視界がぼやける。

涙が出ているのに、自分では実感がない。

ただ身体だけが限界になっていた。

そのまま、衝動的に引き出しを開ける。

カッター。

指が触れる。

頭の奥で、妙に冷静な声がする。

——切れば落ち着く。

——少しだけなら。

——深くしなければ大丈夫。

それはもう、「選択」というより反射だった。

長年繰り返してきた鎮静方法。


けれど、その時。

スマホに別の通知が入る。

学生相談室の予約確認メールだった。

『明日15:30 面談予定』

それを見た瞬間、楽々の手が止まった。 

明日。

話せる場所がある。

完全に一人じゃない。

たったそれだけのことで、ギリギリ踏みとどまる。

楽々はカッターを戻した。

代わりに床へ崩れる。

息がうまく吸えないまま、膝を抱える。

「……なんで、こんなんで」

かすれた声が漏れる。

たった一通のLINE。

ただそれだけで、日常が全部壊される。

自分でも理解できないくらい、身体が反応する。 

でも、本当は。

怖かったのは“今の父親”だけじゃない。

ずっと昔、家の中で感じ続けた恐怖が、身体の奥に残り続けている。

だからもう、安全圏にいるはずなのに。

通知一つで、あの頃に引き戻される。

しばらくして、楽々は震える手でスマホの電源を落とした。

静かになった部屋で、ようやく少しだけ呼吸が戻る。

けれど胸の奥には、重い疲労だけが残っていた。

まるで、「生き延びる」だけで一日分の体力を使い切ったみたいに。 





翌日。

楽々は学生相談室の前で、十分くらい立ち尽くしていた。

入るだけ。

ただ入るだけなのに、身体が動かない。

昨夜はほとんど眠れなかった。

父親からの通知が怖くてスマホの電源を切ったまま、布団の中で朝まで浅い呼吸を繰り返していた。

朝起きた時には、もう全部キャンセルして消えたかった。

大学も。

人間関係も。

自分自身も。

けれど結局、ここに来ている。

逃げきれなかったというより、完全に一人になるのが怖かった。


コンコン、と弱くノックする。

「どうぞ」

カウンセラーの声。

楽々は扉を開けた。

「こんにちはー」

いつもの調子で笑おうとした。

でも、声がうまく出なかった。

カウンセラーは楽々の顔を見るなり、少し表情を変えた。

「……かなりしんどそうだね」


その瞬間。

何かが切れた。

楽々は椅子に座る前に、ぐしゃりと顔を歪めた。

呼吸が乱れる。

「あ、やば」

笑おうとした声が、そのまま嗚咽に変わる。

「ちょ、待って、違うんです、あの」

涙が止まらない。

自分でも意味が分からなかった。

今までだってもっと酷いことはあった。

父親から怒鳴られたことも、否定されたことも、無視されたことも。

なのに。

昨日のLINEだけで、限界になった。

「……怖かった」

かすれた声が漏れる。

「連絡来ただけなのに……なんか、もう、全部ダメになって」

呼吸がうまく繋がらない。

胸が痛い。

頭もぐちゃぐちゃだった。 

「返事しなきゃって思って……でも嫌で……怒られるの怖くて……」

涙で言葉が途切れる。

「私、もう家出てるのに……なんでこんな怖いのか分かんなくて……」

カウンセラーは急かさなかった。

ただ静かにそこにいた。


楽々は膝を抱えるみたいに身体を縮めた。

「私、変ですよね」

「どうしてそう思うの?」

「普通、LINE一通でこんなんならないじゃないですか」

笑おうとした。

でも失敗した。

口元が歪んで、また涙が落ちる。

「ずっと、“大丈夫なふり”してたんです」

ぽつり、と楽々が言う。

「へらへらしてた方が楽だから」

深刻そうにすると、本当に壊れてるって認めるみたいで怖かった。

だから冗談っぽく話す。

希死念慮も。

自傷も。

全部。

軽く言えば、拒絶されても傷が浅い気がしたから。

「でも昨日、なんか……無理で」

声が震える。

「もう頑張れないかもしれないって思ったら、すごい怖くて」

その言葉を聞いて、カウンセラーが静かに尋ねた。

「頑張れなくなったら、どうなると思ってる?」

楽々は答えられなかった。

でも頭の中には、ずっと同じ感覚がある。

役に立たない人間は、愛されない。

迷惑をかける人間は、捨てられる。

それは理屈じゃなく、ずっと昔から身体に刻まれている感覚だった。

「……疲れた」

楽々が小さく言う。

「もう、ずっと怖い」

涙が止まらなかった。

こんなふうに人前で泣くのはいつぶりだろう。

泣いたら面倒を増やすと思っていた。

泣いたら誰かを困らせると思っていた。

だからずっと、一人で飲み込んできた。

カウンセラーはティッシュ箱をそっと近づけた。

「楽々さん、“平気な顔をして生き延びる”のを、かなり長い間やってきたんだと思う」

その言葉に、楽々は俯いた。

「……分かんないです」

「分からなくなるくらい、当たり前になってたのかもしれないね」


部屋は静かだった。

外では学生たちの笑い声が聞こえる。

普通の日常。

でもその部屋の中だけ、時間がゆっくりだった。

しばらく泣いたあと、楽々はぼそっと言った。

「こんなに泣く予定じゃなかったんですけど」

カウンセラーが少しだけ笑う。

「予定外、たまにはいいんじゃない」

楽々は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、少しだけ息を吐いた。

その瞬間だけ。

ずっと強張っていた身体から、ほんの少し力が抜けた。





春だった。

大学のキャンパスでは、新入生らしい子たちが地図を片手に歩いている。

去年の今頃、楽々もあんな顔をしていた気がする。

必死で。空回りして。笑って。壊れかけながら。


「楽々先輩、これ提出ここで合ってます?」

「あ、それで大丈夫だよ」

学生ボランティアの後輩に答えながら、楽々は資料を整える。

少し前の自分なら、頼られるたびに無理をしていた。

断れなかった。

期待に応えなきゃと思っていた。

でも今は違う。

「ごめん、それ今日は手伝えない」

「今週ちょっと余裕なくて」

そう言える日が増えた。

最初は怖かった。

断ったら嫌われると思っていたから。

でも実際には、「了解です!」と返ってくることの方が多かった。

世界は、思っていたよりすぐには壊れなかった。 


精神科への通院は続いている。

薬もまだ飲んでいる。

希死念慮が完全になくなったわけではない。

疲れた夜には、「消えたい」が顔を出すこともある。

でも。

前みたいに、一人で抱え込んで沈んでいく感じではなくなった。


「最近どう?」

診察室で主治医が聞く。

楽々は少し考えてから笑った。

「……まあ、生きるの下手なのは相変わらずです」

「でも前より、“限界になる前”に休めるようになったよね」

「それは、まあ」

苦笑する。


以前の楽々なら、熱があっても予定を詰め込んでいた。

今は、ちゃんと休む。

怖くても。

罪悪感があっても。

「休んでも終わらない」を、少しずつ覚えてきた。 

父親とは距離を置いた。

連絡先も、一時的にミュートにしている。

最初は罪悪感で吐きそうだった。

でもカウンセラーに言われた。

「“耐え続けること”だけが優しさじゃないよ」

その言葉は、長い間楽々の中に残っている。


カウンセリングの帰り道。

楽々はコンビニでアイスを買った。

風が暖かい。

橋の上で立ち止まる。

一年前、ここで「消えたい」と思っていたことを思い出す。

あの頃は、生きることが罰みたいだった。

でも今は。

苦しい日もある。

不安定な日もある。

泣く日もある。

それでも、「明日」が完全な絶望ではなくなった。 


スマホが鳴る。

画面を見る。

学生相談室のカウンセラーからだった。

『実習、無理しすぎないようにね』

楽々は少し笑う。

『やばそうになったらちゃんと相談します』

送信してから、空を見上げた。

青空だった。


楽々は最近、少しだけ気づいている。

「役に立つから愛される」のではなく。

ただ存在しているだけで、気にかけてくれる人がいることを。

それはまだ、完全には信じきれない。

でも昔よりは、少しだけ信じてみたいと思える。

春風が吹く。

遠くで電車が走る音がした。

楽々はアイスの袋を揺らしながら、ゆっくり歩き出す。

生きることは、相変わらず難しい。

それでも。

前よりほんの少しだけ、自分の人生を続けてみたいと思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ