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【ケメ子:第6話】ヴィンテージの輝きと更年期の嵐

【ケメ子:第6話】ヴィンテージの輝きと、更年期の嵐

 2010年代後半。東京。

 50代に突入したケメ子は、自身が設立したクリエイティブ・エージェンシーの代表として、確固たる地位を築いていた。

 かつての「数億円の予算」を奪い合うような消耗戦からは身を引き、今は自分が本当に価値を感じる伝統工芸や、地方再生のブランディングをライフワークにしている。

「ケメ子さん、このデザイン、少し『落ち着きすぎ』じゃないですか?」

 20代の若いスタッフにそう言われ、ケメ子は老眼鏡(彼女はこれを『ヴィンテージ・グラス』と呼んでいる)を少しずらして微笑んだ。

「いいのよ。派手なだけのものは、もうお腹いっぱい。今は、時間が経っても色褪せない『本物』が必要なの」

 仕事は順調。自由な独身生活。

 だが、そんな彼女にも抗えない波が押し寄せていた。

 急に顔が熱くなるホットフラッシュ、理由のないイライラ、そして夜中にふと訪れる、底知れぬ孤独感。いわゆる「更年期」という、女性にとっての大きな人生の転換期だ。

 ある夜。仕事帰りにふと立ち寄ったデパートの鏡に映った自分を見て、ケメ子は足を止めた。

 そこには、かつて「アフロ」と言われたボリュームを抑え、エレガントなショートボブにした、一人の「大人の女性」がいた。

 

「……老けたわね、私も」

 思わず零れた言葉。その時、彼女の脳裏を駆け巡ったのは、1982年のあの日々だった。

 プールの授業で「サクサク」と叫んでいた黄色い男子。屋上から伝説を刻んだあおちゃん。

 あの頃の自分たちは、50代になるなんて想像もしていなかった。

 ふと、SNSや共通の知人を通じて流れてくる仲間たちの現在地が、彼女を勇気づける。

 きよぴこは、自身のコンサルタント業をさらに広げ、今や「迷えるビジネスマンの神」として講演活動で全国を回っているらしい。

 やおたは、買い取った山に小さな天文台を建て、ついに「新種の昆虫」を発見したと学界で話題になっているという。

 ちくは、息子に会社を譲り、自身は「古民家再生のレジェンド」として、全国の現場を飛び回っているらしい。

「みんな、人生の第3コーナーを、自分らしく回ってる……」

 ケメ子は、バッグからお気に入りの派手な色の口紅を取り出し、丁寧に塗り直した。

 たとえホルモンバランスが乱れようとも、体力が落ちようとも、自分の中の「1982年の炎」は消えていない。

「さて、明日はどの街をプロデュースしてやろうかしら」

 57歳になった自分がこの「ゆらぎの時期」を振り返った時、「あの時、自分の変化をまるごと受け入れたから、今の私がある」と、優雅にシャンパンを傾けながら言えるように。

 ケメ子の50代は、失われていく若さを追うのではなく、積み重ねてきた経験を「ヴィンテージの輝き」へと昇華させる、深みのある季節となっていた。

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