表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/44

【間話後編】きよぴこ 奪還計画とサクサクの正体

【間話:後編】きよぴこ奪還計画と、サクサクの正体

 1982年、土曜日。

 本来なら家で『女の60分』の過激なレポートや『モーレツしごき教室』のスパルタぶりを笑いながら眺めているはずの午後。だが、ちく、やおた、ケメ子の3人は、駅前の植え込みに身を潜めていた。

「サクサク! 世界をサクサクに! アシスタントきよぴこ、もっと大きな声でサクサクだよ!」

「……サクサク。世界を、サクサクに……(もう嫌だ、帰りたい)」

 駅前で虚ろな目をしてチラシを配るきよぴこ。その後ろで黄色い服の男が吠えている。

「よし、作戦開始だ」

 俺は屋上を見上げて、大きく手を挙げた。

 すると、駅ビルの屋上に「青い仮面」が姿を現した。あおちゃんだ。彼は昨日からの「仕込み」により、今や人間スプリンクラーと化している。

 次の瞬間、あおちゃんから放たれた「聖なる雨」が、サクサクの頭上に降り注いだ。

「サクサク!? 予報にない雨だ! きよぴこ、今日はサクサク中止だよ。撤退だ!」

 濡れるのを嫌ったサクサクは、蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 奪還成功……に見えたが、あいつは明日もまたやってくる。俺たちは根本的な解決を求めて、やおたの家へと向い作戦を練り直すことにした。


 やおたの部屋には、弟のちはるも待機していた。やおたとちはるは、昨晩から徹夜で「サクサク」の正体を分析していたらしい。

「河童の僕にはわかるのですが……」

 ちはるが、いつになく真剣な表情で口を開いた。

「彼は、人間じゃないです」

「じゃあ何なんだよ!」

 俺のツッコミに、部屋の温度がスッと下がった。ちはるが言った。

「彼は……ピカチュウです。妖怪の一種です」

「痛っ!」

 ケメ子がちはるの頭をスパーンと叩いた。

「妖怪なんてこの世にいるわけないでしょ」

「でも、これを見てください」

 ちはるがクラス名簿を指さした。

「父さんたちのクラスは42人のはずです。でも、教室の机は何個ありますか?」

 俺とケメ子は顔を見合わせた。「……43個だ」

 背筋に冷たいものが走った。ずっと、数がおかしかったんだ。

 やおたが棚から古い和紙の束を取り出した。

「江戸時代の妖怪図鑑だよ。ここを見て……」

 そこには、黄色い服を着て『サクサク』と鳴きながら村人を洗脳する、奇怪な妖怪の姿が描かれていた。名は『比蚊忠ぴかちゅう』。

「僕、何年か前にこいつを見たことがあるんです」

「お前、5歳 だろ……いや、今はいい。どうすればいいんだ?」

 やおたが、赤い木の実を改造したような奇妙な球体を取り出した。

「……妖怪球。これに閉じ込めるしかない」


 翌日。再びチラシ配りに現れたサクサクの前に、俺たち4人と、先頭に立ったちはるが立ちはだかった。

「サクサクくん、久しぶりだね」

 ちはるの言葉に、サクサクの動きが止まった。初めて見る、動揺の表情。

「この世で悪いことしちゃ、ダメだよ」

 ちはるが説教を終えると同時に、右手に持ったボールをフルスイングで投げつけた。

 カチッ、という音とともにボールが開き、激しい光がサクサクを包み込む。

「サク……サクサクゥゥゥーッ!」

 断末魔の叫びとともに、黄色い影はボールの中へと吸い込まれ、最後には静かになった。

 ……静寂。

 きよぴこは解放された。お姉さんへの下心が生んだ悲劇は、まさかの「妖怪封印」という形で幕を閉じたのだ。

 俺たちは、足元に転がる赤いボールを見つめていた。

 起きたことは現実だ。でも、あまりにも非現実的すぎて、誰も声が出ない。

「……なあ。これ、どうするんだ?」

 俺の問いに、誰も答えなかった。ただ、1982年の秋の風が、少しだけ冷たく通り抜けただけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ