【間話:ちくの嫉妬】黄色い影と放課後の違和感
【間話:ちくの嫉妬】黄色い影と、放課後の違和感
1982年、秋。
俺は、校門の前でやおたの自転車の荷台に腰掛け、不機嫌に地面を蹴っていた。
視線の先には、校舎から出てくるきよぴこ。あいつは今日、俺たちと一緒にゲーセンで『ゼビウス』の攻略をする約束だったはずだ。なのに、あいつの隣には、眩しいほどに「黄色い服」を着たあの「サクサク」がベッタリと張り付いている。
「……なあ、やおた。最近、きよぴこのやつ、あのサクサクと仲良すぎないか?」
やおたは、愛用の天体観測用カタログを読みながら、感情の薄い声で答えた。
「……引力の問題だよ。きよぴこがサクサクの異質なエネルギー圏に捕まったんだ。一度入ると、光さえ脱出できないブラックホールさ、あれは」
きよぴこは、サクサク男子に肩を組まれ、困ったような顔をしながらも、なぜか大人しくついて行っている。
「チッ、あいつ、俺たちとの攻略を放り出して、あの変な擬音野郎を選んだのかよ」
俺は少しだけ、胸の奥がムズムズするのを感じた。それが「嫉妬」だなんて、硬派な中学生の俺は口が裂けても言えなかったけれど。
[きよぴこ視点]
違う。みんな、大きな勘違いをしてるんだ。
僕がなぜ、この「サクサク」と連呼する黄色い騒音公害と一緒に下校しているのか。それは、友情なんて格好いいもんじゃない。
(……サクサクの姉貴、マジで女子大生みたいで超美人なんだもん!)
以前、プリントを届けに行った時に一瞬だけ見えた、サクサクの姉。その美しさは、この学校の女子を全員集めても敵わないほど、洗練された都会的な輝きを放っていた。
僕の目的はただ一つ。あのお姉さんに「きよぴこ君、また来たの?」と微笑んでもらうこと。そのためなら、弟のサクサク攻撃くらい、環境音楽として聞き流してやる。
「サクサク! きよぴこ、今日の歩幅、1.2倍でサクサクだね!」
「……そうだね。すごくサクサクしてるよ。早く家に行こうぜ」
僕は期待に胸を膨らませ、サクサクの家の玄関をくぐった。
[サクサク視点]
やっぱり、きよぴこは僕の親友だ。
僕が「家に来て」と言ったら、二つ返事でついてきてくれた。彼は僕の話をいつも「そうだね」と全肯定してくれる、最高の理解者だ。
僕の部屋に入ると、きよぴこはなぜか部屋の中をキョロキョロと探っている。きっと、僕のサクサクな感性に圧倒されてるんだね。
「きよぴこ、座って。今日は大事な話があるんだ」
「……うん。ところで、お姉さんは? 部屋にいるの?」
「お姉ちゃんはバイトだよ。そんなことより、聞いてよ」
僕は、学習ノートに書き殴った「世界サクサク化計画」の構想を見せた。
「僕の夢はね、この世界のすべての言葉を『サクサク』に書き換える布教活動なんだ。そして、きよぴこ。君をその活動の『筆頭アシスタント』に任命するよ。サクサク!」
「……え? アシスタント?」
「毎日僕の家に来て、サクサクチラシを100枚書くんだ。明日から、放課後は全部サクサクだよ」
きよぴこの顔が、一瞬で青ざめた。
「……あ、ダメだ。急にお腹が痛くなってきた。姉さん……じゃなくて、腹がサクサク鳴ってる。帰るよ!」
きよぴこは脱兎のごとく部屋を飛び出していった。照れ屋さんだなあ。
翌朝、学校。
登校するなり、きよぴこが幽霊のような顔で俺たちのところに這い寄ってきた。
「……助けてくれ。あいつ、マジだ」
そこへ、黄色い影が音もなく忍び寄る。
「サクサク! アシスタントきよぴこ、おはよう! 今日も放課後、僕の家でサクサクの修行だ。毎日欠かさず、サクサクだよ!」
サクサク男子はそれだけ言うと、スキップで去っていった。
きよぴこはその場に崩れ落ちた。
「……あいつ、僕が毎日家に来るのを既定路線にしてる。お姉さんに会えるどころか、サクサクのチラシ書きで中学生活が終わる……!」
俺とやおた、そして話を聞いていたケメ子は顔を見合わせた。
ケメ子が腕を組んで言った。
「自業自得だけど、きよぴこがあの黄色いのに完全吸収されるのは、私たちのグループにとっても損失ね。学校中がサクサクしちゃったら、たまったもんじゃないわ」
「……隔離が必要だね。きよぴこをサクサクの呪縛から解き放つ『脱会計画』を立てよう」
やおたが冷静に提案した。
「よし」と、俺は拳を握った。
「あいつを救い出すぞ。……まぁ、きよぴこがサクサクの姉貴目当てだったってのは、後でじっくり問い詰めるとしてな」
こうして、1982年最大の迷作戦『きよぴこサクサク脱会計画』が幕を開けたのである




