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山の地主と受け継がれる秘密

【やおた:第5話】山の地主と、受け継がれる秘密

 2000年代後半。やおたは40代半ばを過ぎ、その顔には深い知性と、長年野山を駆け巡った者特有の精悍さが刻まれていた。

 長年勤めた事務機会社では、もはや「ベテランの変人」として独自のポジションを築いていたが、彼にとって会社員としての生活は、あくまで「資金調達」の手段に過ぎなかった。

 そんな彼に、人生最大の転機が訪れる。

 かつて彼が恋人と別れてまで守ろうとした、あの山嶺の観測ポイント。その一帯を含む広大な山林の所有者が、高齢を理由に土地を手放すという話が舞い込んできたのだ。

「やおたさん、あんたならこの山を荒らさずに、大切にしてくれるやろ」

 土地の持ち主にそう言われ、やおたは震える手で契約書に判を突いた。

 なけなしの貯金と、定年までを担保にしたローン。世の中の40代が都心のマンションを買う中、彼は誰も見向きもしない「深い森」を買ったのだ。

 彼はその山を、ただの観測拠点にはしなかった。

 週末になると、山にこもって古い小屋を自分の手で直し、そこを『未確認自然科学研究所』と名付けた。

 すると、不思議なことが起きた。ネットの掲示板や噂を聞きつけた若者や、近所の子供たちが、彼のもとを訪れるようになったのだ。

「おじさん、本当にここにツチノコがいるの?」

 子供たちに目を輝かせて聞かれた時、やおたはかつての自分たちを思い出した。

 1982年、中学の裏山で、仲間たちとバカげた夢を追いかけていたあの時間。

 今、彼は「夢を追う側」から、「夢を守り、伝える側」へと変わっていたのだ。

 夜、山小屋の暖炉の火を眺めながら、やおたはふと、風の便りに聞いた仲間たちの噂を反芻する。

 ケメ子は、大きな会社を辞めて自分の事務所を構え、独自の美学を貫いているらしい。

 きよぴこもまた、逆境を笑いに変えて、自分の言葉を売る商売を始めたという。

 ちくは、守るべき職人たちを率いて、この国の基盤を支え続けている。

「みんな、自分の『山』を見つけたんだな」

 やおたは、山小屋のノートに今日の観測記録を書き込んだ。

 UMAは見つかっていない。けれど、この山を守り、次世代に「目に見えないものを信じる心」を伝えること。それが、彼にとっての本当の収穫だったのかもしれない。

 57歳になった自分がこの静かな夜を思い出した時、「あの時、山を買って本当によかった」と、澄んだ瞳で言えるように。

 やおたの40代は、孤独な探求を卒業し、自分の夢を「現実の景色」へと定着させる豊かな時間へと変わっていった。

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