【間話:あおちゃん】青い衝撃の裏側 あるいは 聖水 なる水の放流
【あおちゃん:間話】青い衝撃の裏側、あるいは聖なる水の放流
1982年、夏。
あおちゃんは、人生最大の「使命感」に燃えていた。
中学2年生の男子にとって、夏休みとはただの休暇ではない。それは、己の男気を試し、伝説を刻むための「聖戦」の期間なのだ。
彼は、自室の鏡の前で、青いフェイスタオルを顔に巻き、目の部分だけをくり抜いた「青い仮面」を装着してみた。
「……よし。これで俺の正体は、誰にもバレない」
あおちゃんは、ニヒルに笑った。
彼が狙っているのは、隣の中学校の不良グループだ。彼らは最近、あおちゃんたちの溜まり場である駄菓子屋周辺で幅を利かせ、理不尽な「カツアゲ」を働いていた。
「正義の味方は、武器を持たない。俺には、天から授かった『聖水』がある」
あおちゃんは、作戦決行の数時間前から、大量の麦茶とコーラを摂取し、膀胱を限界まで膨らませる「聖水の濃縮作業」に入った。
そして、運命の夜。
青い仮面を被り、闇に紛れて不良グループの後を追ったあおちゃんは、彼らが路地裏でタバコを吸い始めた瞬間、背後の塀の上から姿を現した。
「貴様ら! 若者の未来を汚す悪党め! 正義の裁きを受けろ!」
あおちゃんは、渾身の力でチャックを下ろし、天に向かって(そして不良に向かって)「聖水」を放流した。
「うわあああ! なんだこれは! 濡れてる、温かい!」
「青い仮面の変態だ! 逃げろ!」
不良たちは、予期せぬ「聖なる攻撃」にパニックに陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「……ふっ。悪は滅びた」
あおちゃんは、塀の上で勝利のポーズを決めた。
しかし、その直後。彼は重大な事実に気づく。
「……あ、チャック、閉めるの忘れてた」
夜風が、彼の「聖なる武器」を冷たく冷やした。
この事件から数日後。
あおちゃんは、もう一つの「伝説」を刻むことになる。
それは、学校の屋上でのことだ。
彼には、密かに想いを寄せる女子生徒がいた。しかし、内気な彼は、その気持ちを伝えることができずにいた。
「……この溢れる想いを、どうすればいい」
屋上の柵に身を乗り出し、彼は広大な校庭を見下ろした。
その時、彼の脳裏に、ある突拍子もないアイデアが浮かぶ。
「……この想いを、液状化して、世界に放とう」
彼は再び、チャックを下ろした。
これは、ただの放尿ではない。これは、彼なりの「義理の告白」なのだ。
「届け! 俺の熱いメッセージ!」
放たれた「義理の聖水」は、虹色の放物線を描き、校庭の隅にある百葉箱の屋根へと静かに降り注いだ。
「……これで、俺の恋は、百葉箱と共に、永遠に刻まれた」
あおちゃんは、満足げに微笑んだ。
百葉箱の温度計が、彼の「熱い想い」によって、一時的に数度上昇したかもしれないということは、誰も知らない秘密である。
1982年、夏。
あおちゃんの「青い衝撃」と「聖なる放流」は、誰にも知られることなく、しかし確実に、この中学校の裏歴史に刻まれた。
57歳になった彼が、このバカバカしくも純粋だった夏を思い出した時、「あの時、チャックを閉め忘れてよかった」と、優しい顔で言えるように。




