バブルの嵐とアフロの再会
※本作は、短編小説『中学2年生』の続編となります。
1982年、愛知の片田舎で共に過ごした「あの頃のあいつら」が、大人になって再集結。当時のエピソードを知らなくても楽しめますが、前作とあわせて読むと、より彼らの「変貌ぶり」を楽しんでいただけます。
ケメ子のその後・第1話:バブルの嵐とアフロの再会
1980年代後半。かつて「漏れ姉」と呼ばれたケメ子は、地元の愛知を離れ、東京の女子大に通っていた。
周囲には、中学時代の「おむつマン」も、煩悩まみれの「きよぴこ」も、ツチノコを追う「やおた」もいない。
そこにあるのは、ワンレン、ボディコン、肩パッド。
バブルの狂乱に沸く東京の夜だった。
「東京なら、誰も私の過去を知らない」
ケメ子は、真っ赤な口紅を塗り、流行のヘアスプレーでガチガチに固めた長い髪をなびかせていた。かつて湿気を吸えば「アフロ」へと変貌した野生の髪質は、都会の最新テクノロジーによって完全に封印されていた。
ある金曜日の夜。彼女はバイト先の先輩に誘われ、六本木のディスコへと繰り出した。
重低音が響き、ミラーボールが回る。お立ち台に上がって踊るケメ子の姿は、どこからどう見ても洗練された都会の女子大生だった。
しかし、運命のいたずらか、フロアの熱気が最高潮に達したその時、ディスコの空調が故障した。
凄まじい湿気と熱気が、密閉された空間を支配する。
「……マズい」
ケメ子の額から汗が噴き出す。その瞬間、彼女の髪に異変が起きた。
都会のヘアスプレーという「偽りの仮面」が、愛知の野生の血に負けたのだ。
ボワンッ、ボワンッ!
音を立てるように髪が膨らみ、わずか数分で、お立ち台には巨大な「漆黒の球体」が降臨した。
「え、何あの頭!?」「爆発したの!?」
どよめく周囲。バイトの先輩も絶句して後ずさりする。
孤独な都会の真ん中で、ケメ子は一瞬、中学のプールサイドを思い出していた。あの時、屋上から放尿していた「あおちゃん」や、カッパの弟を連れていた「やおた」の、突き抜けたバカバカしさを。
「……笑えばいいじゃない。これが私よ!」
彼女は開き直った。アフロを揺らしながら、当時流行っていたステップを、なぜか中学の体育祭で見た「カッパ走り」のようなフォームで踏み始めた。
周囲はドン引きしたが、一人の酔っ払った客が爆笑しながら叫んだ。
「最高だぜ、アフロお姉さん! 団子40個入ってそうな頭だな!」
その一言で、ケメ子の脳内に「おしるこ」の記憶がフラッシュバックした。
「おしるこの団子は……3個よ。40個は、あいつの嘘……」
ケメ子は一人で笑い転げた。
バブルの狂乱、バラバラになった仲間たち。
誰も知る人のいない東京のディスコで、ケメ子はアフロになった頭を誇らしげに振り回し、夜が明けるまで踊り続けた。
翌朝、ヘアスプレーでベタベタになった髪を引きずりながら地下鉄に乗るケメ子の顔には、かつて「漏れ姉」と呼ばれた時のような、凛とした強さが戻っていた。




