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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

重大口

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやくんは、「重さ」について考えてみたことはあるかい?

 我々は生きている限り、軽い重いに終始悩ませられる。気圧、重力といったものに始終引っ張られ続け、自分の体重に一喜一憂する。

 そうかと思えば、自分の人生を振り返ったときの軽さに不安を覚えたとき、重さを求めてしまう。

 自分に仕事や使命をおっかぶせてみたり、愛する誰かを作って自分の行動に方向性を持たせてみたり、コミュニティに入って周囲との同調を通し、でっかい何かにつながろうとしたりする。

 でも重ければ結局、身動きも考え方も制限され、同じようなことをやらされることで「やっぱオレ、わたしの人生軽くね?」と思い至り、最終的には自分ひとりで他人の重みを感じていくことになるわけだ。

 いるだけで重い。そのあるがままの感受性だけで重い。誰にも振りかざさない重さをみんなが受け入れられればいいのだけど、残念ながら人間社会はそこまでのレベルに至っておらず。今日もまた、重さに悩むときがあったりするものだ。

 つい最近、友達から「重さ」に関する不可解な話を聞いてね。少し、君にも尋ねてみようと思ったんだよ。ちょっと耳に入れてみないかい?


 友達の実家がある地域には、「重大口じゅうおおくち」と呼ばれる、巨大な穴が存在する箇所がある。

 友達の家から徒歩数分程度。だだっ広い田んぼを区切る、あぜ道たちの交差点にその穴は存在する。人などが誤って落ちないように昔から柵のたぐいが設けられ、今は金網のフェンスでまわりをぐるりと囲まれているようだ。

 それだけなら、同じように危険な穴が全国各地にありそうなもの。しかし、特徴的なのがそのフェンスから外側へ、何本もの管がはみ出している点だ。


 伝声管だ。ラッパの口によく似た形状のそれが、初見だとフェンスを越えて花咲いているかのように思える。管は反対の先は、いずれも穴の中へ飲み込まれていて、先端を見通せないほど深いところまで伸びているんだ。

 この伝声管、通りかかった人は誰でも使うことが可能。むしろ、使うことが推奨される。

 その管の中へ、日ごろの不平不満など、自分が耐えかねるストレスを叫びとしてぶちまけるんだ。伝声管にはカバーもついているから、しっかり内側まで口を入れれば声が漏れることもないらしい。

 なぜ、そのようなことをするのか? それは各々が発する激重感情によって、穴の中のものが這い上がれないようにするためとか。


 ――あ、いま笑っただろ? そんなに表現がおかしかったか?


 誰だって生きていれば、打ち明けることがはばかられて、ひとり枕を濡らしたくなるような暗くて重い気持ちを抱くことがあるものだ。そいつをあの重大口にぶつけることによって発散するとともに、重みを穴の底へと送り込むのさ。


 友達もはじめて聞いたときには、ちょっと何を言っているのかわからない心地だったらしい。それでも形だけは日ごろの不満や愚痴を、例の伝声管越しに放っていたらしいけどね。

 そして中学校にあがってからの部活動、最後の試合で惜しくも全国行きを逃してしまったとき。例の重大口のもとへ向かったそうなのさ。

 その日は地域で別の大きな行事があり、大人たちの大半は朝からそちらに人手を取られていた。少なくとも、友達が穴の近くに着くまで人の姿は見なかったという。

 いよいよ伝声管の開いた口の一方が近づいてきて、細かいフェンスの網目たちまで判別できるくらいの間合いまで詰めたとき。


 ぴたり。

 確かに、そう聞こえたと友達はいう。口で出した擬音語ではなく、耳へ響いた音はまさにそれだった。

 横や背後からではなく、正面から。あの重大口から響いているように思えたのだとか。

 友達はいったん足を止めて、耳をすませる。何十秒も間が空いたものの、またも「ぴたり」と穴の中から聞こえてきた。


「重大口の底には、地獄がある。その重しはしっかりしておかないとね、地獄があがってきてしまうから、みんなで重しをしてあげるんだよ。あんたもね」


 母親がそういっていたのが、思い出される。もし、この音を出しているのが話通りの「地獄」だとしたら……。


 見てみたい、という気持ちも最初はあったが、伝声管のすぐそば。穴を見下ろせるあたりまでくると、そうもいっていられなくなる。

 このときすでに、友達の身にまとう服たちはそこかしこで煙を立ち昇らせていたのさ。ひとりでにね。

 しかも体中もまた勝手に熱を帯びているのを感じたし、嗅覚は先ほどからの焦げ臭い香りにさらされて、ほとんどバカになってしまっている。

 そこへ、三度ぺたり。

 とたん、ぱっと両腕の袖口にだいだい色の火が灯る。どちらもガスライターの火ほどの大きさではあったが、確実に生地を焦がし、その下にある肌もじりじりと焼かれ出している。

 ほとんど夢中で、足元の土たちをわしづかんでは火へ叩きつけた。鎮めたのを確かめるや、友達は伝声管へ飛びついた。火がつかなかったものの、全身もまたかっと熱くなるのを感じたそうな。


 ――次は、身体へじかに火が付く!


 直感した友達は、伝声管に飛びつくやこの日の負けと、終わってしまった3年間の部活動に関する思いのたけをぶちまけたらしい。

 そうしてよりのち、四度目の「ぴたり」が響いてくることはなかった。体にこもっていた熱たちも時間とともに冷めていく。

 親の言葉を借りるなら、友達の発した重みに地獄とやらが引っ込んでいったのだろう。


 過去、物理的に重大口を埋めようとする試みはあったものの、いずれもちょっとやそっとでは底が見えないまま。やがては火事をはじめとする災害が起こり、対処に追われてそれどころではなくなってしまうという。

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