第五話 マンドラゴラさん、絶叫する
朝のまぶしい光が、植物園のガラス越しに差し込んでいる。
出勤後、アーシュタはジョウロに水を入れて、マンドラゴラさんに話しかけた。もはや日課になりつつある。
アーシュタの報告を聞いた上司が、興味津々といった様子でマンドラゴラさんを覗き込んでいる。
上司の手には革張りの手帳とペンがあり、マンドラゴラさんの生態についてメモしようと待ち構えていた。
「マンドラゴラさん、おはよう。今度から、外出するときは許可申請をしてもらうことになったよ」
ドラゴン厩舎ではあんなにおしゃべりしてはしゃいでいたマンドラゴラさんは、植木鉢の中でおとなしくしている。
「ドラゴン厩舎に遊びに行ってもいいけど、職員が連れていくから。脱走するんじゃなくて、教えてね。……ねぇ、聞いてる?」
マンドラゴラさんの頭の上の葉っぱが、ふるっと揺れた。土の中で聞いているのか聞いていないのか、いまいちよくわからない。
「聞いてるの!?」
アーシュタは茎をつかんで、植木鉢からマンドラゴラさんを引っこ抜いた。
「あ! ちょっと、アーシュタ!」
上司の制止の声は間に合わず、あぎゃああああという途轍もない悲鳴が植物園に響き渡った。
防御シールドも耳当てもしていなかったアーシュタと上司が目覚めたのは、お昼をすっかりまわった頃だった。
午後から植物園に出勤する職員がいなかったら、夜まで気を失ったままだったかもしれない。
「もう! びっくりしたよ。だって出勤したら、二人とも倒れてるんだもん」
同僚の忍び笑いに、アーシュタは赤髪をくしゃくしゃとかいて、マンドラゴラさんを見た。
マンドラゴラさんは土の中から少しだけ顔を出して、アーシュタから視線を逸らすと、口笛を吹いた。
<おわり>




