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第二話 マンドラゴラさんの帰還

 マンドラゴラさん探しは難航した。

 泥拭きマットの向こうにいるということは、植物園を出たということだ。

 アーシュタは植物園を出て、仮眠室を探し回ったり、隣接する建物──魔法書を集めた図書館や、攻撃魔法の訓練場……を探し回ったりしたが、影も形もない。


「んもう、マジで! 困る!!」


 藁にもすがる思いで、土に埋まったトリュフを探し当てる嗅覚を持つという豚を借りてきたり、人探しの魔法を使ったりもしたが、マンドラゴラさんの行方は(よう)として知れなかった。

 マンドラゴラさんは叫び声こそ凶悪だが、普段はおとなしい魔法植物であって、人間ではない。

 人探しの魔法のサーチ能力にも、対モンスター用の索敵魔法にも引っかからないようだ。


「ほんと頼むから出てきてよ! 始末書どころか、減給になるかもしれないじゃん!」


 アーシュタは半ばべそをかきながら、マンドラゴラさんを探し回った。

 日が傾いてきて空が朱金色に輝いても、群青色の夜が少しずつ近づいてきても、マンドラゴラさんは見つからなかった。

 すっかり夜になって、アーシュタは植物園で途方に暮れた。くたくただ。

 足を投げ出すように植物園のイスに座って、うとうとしはじめたアーシュタの背後で、カサっと小さな葉ずれの音が鳴った。

 マンドラゴラさんはぽってりとした胴体を器用に動かしながら、そろりそろりと足音を忍ばせて、自分の棲家である植木鉢に戻って行った。


***


「やっべ」


 翌朝、日の光であわてて目覚めたアーシュタは、植物園のイスに座り直すと口元を拭った。ヨダレが垂れている。

 マンドラゴラさんを探すのに疲れ果てて、すっかり寝入ってしまった。

 一つ伸びをして、しょぼしょぼする目をこする。気落ちした足取りで植木鉢の前に立ったとき、アーシュタの目は見開かれた。


「えっ! うっそ……。マンドラゴラさん、帰ってきてる!? どこ行ってたの!」


 マンドラゴラさんは土の中にすっかり埋まって、すやすやと安らかな寝息をたてていた。


「よかった……よかったぁ……始末書は書かなきゃだけど、減給は免れたー」


 足元からへなへなと座り込みそうになるのを堪えて、アーシュタはすぐに植物園の管理室に向かう。

 早朝なので、まだ上司は来ていない。

 アーシュタはメモ用紙にさらさらと羽ペンを走らせた。


『マンドラゴラさん、見つかりました!

 昨夜遅くまで探し回って、ちゃんと寝ていないので、本日はお休みをいただきます。


 ──アーシュタ』


 上司の机にメモを置いて、アーシュタはあくびを噛み殺しながら植物園を出た。

 しかし、マンドラゴラさんは、一体どこに行っていたのだろう。

 ただ植木鉢に植っているのが嫌になって、人生ならぬマンドラゴラ生でも満喫したくなったのだろうか。

 アーシュタは首をひねりながら、植物園の入り口から、眠るマンドラゴラさんをそっと見た。

 しっかり土をかぶっている。もしも土の外に出ていたら、マンドラゴラさんのイビキで被害者が出たかもしれない。

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