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【改訂版】ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物【リメイク】  作者: パラレル・ゲーマー
F級編

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第21話 神の護りと悪魔の契約書

「――賭け金は総取りだ」


 洞窟の最奥、静寂を取り戻したゴブリンの巣に、傷だらけの勝者の声が、まるで教会の鐘のように厳かに響き渡った。

 それは、ARコンタクトレンズを通じて彼の死闘を見守っていた数千人の観客たちの魂に、勝利のファンファーレとして直接叩き込まれた。


 宣言の直後、固唾を飲んで画面を見つめていたコメント欄は爆発した。

 いや、爆発という陳腐な言葉では到底表現しきれない。

 それは、堰き止められていたダムが一気に決壊したかのような凄まじい熱量の奔流。祝福と賞賛、ともはや意味をなさない魂の絶叫が濁流となって画面を埋め尽くしていく。


 視聴者A: うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 視聴者B: 勝った…勝ったぞおおおおおお!!! まじかよ!!!

 視聴者C: 神回! いや違う! これは伝説回だ!! 俺たちは今歴史の目撃者になったんだ!

 視聴者D: JOKER! JOKER! JOKER! JOKER! JOKER!

 視聴者E: ナイスオールイン! 痺れたぜ! 最後のブラフ合戦最高のギャンブルだった!

 視聴者F: あの絶望的な状況からひっくり返すとか人間じゃねえ! 俺の知ってるF級ダンジョンと違うんだが!?


 その熱狂をさらに加速させるように、画面には色とりどりのエフェクトを伴った「投げスーパーギフト」が、もはや滝というより天そのものが崩落してきたかのような凄まじい勢いで流れ込み始めた。


 緑色の諭吉が札束となって画面を乱舞する。赤く燃え盛るエフェクトと共に十万円のギフトが連打される。黄金の龍が画面を駆け巡る最高額の百万円ギフトまでもが、いくつもいくつも彼の勝利を祝福していた。


 画面の隅に表示されたカウンターの数字は、もはや隼人の優れた動体視力をもってしても正確に読み取ることすらできない。カウンターそのものが処理能力の限界を超えてバグを起こしたかのように、意味不明な点滅を繰り返している。


『チャンネル登録者数が 5,000人を突破しました!』

『チャンネル登録者数が 10,000人を突破しました!』

『チャンネル登録者数が 15,000人を突破しました!』

『チャンネル登録者数が 20,000人を突破しました!』


 システムメッセージの通知が、彼の視界の隅で止まることなく流れ続けていく。たった数時間の配信。その時間で彼は無名の新人から、誰もが決して無視できない探索者界隈の超新星スーパールーキーへと、その地位を強制的に引き上げられていた。


「…ははっ、景気がいいこった」


 隼人は、その非現実的な光景に乾いた笑いを漏らした。

 しかしこれで、彼がこの世界に足を踏み入れるそのずっと前から彼を縛り付けていた重い重い魂の枷――妹・美咲の命を繋ぎ止めるために、彼はあの裏社会のポーカーハウスの元締めからその大金を借りていたのだ。


 金利はない。

 だがその代わりに、彼は自らの「未来」を担保に入れていた。


 いつか必ずこの借りを返す。

 それができなければ、彼の人生は永遠にあの男の掌の上で踊らされることになる。


 その屈辱的な契約。

 その一部を、スパチャからの収益で返す事が出来る。


 長剣を杖代わりに、かろうじてその場に立つ。全身が悲鳴を上げていた。デバフの呪いは解けていたが、その代償のように蓄積されたダメージと疲労が一気に彼の肉体を蝕んでいた。HPバーはもうほとんど残っていない。赤く点滅するゲージが、彼がどれほど細く危険な綱の上を渡りきったのかを雄弁に物語っていた。


 だが不思議と、彼の心はこれ以上ないほどの静かな高揚感に包まれていた。


 勝ったのだ。

 あの絶望的なテーブルで。ディーラーのイカサマを見抜き、自らの全てを賭け、そして勝利を掴み取った。


 死線を超えたギャンブラーだけが味わうことのできる、脳が焼き切れるほどの快感が、彼の全身を支配していた。


 彼はゆっくりと周囲を見渡す。


 あれほど狂乱と憎悪に満ちていた空間は、今や嘘のような静寂に包まれている。

 彼が倒したゴブリンたちの死体はすでに光の粒子となって消え去り、後にはいくつかの粗末な武具やガラクタだけが虚しく転がっていた。生き残った者たちは王の死を悟り、蜘蛛の子を散らすように洞窟の暗闇の奥深くへと逃げ去ったのだろう。


 後に残されたのは、絶対的な勝者である彼ただ一人。


 隼人は、視聴者たちの興奮を一度クールダウンさせるように、ゆっくりと息を整えた。

 そして、玉座の跡地に残された豪華絢爛なドロップアイテムの山へと、一歩、また一歩と歩み寄っていく。


 その足取りは満身創痍のはずなのに、不思議と力強かった。


「さてと」


 彼のその静かな一言に、嵐のようだったコメント欄がぴたりと静まり返る。

 二万人を超える観客たちが、固唾を飲んで彼の次の言葉を待っていた。


「今回のショーの『配当』を、お前らと一緒に確認していこうじゃないか」


 その言葉に、二万人の期待は再び最高潮へと達した。

 勝利者だけが許された戦利品の確認作業だ。


 隼人はまず、戦利品の山の中でもひときわ大きく、そして濃密な紫色の輝きを放つ魔石を拾い上げた。

 ゴブリンの雑兵からドロップするあのくすんだ輝きの小石ではない。それは彼の拳ほどの大きさがあり、その内部でまるで小さな銀河が渦巻いているかのように、力強い魔力が脈打っていた。


 彼がそれを手に取った瞬間、ARカメラが即座に鑑定を開始する。


【ゴブリン・シャーマンの大魔石】を入手しました

 ・レアリティ: レア

 ・説明: 高位のゴブリンの心臓からのみ採取される極めて高純度の魔力の結晶体。ギルドや専門店で高額で取引される。

 ・推定市場価格: ¥50,000


「――五万」


 隼人の口から、思わず声が漏れた。

 その金額に、静まり返っていたコメント欄が再び爆発的な勢いで沸き立った。


 視聴者A: ごごまん!? まじか!

 視聴者B: F級ダンジョンのボスドロップで5万はヤバい! 大当たりじゃん!

 視聴者C: 俺がE級ダンジョンでパーティー組んで稼ぐ1日分より多いんだが…

 視聴者D: これだけで今日アメ横で揃えた装備代全部お釣り来るだろ!


 様々な意見が飛び交う中、隼人はその金額の持つ「重み」を改めて噛みしめていた。


 五万円。

 それは彼が雀荘の薄暗い光の下で、ハイエナのように他人の懐と顔色を窺いながら、何日も何日も神経をすり減らしてようやく稼げる金額。


 それがたった一体のボスを倒しただけで手に入った。


 これがダンジョン。

 これがハイリスク・ハイリターンの究極のテーブル。


 彼は自らの選択が間違っていなかったことを確信した。


「悪くない。当面の軍資金にはなりそうだ」


 内心の衝撃を完璧に隠しきり、彼はいつものクールな配信者「JOKER」として、そう嘯いてみせた。そのポーカーフェイスも、彼の数少ないしかし強力な武器の一つだった。


 次に彼は、魔石の隣に落ちていたいくつかの小さな宝石へと手を伸ばした。


【スキルジェム】。

 スキルが封じられた魔法の宝石だ。


 赤、青、緑と、それぞれの色が淡い光を放っている。PoEプレイヤーであれば、それが何を意味するのか一目で理解できるだろう。力の赤、技の緑、知性の青。


 彼はまず赤いジェムを拾い上げた。


【スキルジェム:ヘビーストライク】を入手しました

 ・種別: 戦士系 / アクティブスキル

 ・効果: 力を込めて目の前の敵に強力な一撃を叩き込む。


「ヘビーストライクか。筋力は上げたが、俺は戦士じゃない。宝の持ち腐れだな」


 コメント欄も「まあ戦士の基本スキルだな」「無職のJOKERさんには使えないか」と、冷静な反応を見せている。


 次に緑のジェム。


【スキルジェム:パリィ】を入手しました

 ・種別: 共通系 / アクティブスキル

 ・効果: 敵の攻撃をタイミングよく受け流し無効化する。成功すると、短時間自身の攻撃速度が上昇する。


「パリィ…ね。面白い。カウンター狙いのギャンブルスキルか」


 これには視聴者たちも「おおパリィは熱い!」「使いこなせれば神スキル!」「でも失敗すれば大ダメージだぞw」と、少しだけ興味を示した。


 そして最後に青いジェム。


【スキルジェム:フロストウォール】を入手しました

 ・種別: 魔術師系 / アクティブスキル

 ・効果: 前方に敵の移動と遠距離攻撃を阻害する氷の壁を生成する。


「氷の壁ねえ…。今は使えないが、【複数人の人生(マルチアカウント)】で魔術師になった時の布石にはなるか…?」


 隼人はそれらのジェムを一つ一つ確認すると、特に感情を動かすこともなく、淡々と自らのインベントリへと収納していった。


「まあこんなもんだろ。後でゆっくり性能でも見てみるか」


 その興味なさげな態度。

 それはショーを盛り上げるための、計算され尽くした「演出」だった。


 彼の目はすでに、戦利品の山の中に残された最後の、そして明らかに異質なオーラを放つ一つの「首飾り」に釘付けになっていたのだから。


 彼はこの平凡なスキルジェムという「前座」を見せることで、観客たちの期待を一度意図的に落ち着かせた。

 そして、これから始まるメインディッシュへの最高の「タメ」を作り出したのだ。


 彼のギャンブラーとしてのショーマンシップが光る瞬間だった。


 物語はついに、最後のそして最大の「配当」の鑑定へと、その舞台を移す。

 そのたった一つのユニークアイテムが、彼の運命を、そしてこの物語そのものを再び大きく動かしていくことになる。


 戦利品の山に最後に残されたのは、一つの首飾りだった。


 隼人はごくりと喉を鳴らした。彼のギャンブラーとしての直感がけたたましく警鐘を鳴らしている。これまでのアイテムとは明らかに「格」が違うと。


 魔石が放つのは純粋な魔力の輝き。スキルジェムが放つのは、それぞれの属性を象徴する秩序の光。


 だが、この首飾りから放たれるオーラは違った。


 それは黒く鞣されただけの、何の変哲もない革紐に、ただ一つ血のように深く鮮やかな赤い宝石がはめ込まれただけのシンプルな装飾品。

 しかしその赤い宝石は、まるで今しがたまで生きていた心臓のように、ゆっくりと、しかし確かにドクンドクンと脈打っているように見えた。


 そこから感じるのは神々しさではない。禍々しさとも少し違う。もっと生々しい何か。誰かの強い想いや執念、あるいは祈りのような、人の情念が凝り固まったかのような不思議なオーラだった。


 彼はまるで聖遺物にでも触れるかのように、慎重にその首飾りへと手を伸ばした。


 指先が赤い宝石に触れた瞬間。


 ――生きろ。

 ――何があっても生き延びろ。


 それは悲痛な叫びのようでもあり、切実な祈りのようでもあった。


「…っ!」


 隼人はそのあまりにも強い意志の奔流に、思わず手を引っ込めた。


 何だ今のは。

 アイテムに込められた残留思念か?


 彼が再び意を決して首飾りを手に取ると、ARシステムがようやくその鑑定を完了させ、彼の視界にその名をポップアップさせた。


清純の元素(ピュア・エレメント)


 そのアイテム名が表示された瞬間だった。


 それまで隼人の鑑定を固唾を飲んで見守っていたコメント欄の空気が、これまでの驚愕とはまた全く質の違う、ある種の「信仰的」とすら言えるような凄まじい熱狂に包まれた。


 視聴者A: うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 視聴者B: まじか! まじか! 出た! 有名なやつだ! おめでとうJOKER!

 視聴者C: 清純の元素!!!!!!! 神はいた!!!!!!!!

 視聴者D: これがあるのとないのとでは、今後の探索者人生が天と地ほど変わるぞ!

 視聴者E: 今日この配信を見られただけで俺はもう満足だ…。


 これまでとは明らかに違う賞賛の質。

 それは単なるラッキーに対するものではない。まるで巡礼者が長年探し求めていた聖地をついに発見したかのような、ある種の敬虔な喜びすらそこにはあった。


 隼人はそのあまりの熱狂ぶりに、完全に困惑していた。


「なんだ…? さっきの五万の魔石よりすごいのかこれは」


 彼の素直な疑問が、ARカメラのマイクを通じて配信に乗る。


 その問いかけに待ってましたとばかりに、これまで彼の戦いを冷静にしかし熱く見守ってきたSeekerNetの古参兵たちが、一斉にその知識を解放し始めた。

 キーボードを叩く音が聞こえてきそうなほどの速度で、ベテランたちの解説がコメント欄を駆け巡る。


 元ギルドマン@戦士一筋: JOKERさん落ち着いて聞いてくれ。そいつはユニーク等級の中では比較的手に入りやすい部類に入る。だから市場価格自体はたぶん2~3万ってとこだ。大魔石の方がよっぽど金にはなる。

 ハクスラ廃人: そうそう。でもなJOKER。値段が安いからってゴミだと思うなよ。むしろ逆だ。その効果があまりにも破格すぎるんで、ドロップ率が他のぶっ壊れユニークよりはほんの少しだけマシに設定されてるんだ。それでもF級ダンジョンのボスからドロップするなんて、天文学的な確率であることには変わりないがな。

 ベテランシーカ―: 問題はその効果だ。JOKERさんよく見てくれ。その首飾りにはスキルが付与されてるはずだ。おそらく【元素の盾 Lv10】。それは自分と周囲の味方の『全属性耐性』を26%も永続的に引き上げる超強力な防御オーラだ!


 隼人は彼らの言葉に導かれるように、アイテムの詳細表示へと視線を移した。

 そこには確かにこう記されていた。


 アイテム名: 清純の元素(ピュア・エレメント)

 種別: 首輪

 レアリティ: ユニーク

 効果:

 ・全耐性 +5%

 ・最大HP +40

 ・このアイテムに、Lv10の【元素の盾】スキルが付与される。

 ・【元素の盾】: 周囲の味方の火、氷、雷属性耐性を+26%するオーラ。


 フレーバーテキスト:

 王も英雄も神々でさえも

 皆等しくこの小さな光から始まった。

 恐れることはない。

 その一歩は祝福されている。


 全属性耐性プラス26%。

 そのあまりにもシンプルで、あまりにも暴力的な数字に、隼人は息を呑んだ。


 彼の頭の中で高速で計算が始まる。


 俺の左腕【万象の守り】が持つ全属性耐性+25%。

 それにこの+26%が加われば、合計で+51%。


 探索者の世界の絶対的なルール。耐性の上限は75%。

 高レベルのダンジョンに課せられる-30%や-50%といった凶悪なペナルティを、この二つのアイテムだけでほぼ完全に相殺することができる。


 これはもはや、ただの「保険」ではない。

 神の護り。絶対的な生存の保証。


 元ギルドマン@戦士一筋: 分かったかJOKERさん。普通オーラスキルは高レベルのスキルジェムじゃないと手に入らない。しかもスキルレベルを1から10まで上げるには、それこそ何ヶ月何年という途方もない時間がかかる。それをお前のようなレベル2の初心者が、いきなりレベル10の完成品として何のペナルティもなく使えるようになる。だからこいつは「有名」で「使える」初心者救済の神アイテムと呼ばれてるんだ。

 ハクスラ廃人: そう! それこそがこいつが「清純」と呼ばれる所以よ! だがなJOKER。もちろんうまい話には必ず裏がある。タダでこんな強力な力が手に入るわけがねえ。デメリットも当然ある。


 その言葉に、隼人はハッと我に返った。

 そうだ、ギャンブルのテーブルにノーリスク・ハイリターンなどという都合の良いカードは存在しない。必ずどこかに代償があるはずだ。


 ハクスラ廃人: オーラを発動させるには、お前の最大MPの50%を常に『予約』しなきゃならん! お前さっきのレベルアップでMPも少しは増えたかもしれねえが、それでもたかが知れてるだろ! そのオーラを発動させた瞬間、お前のMPは半分使い物にならなくなるんだ!

 ベテランシーカ―: そうなるとどうなるか分かるな? スキルを持たない無職のお前にとってはMPはただの飾りかもしれん。だがなポーション以外に回復手段がなくなるってことでもあるぞ! 今後回復スキルジェムを手に入れてもMPが足りなくて使えないかもしれない。まさに諸刃の剣だ。よく考えて使うんだな。

 元ギルドマン@戦士一筋: まさに諸刃の剣だ。鉄壁の防御力を手に入れる代わりに、お前の数少ないリソースであるMPの半分を失うことになる。よく考えて使うんだな。


 そのベテランたちの的確で、そして愛のある警告。

 それが隼人の頭に冷水を浴びせかけるように、冷静さを取り戻させた。


 視聴者たちの完璧な解説によって、隼人は自分がとんでもない「当たり」を引いたことを改めて、そして本当の意味で理解した。


 これは一攫千金の幻の秘宝ではない。

 もっと実践的で確実な勝利への「切符」。


 だがその切符は、同時に彼の乏しいリソースをさらに圧迫する悪魔の契約書でもあった。


 全耐性+51%の神の護り。

 その代わりに失われる継戦能力の可能性。


 最高の防御力と最低の継戦能力。

 このあまりにもピーキーでアンバランスな究極のトレードオフ。


 彼の心に絶望はなかった。

 むしろその逆だった。


 彼のギャンブラーとしての魂が、このあまりにも難解な、しかし解きがいのある「パズル」を前にして歓喜に打ち震えていた。

 彼のゲーマーとしての探求心が、この常識外れのカードをどうやって自分のデッキに組み込み、最強のコンボを生み出すかという無限の可能性に、どうしようもなく惹きつけられていた。


「なるほどな…」


 彼の口から、不敵な笑みが漏れた。


「最高の防御力と最低の継戦能力か。……また面白いカードが配られたもんだ」


 その声はもはや配信者として誰かに聞かせるためのものではない。

 ただ目の前の新たな、そして最高の「ゲーム」に対する、彼自身の偽らざる心の声だった。


 このパズルをどう解くか。

 MP問題をどう解決するか。

 MPそのものを増やすのか、MP回復手段を見つけるのか、あるいはMPを予約する割合を減らす「予約効率」という、あのSeekerNetの奥深くで語られていた雲の上の概念に手を出すのか。


 あるいはこの【清純の元素(ピュア・エレメント)】すらも材料にして、【運命の天秤(フェイト・スケール)】でさらに高みを目指すのか。


 彼の頭の中ではすでに、無数の勝利への道筋ビルドパスが光の速さで構築され、そして破棄されていく。


 これだ。

 これこそが俺が本当に求めていたゲーム。


 隼人は、熱狂の冷めやらぬ視聴者たちに向かって別れを告げる。

 その声には、新たな課題を見つけたことによる本物の自信と高揚感が滲み出ていた。


「さてと。今日のショーはこれでお開きだ。最高の配当も手に入れたしな」


 彼は手に入れたばかりの【清純の元素(ピュア・エレメント)】をカメラの前に一度だけかざして見せた。血のように赤い宝石が洞窟の光を反射して妖しく輝く。


「次にこの新しいオモチャをどう使いこなすか考えるところから始めるとしよう。じゃあな、お前ら」


 彼は最高のショーマンの笑顔で締めくくった。


「――最高の夜だったぜ」


 その言葉を最後に彼は配信を終了した。

 彼の視界から、熱狂のコメント欄と、天文学的な数字を叩き出していたであろうスパチャのカウンターが、すっと消える。


 後に残されたのは、絶対的な静寂と冷たい洞窟の空気、そして勝利者である彼ただ一人。


 彼は、広大な静寂を取り戻したゴブリンの巣に一人佇む。

 その前には新たな力と新たな課題、そして無限の可能性が広がっていた。

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