表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改訂版】ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物【リメイク】  作者: パラレル・ゲーマー
F級編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/36

第15話 無職の聖典11の掟

 神崎隼人がクリックした先のページは、彼の想像以上に無骨で、そして情報が凝縮された空間だった。

 サイトのデザインは一昔前の掲示板を思わせるシンプルなもの。だが、そこに書き連ねられている言葉の一つ一つには、幾多の死線を乗り越えてきたであろう先人たちの血と汗、そして仲間たちの死に対する後悔が染み込んでいるかのようだった。


 スレッドのタイトルは、『【永久保存版】新米無職がF級ダンジョンでまず死なないための11の掟』。

 それは彼が先ほど見つけた『無職総合スレ』のスレッド一覧の最も上に常に表示されるように設定された「固定スレッド」だった。スレッド主であろう「名無しのジョーカーLv.78」と名乗る人物によって、箇条書きで無職としての心構えが記されていた。


 スレッドにはすでに数万というコメントが寄せられていた。

「この記事に命を救われました」「これを読まずにF級を卒業しようとするのは自殺行為」「全ての無職の聖書バイブルだ」――賞賛と感謝の言葉が、その情報の価値を何よりも雄弁に物語っている。


 隼人は、そのスレッドの本文を一字一句、まるで聖典でも読み解くかのように脳裏に焼き付けていった。


 ――『【永久保存版】新米無職がF級ダンジョンでまず死なないための11の掟』――


 ようこそ新米。お前がこのスレを読んでいるということは、自らの意思であるいは神の悪戯で「無職」という、最も困難な茨の道を選んだということだろう。だが勘違いするな。我々は最弱ではない。「何にでもなれる可能性」を秘めた、最強の原石だ。ただし、ほとんどの原石は磨かれる前に砕け散る。


 そうなりたくなければ、俺たち先人が仲間たちの死体の上に築き上げてきた、この11の掟を脳髄に刻み込め。


【掟その1】 全スロットを埋めろ。話はそれからだ。

 いいか、新人!これが一番重要だ。裸の部位があるのは、鎧を着ずに銃弾飛び交う戦場のど真ん中に立つことと同じだ。お前たちの体には、武器・盾を除いて頭・胴・手・足・ベルト・首輪、そして指輪二つの合計8箇所のスロットがある。たとえ道端で拾ったゴミでもいい。露店で売ってる100円の革の切れ端でもいい。まずは、その全てのスロットに何かしら「装備」しろ。


 スロットが空いている状態――それはお前の防御力に巨大な「穴」が開いているのと同じことだ。そして、ダンジョンという場所はその穴を的確に、そして容赦なく突いてくる。穴がある状態が一番の自殺行為だと肝に銘じろ。


【掟その2】 足は速さが命。お前の命綱だ。

 次に重要なのが足装備だ。戦士のように耐えられず、盗賊のように隠れられない我々にとって、敵との「間合い」こそが生命線だ。ヤバい時には誰よりも速くその場から逃げ出さなければならない。俺は、立派な剣を持ちながら足の速いゴブリンに追いかけ回され、スタミナが尽きて嬲り殺された仲間を何人も見てきた。だから足装備には何よりも「移動スピードアップ」のオプションが付いたものを選べ。たとえ防御力がゼロでも構わない。攻撃は避けられる。だが距離を取れなければ、いずれ必ず死ぬ。移動速度は地味だが、お前の生死を分ける最重要ステータスだ。


【掟その3】 手は攻撃速度。手数こそが正義。

 スキルを持たない我々の火力は、手数で決まる。一撃の重さも重要だが、それ以上に敵の隙に何回攻撃を叩き込めるかが重要だ。だから手装備には「攻撃速度アップ」のオプションが付いたものを常に探せ。DPS(秒間ダメージ)という概念を頭に叩き込め。他の部位でどれだけ妥協しても、手だけは絶対に妥協するな。


(※追記:最近現れた「JOKER」とかいう新人。お前の持ってる【万象の守りパンデモニウム・ガード】は神の贈り物だ。絶対に手放すなよ。というか、それ以上の手装備はこの世に存在しねえだろうから、お前はこの掟に関しては生涯気にする必要はない。羨ましいこった、チクショウ)


【掟その4】 アクセサリーと防具は「耐性」と「HP」を積め。

 いいか、指輪・首輪・頭・胴・ベルト。これらの部位はお前が火力を盛る場所じゃない。そこはお前が「死なない」ための「保険」をかける場所だ。探索者の世界には絶対的なルールがある。それは「属性耐性は75%が上限キャップ」というルールだ。そして、少しでも格上のダンジョンに行けば、必ず「火耐性-30%」だとか「氷耐性-50%」といった凶悪なペナルティが課せられる。そのペナルティを相殺し、全ての属性耐性を常に75%に限りなく近づけること。それがお前の目標だ。足りない耐性やHPを、これらの部位で徹底的に補強しろ。それが格上の敵と戦うための最低限の参加チケットだ。


 隼人は、そこまで読み進めただけで背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。


 ――自分の現状はどうか?

【掟その1】 全スロットを埋めろ。

 手以外の7つのスロットは、ほぼ空か、あるいは支給品の布切れ同然。巨大な穴が7つも開いている状態だ。


【掟その2】 足は速さが命。

 自分が履いているのは、ただのすり減ったスニーカーだ。


【掟その4】 耐性とHP。

 自分の耐性はおそらくほぼゼロ。HPもクラスボーナスがないため最低レベルだ。


 そして【掟その3】。自分の名前が名指しで書かれている。

 彼は自分がどれほど無謀で、どれほど幸運だったのかを痛感していた。彼が生き残れたのは、ひとえに【万象の守り】という規格外のジョーカーのおかげでしかなかったのだ。


 彼は震える指でスクロールバーを下げ、残りの掟にも目を通していった。


【掟その5】 武器は一つに絞れ。浮気はするな。

 武器には剣・斧・メイス・槍など様々な種類がある。それぞれに長所と短所がある。だが新人があれもこれもと手を出すのは最悪の選択だ。まずはどれか一つ、自分の性に合った武器種を決めろ。そしてその武器の扱いに習熟しろ。たとえスキルがなくても、一つの武器を極めればそれはお前の体の一部になる。浮気は破滅の元だ。


【掟その6】 回復薬ポーションをケチるな。それは命の水だ。

 ダンジョンに潜る前には、必ず回復薬を持てるだけ持っていけ。そして戦闘中に少しでもHPが減ったら、迷わず使え。我々は脆い。その一瞬の躊躇がお前の命取りになる。


【掟その7】 敵を知れ。己を知らば百戦危うからず。

 目の前のモンスターが何をしてくるか何も知らずに突っ込むのはただの阿呆だ。突進してくるのか、魔法を使ってくるのか、毒を吐いてくるのか。事前にSeekerNetで情報を集めろ。敵の弱点・行動パターン。全ての情報がお前の生存率を1%ずつだが確実に上げてくれる。


【掟その8】 欲張るな。生きて帰るまでが探索だ。

 インベントリがいっぱいになったら、あるいは回復薬が尽きたら、素直に帰還しろ。「あと一体だけ」がお前の命取りになる。ダンジョンから生きてアイテムを持ち帰って初めてお前の勝ちなのだ。


【掟その9】 孤独を愛するな。仲間は最高の保険だ。

 理想を言えばパーティーを組め。信頼できる仲間はお前の背中を守ってくれる最高の保険だ。だが、もし例のJOKERのようにソロでやるというのなら、お前はパーティーで戦う人間の十倍は慎重にならなければならない。お前のミスは即死に繋がる。


【掟その10】 ダンジョンに敬意を払え。

 最後にこれだけは忘れるな。ダンジョンはお前を殺そうとしている。常にだ。慣れ、油断、慢心――それらがお前の最大の敵だ。どんなにレベルが上がろうと、どんなに良い装備を手に入れようと、このダンジョンに対する敬意だけは決して忘れるな。


 そして最も強調された最後の一文――


【掟その11】 最後の切りチップを常に持て。帰還の巻物(ポータル・スクロール)だ。

 金がなくても、これだけは絶対に買え。インベントリの奥深くに、常に一枚は入れておけ。全滅確定の状況、絶対に勝てないボスとの遭遇……どんな絶望的な状況でも、これ一枚がお前を現実世界に送り返してくれる。ギャンブルで全てのチップを失うのが最悪の負けだ。生きてさえいれば次の勝負ができる。この一枚の巻物は、お前が次のテーブルに着くための最後の賭けチップだ。絶対に、絶対に忘れるな。


 全ての掟を読み終えた時、隼人は椅子に深くもたれかかっていた。

 それはもはやただの攻略情報ではなかった。それは無数の「無職」たちの血塗られた遺言であり、これから死地へと向かう後輩への切実な祈りのようなものだった。


 全ての情報を読み終えた隼人は、しばらくの間、目を閉じて沈黙していた。


(――やはり一点豪華主義のクソデッキだ)


 彼の現状はあまりにもこのセオリーから逸脱していた。【手】だけが神の領域。だがそれ以外の頭・胴・足・ベルト・首輪・指輪二つ、そして武器――その全てがゴミか、あるいは存在しない。あまりにも歪で、あまりにも脆い。


 だが彼はもはや絶望していなかった。なぜなら、今の彼にはその「クソデッキ」をどうすれば「勝てるデッキ」へと作り変えることができるのか、そのための明確な「設計図」が手に入ったからだ。


 彼の次なる目標が、明確にそして具体的に定まっていく。


 まずやるべきこと――【掟その1】の遵守。全ての装備スロットを埋めること。

 そのために彼は、手元にある三万二千円という、なけなしのしかしあまりにも貴重な軍資金をどう使うべきか思考を巡らせた。


(戦士ならHPやクラスボーナスで耐えられた攻撃も、無職の俺は耐えられない。だからこそ移動速度と耐性が、他の何よりも俺の生命線になる)


 彼は再びSeekerNetを開き、今度は探索者向けの「オークションサイト」や「フリーマーケット」のページを閲覧し始めた。


 彼はまず【掟その2】に従い、「移動スピードアップ」のオプションが付いた足装備を探す。検索結果には様々なブーツが表示されたが、彼が探すのは一番安い中古の、ボロボロのブーツ。移動速度の上昇率も微々たるもの。だが、それでも今の彼にとってはゼロより遥かにマシだ。


 彼はいくつかの候補の中から、最もコストパフォーマンスの良い移動速度+8%の革のブーツを、8,000円で見つけた。


 次に彼は【掟その4】に従い、残りのスロットを埋めるための「保険」を探し始めた。頭・胴・ベルト・首輪・指輪。彼が求めるのは、HPや属性耐性がほんの少しでも上がる中古のガラクタだ。一つ一つはゴミのような性能だ。だが、これらを全て装備すれば彼の生存率は確実に数パーセントは向上するだろう。ギャンブルにおいて、その数パーセントの確率が勝敗を分けることを彼は知っていた。


 彼は緻密な計算の末、およそ15,000円の予算で、最低限の「保険」を揃えるためのショッピングリストを作り上げた。


 そして【掟その11】の遵守。彼は残った金で『帰還の巻物(ポータル・スクロール)』の相場を調べる。一番安いものでも2,000円はする。これで予算はほとんど残らない。


(……まともな「武器」はまだ先か)


 彼の当面の目標が、完全に定まった。


 隼人は全ての計画を立て終えると、静かにパソコンの電源を落とした。ブォンというファンの音が止み、部屋が再び静寂に包まれる。彼は椅子から立ち上がった。その瞳には、もう一切の迷いはない。


 手元にある三万二千円という軍資金、そして頭の中にある勝利への設計図。

 彼は明日、探索者たちの無法地帯とも呼ばれ、あらゆる中古品や時には盗品すらもが取引されるという巨大なフリーマーケットへと向かうことを決意した。


 彼の戦いは、もはや運任せのギャンブルではない。情報を集め、セオリーを学び、自らの手で勝率を極限まで高めていく、知的なゲームへとその様相を変えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ