8.
「あ、そうだ!今のうちに着替えて……」
「マリリン、みきとおやついっしょしよ?」
広瀬が着替えるタイミングを作ってくれたのに、それよりも早くちびっ子たちは手洗い・うがいを済ませ、嬉々として戻ってきていた。
みきちゃんに手を引かれ、居間にあるテーブルに連れて行かれる。
困惑気味に辺りをキョロキョロしていると、三つ子とみきちゃんがオレの周りに集まってきて、ちょこんと座った。
「なぁ、まじ☆プリのみんな以外は来ないのか?」
三つ子のひとりが目をキラキラと輝かせながら訊いてきた。
「オレ、ボクトウジャーが好き!」
「俺はカイジュー仮面!」
「おれ、暴れたりん将軍かなぁ~」
少年たちが好きな作品の名前を言ってくるけど、待て。ひとり時代劇じゃん。
しかもソレ?確かに昨今では変身モノの番組ともコラボしたり、映画にも出てたけど、そこ?
「みきはね~、サニーがいちばんしゅき!」
オレの膝の上にちょこんと座り、おやつを頬張っている少女につい口元が緩んでしまう。
「お、俺はマリリンが一番好きだ!」
なぜか弟たちに混じって少し顔を赤らめながら主張してきた。
おい、そこのヤンキー……なに当然みたいに一緒におやつ食ってんだよ。
「「「ゆうにぃ、キモイ……」」」
三つ子がジト目で同時に言うから、ついオレも噴き出してしまった。
弟に辛辣な言葉を言われた広瀬が学校最強のヤンキーだと言われているのがウソみたいだ。
本気でショックを受けているようにしょんぼりと落ち込んでいる。
「コラコラ、みんな、そんなこと言っちゃダメだよ」
両手の人差し指を立て、口の前でバッテンをして子どもたちをたしなめると、元気よく「は~い」とお返事をしていた。
素直で大変いい子たちである。
そんなこんなで、ついつい長居してしまった。
夕飯も食べて行けって言われたけど、衣装が汚れるのは正直勘弁して欲しいから辞退した。
ってか、オレはコスプレしていることを学校でバラされたくないから、口止めとして来ただけであって、決して広瀬 雄大とは仲が良いわけじゃない!
「これで約束は守ったんだから、オレの秘密をバラすのは止めてくれるんだよな」
衣装の上からコートをすっぽりと羽織り、傍目にははコスプレ衣装を着ているのがバレないようにする。
「着替え、させてやれなくてわりぃな……。その格好で帰るの寒くないか?」
オレの会話を一切聞いていない様子の広瀬。
「別に……真冬のイベントとかもあるし、コート着てるから平気」
不満気に顔を背けてそれだけ言って帰ろうとした瞬間、耳元を撫でるように急に手が伸びて来た。
「ッ!な、なに?」
「んぁ?あぁ、ごみ……付いてた。今日はサンキュー。また明日な」
多分さっき子どもたちと食べたおやつのお煎餅らしいのを取ったかと思うと、不意にフッと笑みを浮かべて挨拶してきた。
「……う、うん……」
逃げるように広瀬の家のマンションから走った。
さっきから、心臓がバクバクとうるさい。
さっき、すこしだけ当たった耳が焼けたみたいに熱い。
今日初めてしゃべったはずなのに、今日一日で広瀬の色んな顔を見たせいだ。
『恋する気持ちは、魔法でも止められないんだよ』
まじ☆プリでサニーである陽葵が恋をした時に言われていたセリフが頭の中をグルグルする。
「違う!違う!違う!ぜーったい、違う!」
自分の気持ちを否定する様に、冬の寒空にオレの声が響き渡った。




