3.
昨日はコスプレイベントから帰ってからは泥のように眠った。
本当は撮って貰った写真も確認したかったし、SNSのチェックもしたかった。
イベント終了直前に鉢合わせしてしまった彼のせいで、精神的に疲れてしまって、気付けば布団の中でぐっすり……
連日の寝不足もあったせいか、たっぷり寝られたおかげで、イベント翌日なのに肌の調子がいい。
でも、今日だけは真面目に学校に来たのを後悔した。
いや、学校に来るのは当然だと思ってるし、仮病を使って休むのは母さんに心配をかけてしまうからできるだけしたくない。
でも、今日くらいは本当に休めばよかったと、心の底から後悔している。
なんか、さっきからずっと視線を感じる気がする……
別にイジメとかではない。
オレはクラスの人気者ってわけじゃないし、だからといってイジメの対象でもない。
どこにでもいる平凡な陰キャであり、モブ的扱いだ。
それなのに、今日は珍しく朝から出席していたヤンキーこと【広瀬 雄大】にずっと見られているような気がしていた。
ま、まさかオレが女装コスプレイヤーのウミってバレたんじゃ……
って、そんなことないか。
今のオレはマリリンに変身している時のオレと同一人物なんて誰も思わないだろう。
こっちのオレは、黒髪のチビで無表情で、面白みもなければ社交性もない、2次元への憧れをこじらせたただの根暗なオタクでしかないんだから……
そんなオレと女装コスプレイヤーでちょっとだけ人気のウミが同一人物なんてわかる人、絶対に居るはずがない。
窓際の後ろから2番目の席でぼーっと眠たい授業を聞きながら、昨晩できなかったひとり反省会を心の中で始める。
やっぱり刺繍できるようになりたいなぁ~。既製品加工だとやっぱり限界があると思う。
できるだけ原作に忠実そうなのを選んでるけど、そうなると届くのに時間もかかるし、写真と現物違った時のダメージデカいもんなぁ……
でも、一から手作りなんてオレに出来る気がしない。
既製品加工はなんとかできるようになったけど、布から服を作り出すなんて、オレにはまだ難易度が高すぎる……
ってか、型紙とか全然どれを選べばいいのかすらわからない。
コスプレイヤー用の雑誌に載っていた簡単な衣装の作り方を読んだけど、書いてることが一切わからなかった。
なんであの型紙でコレができんの?
魔法?魔法なら、一瞬で衣装ができてくれたらいいのに……
あと、イベント行くときの移動とか荷物とかも多くて重いし、衣装増えたら部屋が狭くなるし……
魔法で全部解決できたらいいのに……
まぁ、魔法少女でもそれは無理っぽいから、夢の話だけど……
こういう時、衣装について相談できるレイヤーの友だちがいたらいいんだけど……まぁ、元のオレがコレだから無理な話か……
前の席から回って来たプリントをチラッと見て、小さく溜息が漏れる。
現実は冴えないただの男子高校生。
今はオフの姿として、真面目に勉学に励むか……勉強キライだけど……
再度溜息を漏らしながら残り1枚になったプリントを後ろに渡した瞬間、プリントではなく、オレの手首をガシッと掴まれてしまい、心臓が飛び出そうなくらい驚いた。
「ッ!ぇっ、な……なに?」
いきなりのことすぎて、つい変な声が出てしまう。
慌てて振り返ると、そこには今一番会いたくない人物がオレの手を凝視する様に睨み付けていた。
「オイ、お前……名前教えろ」
「は?え?」
「名前、教えろって言ってるんだ」
明るい茶色の三白眼でギロッと下から睨み上げるように見られ、背筋に冷たい汗がツゥーっと落ちるのを感じる。
「……な、七瀬 海……」
多分、表情は青ざめてしまっているんだと思う。
名前を口にしたものの、震えてしまって声が嗄れてしまった。
「七瀬、海……後で話がある。逃げんなよ」
ピアスを付けた口の端がニヤリと釣り上がるのを見て、血の気が引くのを感じる。
あ……オレの学校生活、終了したかも……
あれ?今まで平穏な陰キャとして過ごしてきたのに、ヤンキーのイジメの対象に選ばれたとか?
マジで勘弁してほしい!それとも、別の理由?
黒板に板書していた先生がチラッとこちらを見るも、「授業中だぞ、静かにしろ―」と、適当な注意を言うだけで何事もなかったかのように授業が再開されてしまう。
いやいや、先生もっとちゃんと注意しろよ!って、文句を言いたいけど、先生たちにもビビられている学校最強のヤンキーに注意できる人はいないと思う。
その後の授業は、ちゃんと聞いているはずなのに何も頭に入って来なかった。




