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「ウミちゃん、今日のマリリンも最高に可愛かったよぉ~。あ、アフターどうする?」
前回のイベントからなぜか執拗にDMなどを送ってくるカメコ。
今日のイベントだって、参加表明は出していたけど、一緒に参加するなんて一言も言っていないのに、更衣室を出たところからべったりと付いてきやがった。
「ウミちゃんのマリリンがやっぱり一番可愛いねぇ~。ほら見てよ、あそこのマリリン。マリリンはあんな派手色じゃないし、スカートも短すぎ。あ、ウミちゃんは脚が綺麗だからもっと出してもいいんだよ」
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、オレの脚を撫でようとしてきたのを華麗に避ける。
「ありがとうございますぅ、あ、ワタシそろそろ着替えなきゃだから。またお会いした時はよろしくお願いしますっ!」
笑顔でお礼を口にし、逃げる様に荷物を抱えてその場を立ち去った。
撮影してくれるカメラマンさんたちはいい人もいれば、さっきのカメコみたいな勘違い野郎もいる。
別に、他の人に迷惑をかけていなければ、同じ作品のキャラクターを好きな同志だって話なんだけど……
「どうせ、オレが今、可愛い女の子の格好をしているから優しくしてくれてるだけだろ……。女装だってわかったら、何をされるかわからない。それに……」
本当のオレを見たら……幻滅されるに決まってる。
溜め息と共に鏡を見て化粧が崩れていないかを確認する。
先日新しく買ったファンデーションはイイ感じだ。
アイシャドウがちょっと濃い気がするけど、ウィッグを被っているから濃い目じゃないと目が小さく見えてしまう。
でも、マリリンで濃い目のメイクっていうのが解釈違いなんだよな……
自分のメイクに納得がいかず、不満気な顔をしながら更衣室に早歩きで向かう。
男子更衣室だから、別に混雑しているわけじゃないけれど、あのカメコが追って来ていたら色々と面倒だからできるだけ見つからずに帰りたい。
「えっと、更衣室は……あっちだったよな」
早歩きで更衣室へ向かっていると、いきなり背後から腕を掴まれ、軽くツンのめってしまう。
「うわっ!えっ、なにっ!?」
「まじ☆プリのマリリン!」
腕を掴まれたことと興奮したような声でキャラ名を叫ばれたことに驚き、つい目をまん丸くしてしまう。
「ヤバいっ!今まで見たマリリンのなかで一番理想的だ!まさか俺のマリリンが実在するなんて!」
ひとりで勝手に興奮している輩を恐る恐る振り返ると、明るい金髪が印象的な背の高い男が立っていた。
耳にゴツいピアスを付け、下唇の下の真ん中にもピアスを付けたゴツい目つきの人。
切れ長の三白眼は見ようによってはイケメンに見えるけど、どちらかというと怖い印象の方が強い。
ぶっちゃけ言うと、どこからどう見てもヤンキーかチンピラにしか見えない。
でも、オレは彼を知っている。
いや、知り合いとか友だちでは決してない。
そもそも友だちなんてもの、いたことがないし……
ただ、こんな場所に絶対いないはずの彼が、どうしてここに居るのか理解できなかった。
「えっと……ご、ごめんなさい!あの……もう、着替えなきゃだからっ!」
出来るだけ声でバレないように裏声を出し、掴まれた腕を振り切って顔を隠しながら走って逃げた。
後ろで何か言ってる声は聞こえたけど、そんなの気にしている余裕なんてオレにはなかった。
とにかく、今はバレないように逃げなきゃって考えでいっぱいだったから……




