12.
「できたー!」
広瀬の末っ子の妹であるみきちゃんの誕生日前日。
やっとみきちゃんのために、広瀬とコツコツ作り続けていた衣装が完成した。
市販の変身キットだと生地が硬かったりするから、市販のTシャツを改造して作ってみた。
スカートにも沢山のリボンとフリル、オーガンジーを使って、ふわふわに作ったから通常よりも豪華だ。
黒のスパッツは持ってるのを使ってもらえれば大丈夫。
「うんうん、いい出来だと思う!みきちゃん喜んでくれるといいな~」
出来上がった衣装を見て、満足気にうなずいていると、不意にギュッと抱きしめられた。
「海ホントにサンキュー!」
嬉しそうに笑う広瀬に、つい笑みが零れてしまう。
「なぁ、サニーにはまだ1番大切な小物があるんじゃね?」
「え?あっ!?ヤバっ!マジで忘れてた!えっ!?今から準備して間に合うのか?」
焦り出す広瀬を見てクスッと笑う。
オレはずっと気付いてたけど、あえて広瀬には指摘しなかったパーツがひとつだけある。
プリティエンジェルのリーダーであるサニーは明るいピンク色の髪をツインテールにしているキャラだ。
ツインテールには、トレードマークであるオレンジ色の大きなリボンを付けている。
最初に広瀬がツインテールの存在を忘れていることに気付いた時、すぐに教えてやろうと思ったけど、思い直した。
みきちゃんの髪は伸ばしているといっても、肩に着く程度だ。
一応ツインテールはできると思うけど、トレードマークのリボンを付けてしまうと、せっかくのツインテールも隠れてしまう。
せっかく広瀬がこんなに頑張って作ったんだから、みきちゃんにはとびっきりの笑顔を広瀬には見せてやってほしい。
そんな理由で、オレは広瀬にも秘密でとあるものを用意してみた。
サニーのトレードマークであるオレンジ色の大きなリボンが付いた髪留め。
ウィッグを被るのは子どもにはむずかしいだろうから、ピンクの三つ編みとリボンをトレードマークのリボンに縫い付け、髪飾りを付けるだけでツインテールっぽく見えるようにしてみた。
「じゃじゃーん!オレからのみきちゃんへのプレゼント」
こんな時に何言ってんだ?って表情を浮かべる広瀬に、カバンにこっそりと隠していた紙袋を取り出して渡す。
明らかに不満そうな表情だった広瀬が、オレの渡した紙袋の中身を確認した瞬間、目を大きく見開き、何度もオレの顔と紙袋の中身を交互に見てくる。
「広瀬が頑張ってたから、オレもみきちゃんに喜んで欲しくて、色々考えてみた」
ブイっとピースした手を広瀬に突き出すと、その手をガッと両手で握られる。
「……海、マジでサンキュー。ホント、お前って最高のマリリンだぜっ!」
切れ長の目の端に涙を溜め、本当に嬉しそうに笑う広瀬。
この笑顔を見たかったから、オレはサプライズでコレを用意したんだ。
ほぼ毎日、広瀬の家に来て衣装づくりの手伝いをしてたから、いつの間にか苗字じゃなくて名前で呼んでくれるようになった。
でも、オレの名前は『海』じゃない。
『海』は、オレのコスプレネームで、マリリンの変身前の姿の名前だ。
だから……本当のオレのことは、一度も呼んでもらえていない……
「広瀬、お疲れ様。あ~、これでオレもやっとコスイベ参加に復帰できる!」
ぐぅーっと腕を天井に伸ばし、伸びをして広瀬から離れる。
多分、もうここに来ることはないから、今日が最後になると思う。
そう思うと、胸がギュッと締め付けられて、涙がこぼれ落ちそうになった。
「あぁ……悪かったな、色々付き合わせちまって……。でも、俺はお前と一緒にいるの楽しかったぜ?」
ニッコリと笑みを向けてくる広瀬に、なんとか笑顔を作って向き直る。
「オレも……楽しかった。みきちゃん、喜んでくれるといいな」
「喜ぶに決まってる!俺だってこんなの貰ったら嬉しいからな!」
出来上がった衣装を見て、何度も嬉しそうな声を上げる広瀬を見て、フッと笑みがあふれる。
オレの仕事はここで終わり。
持ってきていた荷物を片付け、コートを羽織って帰り支度を済ませる。
「じゃあ、な……」
寂しいって気持ちに蓋をして、いつもと変わらない様子で広瀬の家を後にした。
広瀬も、いつも通りの笑顔だったから、これで本当に最後なんだって実感が全然わかなかった。
1ヶ月……。
たった、1ヶ月だったけど、広瀬の色んな顔を見られた気がする。
でも、元々オレと広瀬では、生きてる世界が違ったんだ。
何かの間違いで、ほんの少しだけ一緒にいることができただけで……
ホントに、ほんと……楽しかった、な……




