10.
「は?広瀬が、コスプレ衣装作れるか?って?」
今日も今日とて、なぜかマリリンのコスプレ姿で広瀬の家にお邪魔してしまっている。
そんなオレが素頓狂な声を上げたのは、当然原因はその本人である広瀬だ。
いや、別に広瀬のためにマリリンのコスプレをしているわけでは決してない。
自分の納得のいくメイクを練習する為であって、決して広瀬のためではない。
今は、ちびっ子たちはまだ帰ってきていないのか、家の中にはオレと広瀬の二人きりだ。
当然のように、『まじかる☆プリティエンジェル』のアニメを二人で仲良く鑑賞している。
「行け!マリリン!あ、そうそう。俺でも七瀬みたいに服って作れるのか?やっぱ難しいよなぁ……」
盛大なため息と共に諦めの言葉を口にする広瀬をポカーンと見つめていると、何を思ったのか急に焦り出した。
「あっ!俺が女装するとかじゃねーから!マリリンは好きだし、マリリンの想い人であるケンタが羨ましいのは確かにあるけど、ちげぇーから!」
いきなりこいつは何を言いだすんだ?
当然だろ?
マリリンはケンタに恋をしているのが一番可愛い。まぁ、そのケンタはサニーである陽葵を好きになるんだけど……
幼女向けの魔法少女のアニメなのに、なかなかに切ない話が多いせいか、大人にも実は大人気なのがこの作品だ。
「みきがもうすぐ誕生日だからよ……せっかくなら、サニーの変身した時のヤツをプレゼントしたいと思ってな……。ただ、市販のだとサイズがデカいのと金がなぁ……」
後頭部をガシガシと掻きながら、困ったような顔をする広瀬に納得する。
確かに、市販で子ども用の変身セットは売っている。
でも、サイズが微妙だったり、クオリティがイマイチってのは確かにある。
広瀬の妹であるみきちゃんとは昨日で十分仲良くなったから、サイズ感とかはよくわかる。
5歳だと聞いていたけど、身長も体格も小柄なことから、市販で売っている衣装だとブカブカな気がする。
「みきちゃん、小柄だもんな……」
オレの言葉を聞いて、いきなり両手を握ってきた広瀬。
「頼む!みきのためにサニーの変身したヤツを作るの手伝ってくれないか?」
真剣な表情で頼み込んでくる広瀬に胸がドキッとする。
一から衣装を作るのは、今のオレでは難しい。
でも、広瀬の気持ちはすっごくわかる。
昨日のみきちゃんの様子を見て、どれだけサニーが好きなのかは十分わかった。
……オレに、子ども用の変身衣装なんて作れるのか?布から?型紙を引いて?
……絶対無理だ。
でも……広瀬の真剣な願いを無下にするのはなんかヤダな……
「うぅ……わ……わかった、から……手、離せよ」
さっきからドキドキし過ぎていて、手からこのドキドキが広瀬に伝わらないか不安になる。
「マジか!サンキュー!」
嬉しそうな笑みを浮かべる広瀬に胸がキュンッとするのは、勘違いだと思いたい。
別に、これは広瀬が同じ【まじ☆プリ】ファンの同志で、今後も色々と語り合えるのが嬉しいからであって……決して、恋なんかじゃない!
「あ、ちび共には内緒にしといてくれよ。バレたらうるせぇから……」
みきちゃんへのプレゼントが決まったおかげか、無邪気な笑みを浮かべる広瀬がちょっと可愛く見えてしかたがない。
つい先日までは怖くてしかたなかったのに……
まさか、本当にコレが恋とかいうやつ?
は?いやいやいや絶対違うから!
でも……この笑顔を知っているのは、学校でもオレ、だけなんだよな……
「わかったから……。とりあえず、市販のワンピースを加工してサニーの衣装にしよう。えっと、レースとかは買い足さなきゃだけど、オレが持ってるの持ってくるから」
まともに広瀬の顔を見れなくて、フイっと顔を背けながら言うと、頬にチュッと何かが当たる。
「サンキュー。マリリン、やっぱり最高に可愛いな」
頬に触れるだけのキスをされたとわかった時には、意識が飛ぶかと思った。
でも、そっか……
広瀬がこんな笑顔を見せてくれるのは、オレにじゃない。
【まじかる☆プリティエンジェル】のマリリンに向かって、この笑顔は向けられているんだ……




