焼き鳥
パチパチと音を立てながら、薪が崩れた。
沸騰したよと伝えるべく、鍋はポコポコと泡を出す。
仄かな明かりに照らせれながら、シリカは鳥肉を串に刺していく。
初日から肉にありつけるのなら上々だろう。
パラりと香りが飛んだ胡椒を、その艶やかな生肉に振りかける。
続いて塩を一つまみ。まだ少し血の臭いが残る肉から、臭みを帯びた水分が流れ出る。
シリカは順番を間違えたかな等と思いながらも、もう後戻りはできないなどと、謎の理論で作業に戻る。
網の上に串を並べるシリカ。
「おわ、なんか煙いし臭い……」
ぽたぽたと垂れた水分が火に降り注ぎ、煙に変わる。
続いて油が滴り、火が盛る。
「おわっ! あ、やばい……なんか胡椒の部分が焦げて火種になってる」
「シリカは料理が下手くそですね」
「うるさい」
「わわっ、つつかないでくださいシリカ」
あれやこれやとしてできたのは焦げた焼き鳥だった。
正直とても美味しそうだとは言えない。
「シリカ、香料のピリッと舌の上に残る仄かな辛みと、程よい塩味が鳥肉の旨味をぎゅっと引き立てていますよ!」
「何? 嫌味?」
マザーAIは焼き鳥を食べれもしないのに、その焼き鳥を絶賛する。
「違います、せっかくあなたと食事を囲めるのです。気分だけでも、私は味わいたいのです。よく言うではありませんか、誰かと一緒に食べるご飯は格別だと」
「……そんなものなのかな?」
「う~ん、このお肉はどうやら甘みが強いようですね」
なおも続けるマザーAIを見て、シリカも妄想を浮かべる。
重厚な芳ばしい香りが湧き立つ熱々の焼き鳥を。一つプツリと口に含めば、口全体に広がるこりこりとした筋繊維の弾力。
二口噛めば、広がる旨味。ほんのり甘い肉汁に、かすかに香る胡椒の風味と、溶け出した塩味が後味をさっぱりとしたものに変える。
三つ噛む頃には夜風で少しだけ冷まされた肉が、その身を引き締める。
そして、四つ目にして気づくだろう。もう、全て食べきってしまったということに。
シリカはまだ何も食べていないというのに舌鼓を打つ。
そして一口。目の前の焼き鳥にかぶりついた。
「……苦い」
最高の夜景は残念ながらないけれど、輝く星空の下で少し変わったAIと食べるご飯は、例え失敗作だとしても、なんだか美味しい。そう思えた気がした。
存外やる気があったので、短いながら書いてみました。