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君のいる未来のために  作者: 伝説のぴよ
第二章 やさしさのかたち

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20/21

刻まれた流れ

「可愛すぎる………!」


 そう思わず発して、鏡の前でくるりと一回りした。

 ふわふわと白いレースのスカートが私の心を写すように揺れる。

 クリーム色のワンピースとベストが体の線を描き、その華やかさを引き締めてくれている。


(そもそもが、めちゃくちゃ綺麗なんだよね)


 もちろん、動きやすく肌触りも気持ちいい。


(仕事に来ている服もこのワンピース達もエレナさんがデザインしたって言っていたけど……)


 どちらも文句のつけようがないくらい丁寧に仕上げられている。

 それでもこのワンピース達は、質が違うように思えた。

 ふわふわのレースのスカートを少しだけ持ち上げて感触を確かめる。

 持ち上げるだけで、羽が空に舞うように軽やかにレースが揺れる。


(────うん。大切に着よう)


 もう一度鏡を見て、頬を緩めた。

 ふわふわを体で感じながら、テーブルの上に置いてある封筒に目をやる。

 前日の仕事終わりに、ジョイから給料が手渡された。

 お金がないと休みの日も動けないだろうからと、しばらくは一週間ごとに生活費を引いた分を渡してくれるらしい。


 今日は初めて完全に何も予定のない休みの日になる。

 ちょっと緊張するけど、一人でお出かけをしてみようと思っていた。

 歩いて行ける範囲で少し大きく散策して、興味がわいたものは見てみよう。


(完璧な計画……!)


 クリスが用意してくれた鞄に封筒をしまう。


(……可愛い財布があったら買おう)


 そう決めて、早朝の街へ飛び出した。





 思いつきで最初にジョイの店から南側にあるエミルのいる施設に行ってみた。

 白い簡素な大きな建物が二棟、並んで建っている。


(ここにエミルは住んでるんだな……)


 建物の大きさから、かなりの人数がここに住んでいそうな感じがする。

 横に目をやると建物の周りを囲むように生垣があり、さらに外側には住宅街が広がっていた。

 赤い屋根の可愛い家や、黒と木を基調としたシックな家、それぞれの思いが見えるような家がたくさん並んでいる。


 出勤の時間帯だからか、あちこちから人の気配がする。

 こんがりした良い匂いもするし、挨拶を交わす声がどこからともなく響く。


(まさに目覚めようとしてる、そんな雰囲気……)


 住宅街を気分の向くまま西側に向かって歩いてみる。

 庭の植物に水をあげているおじいさんに、一旦お茶にしましょうと声をかけるおばあさん。

 それを歩きながら眺めてる私を、あっという間に横から抜き去っていく学生。

 今日何を成そうか考えているのか目に力が宿ってる男性とすれ違い、その先には子供や夫の見送りが終わったのだろうか、女性達が楽しそうに話している。

 赤ちゃんの泣き声が聞こえたと思ったら、父親だと思われる男性が慣れた手つきであやしている。


 その光景に、胸がきゅっとした。

 私はここにいていいのだろうか。

 そんなふうに思えて、胸がどきどきする。


 落ち着かせるようにそっと胸を押さえながら、生きている人のざわめきを隣に感じつつ、南北に伸びる大きめの道を見つけたので北側に向かう。

 もうみんな出勤し終わってしまったのか、人通りはさっきより少ない。

 のんびり真っ直ぐ進んで行くと、目の前に大きな赤煉瓦の横長の建物が見えてくる。


「えっ、何あれ」


 ギョッとしてその建物を凝視する。

 中心に少しだけ迫り出したアーチ型の入り口があった。

 細めの縦長の窓が等間隔に並び、端正で静かな印象を受ける。


(────何かの施設?)


 そうしていると噴水公園に着いた。

 目の前に噴水が横一列に並んで、一斉に宙に描かれる水が今日も公園をきらきら輝かせている。


(ここは、ちょうど噴水公園の真ん中辺りになるのかな?)


 クリスの家のパン屋はもう見えないし、反対側も遠くて終わりがわからない。

 さっきの巨大な建物を見ると、ちょうど噴水と噴水の間からアーチ型の入り口が見えている。


(……行ってみようかな?)


 行くだけなら特に問題はないだろう。

 そう思って巨大な煉瓦の建物に向かった。






 煉瓦の赤を縁取るように、入口のアーチには白い石材がはめ込まれていた。

 この建物に近づくにつれて増える人の流れに乗って建物に入る。


「すっごぉ……!!」


 あまりの大きさと熱気に、思わず声が漏れる。

 こんなに大きな建物なのにたくさんの人であふれ、どこに何があるのかよくわからない。

 ざわざわと騒がしく感じる。

 初めての感覚だ。

 住宅街とは全く質の違う活気で溢れていた。

 真っ直ぐ進みながら、きょろきょろと辺りを見渡す。

 入ってすぐの右手の壁に大きな地図が掲示されている。


(……路線図?)


 その下にある物は時刻表のようだ。

 掲示されている地図は二重の輪のような形をしていた。

 街をぐるりと囲む外環と、その内側を回るもう一つの環状線。

 その円を、方角を示す十字の線が静かに区切っている。


(ここは…………中央南駅、か)


 内環状線の南にある駅のようだ。

 ジョイやクリスの家は南部だとクリスは言っていたけど、街の中心よりでもあるみたいだ。


 わぁっと大きな歓声が奥から聞こえてきた。

 人の声なき興奮が振動となって伝わってくる。

 たくさんの人の流れが、その熱気に引き寄せられるように流れ始める。


(……なんだろう?)


 内心首を捻りながら、私もその流れに乗ってみる。

 人混みがあると思ったら、左手壁上部に簡易路線図があり切符売り場と掲示されている。

 その下にボタンがたくさんある機械があり、そこで切符を購入しているようだ。


 その人達が更に奥に流れている。

 そのまま進むとさっきの機械の隣に駅員の待機する部屋があった。

 駅員の部屋の更に奥に改札がある。

 その改札から熱気と歓声が流れてくる。


(……何があったんだろう?)


 歓声に釣られるように邪魔にならないところから改札の奥をのぞいてみる。


 そこには、黒い生き物を思わせるものが悠然とあった。

 先頭は鉄の塊というより黒い滴を引き延ばしたような形で、鮮烈な美しさをひと目で刻みつける。

 前面には車体の色よりほんのり明るい灰色で炎が渦を巻き、羽を広げるような紋様が描かれている。

 その炎の羽から自然に蔦が伸び、くねり、絡み、ぽっと花が咲くように葉っぱが開く。

 葉っぱが開いた先からまた、炎が舞うように描かれているところもあった。


(────え? 生きてる?)


 よく見るとその紋様は単色ではなく、とくん、とくんと脈打つように白から黒へと変化していっていた。

 なぜかはよくわからないけど、私の心臓がどくどくと跳ねる。


「今日、新型で一周回るらしいよ」

「え? 最近調子悪そうだったけど、線路の調整上手くいったの?」

「そうなんじゃない? 朝から新型乗れるってラッキー」


 男性達がニコニコそう話しながら新型に吸い込まれていった。

 胸をぎゅっと抑える。


(これが、エミルの言ってた最新型の汽車か!)


 エミルの言っていた事がわかって、興奮してくる。


(エミル、わかる。これは、めちゃくちゃカッコいい……っ!!)


 じっと最新型の汽車を見つめていると、とくん、と脈打った。

 真ん中の炎の羽から命が生まれるように、金と赤のグラデーションの波紋が全ての紋様に広がっていく。

 再びとくん、と脈打つ。

 滑るように静かに、汽車は発車していった。


 呆然と立つ。

 手がふるふると震えた。

 これは、やばい。


(すごいものを見た……っ!! 良いもの見た……っ!!)


 どきどきと胸を高鳴らせながら、少しだけ人が減った駅内を見回ってみる。

 ホームから離れ、反対側に向かって歩いていくとカフェや売店などの店が並んでいた。

 その前にはベンチやテーブルが置かれている。


 この売店と最初に見た線路図との間にさっき見た最新型の汽車の大きな写真と模型が置かれ、その前には台の上に薄い板のような機械が設置してあった。

 女の子と男の子の家族連れと思われる人達がやってきて、その機械の縁を撫でた。


『────もう最新型の汽車をご覧になりましたか?』

「えっ」


 女性の声が聞こえた。

 気になって私もその家族連れに混じる。

 覗き込むと、ぱっとさっき見た最新型の汽車の写真が現れた。


『こちらは、大地に走る大地の力を利用した最新型の“地脈式汽車”になります。地脈式汽車は、従来の石炭式に比べて煙や煤が少なく、静かで効率の良い新型車両です』


 ぱ、ぱ、ぱ、と石炭式との比較した写真が現れる。

 最後におそらく石炭式汽車の写真が映される。

 さっき見た地脈式汽車と比べると配管はそのまま剥き出しに設置され、金属の繋ぎ目も多く見た目だけで言うとかなりゴツゴツしていた。


『七十五年前、この大地に存在する地脈を発見し、それを利用する事ができないか研究が重ねられてきました。そして家庭用機械器具から始まり、今こうしてこの案内映像が流れている端末、汽車にまでその技術が利用されています』


 今度は黒い柱の中に白い大きな球体が埋まっているような写真が現れる。


『こちらが、地脈式汽車の動力“脈動炉”になります。動力の核の白い球体は“炉心”。起動している時は金や赤色に脈動します』


 金と赤の色の波が炉心の中心から広がるような写真が表示される。

 ほう、と父親と思われる男性が感心したような相槌をうつ。


『地脈から引き出された力が、駆動へと転じます。廃棄物が出る事はありません。車体もまた、この力を阻害せず耐えられるよう作られています』


 さっき私が見た、生きているように車体の紋様に金と赤の波紋が広がる写真が、コマ送りのように映される。


「わぁ! 綺麗!」


 子供達が歓声を上げる。

 母親がそんな子供達を優しげに見つめながら頭を撫でている。

 わかる。私もさっきそうだった。


『もちろん、課題はあります。開発の進んでいる新街区の路線では安定した運行が可能ですが、一部旧路線では現在も調整が続いています。それでもこのようにして、日々、私達は進んでいます。力強く、進化しています』


 紺色の制服を着た、たくさんの人達が並んだ写真が表示される。


『皆様の安全と安心、心を運ぶ為、日夜努力しています。ぜひ、地脈式汽車に御乗車くださいませ。いつでもお待ちしております』


 そう言って、説明映像は終わった。

 くるっと振り向いた子供達が両親にきらきらした目を向けている。


「パパ! ママ! 僕、この汽車に乗りたい!」

「私も乗りたい!」


 子供達が手を取り合ってさっきの感動を語り合っている。

 母親はそんな子供達の様子に微笑んで、父親に顔を向けた。


「そうね、私も乗ってみたくなってしまったわ。ねぇ、あなた?」

「そうだなぁ……」


 父親は腕を組んでいる。

 さっき興味を惹かれたように相槌を打っていたからもっと軽く肯定が返ると思ったが、思ったより返事が重かった。

 ぐりんと子供達二人が父親を振り返る。


「パパは今の見てわくわくしなかったの!?」

「嘘でしょ!?」


 子供達は衝撃を受けている。

 そしてなんでなんでと言い始めた。

 母親はそんな父親と子供達のやりとりを笑いながら見守っている。


「知っているか、子供達よ」

「なぁに? パパ」

「パパは完璧主義なんだ」

「え、じゃあ未完成だから乗らないって事?」


 そう言った女の子にじっと父親は見つめ返した。


「たしかに未完成と言えばそうだな。まだ走れない路線もあるようだし、大地から引き上げられた力が完全に制御できてるとは言えないだろう。安全に力を入れていると思うが、それも確実じゃない」

「えー……」


 楽しい空気に水を刺されたように父親を剣呑な瞳で見つめる女の子。

 男の子は黙ったまま不満そうに下を向いている。


「だが」


 父親は、ふっと笑みをこぼす。


「乗らないとは言ってないだろう? パパは完璧主義者なんだ。この街には行ってみたい所がたくさんあるから、その最適ルートやおすすめも情報収集しなければいけない。何周するかも検討したいところだ」

「え!?」

「この駅のおすすめの品もついでに確認しなくてはな。案内所に行くぞ!」

「え!?」


 父親は颯爽と歩き始めた。

 驚いてる子供達に母親は笑いながら背中を優しく押す。


「ふふ。二人とも、じゃあ行きましょうか」

「え?」


 子供達は呆然と母親を見つめる。

 母親は二人を見つめて、おもしろそうに言った。


「地脈式汽車にたくさん乗ろうって、パパが言っていたわよ?」

「え!? ほんと!?」

「じゃあ行かなくちゃ!」


 子供達は慌てて父親の後を追う。


「ええ。行きましょう。気をつけて進むのよ」


 母親は子供達の様子にくすくす笑いながら、子供達の後を追った。


(よかったね)


 そう子供達に思いながら、誰よりも地脈式汽車に乗りたい父親の完璧主義がおもしろくて笑ってしまう。

 でもすごくわかる。私も乗ってみたい。


(また後日来よう)


 楽しみがひとつ増えたって事にする。

 今日はあとはお店を見て帰ろう。


(そうだ。ウィルムさんのパンを買いに行こう!)


 そう思ったら歩き出した足取りが飛ぶように軽くなってしまう。

 楽しいって、好きって、最高だな。

 そう感じて、頬が緩んだ。

 

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