もう一つの選択
ことり、と道具を置いた。
夜も深まりただでさえ静かな工場には、やけにそれが響く。
「ついに完成した……」
子供を高い高いをするように出来上がった人形を持ち上げる。
するとふわりと、彼女に似た栗色の髪が指をくすぐる。
それがひどく懐かしくて、胸が苦しい。もう沢山の時間が経つのに、彼女の事を思い出すと今でも、心臓が抉り出されるような痛みを覚える。
ランプの光がそれの頬を柔らかく照らす。
彼女とは少し違う健康的な小麦色の肌にうっすらと紅色が浮かぶ。
いつも優しく微笑んでくれた大好きな彼女に似た新緑の瞳は、この薄暗い中でも溌剌と輝いている。
――――――――会いたい。
笑顔が見たい。楽しく笑う声が聞きたい。喜んで危なっかしく飛び跳ねる、君に会いたい。
「――――どうして」
それが叶わない事だと、理解するのを拒む心が悲鳴をあげる。
あれから何年、何十年の時が経ったのだろうか。嗄れた声に、人形を抱え震える自分の手に刻まれている時が、まざまざと現実を突きつけてくる。
どれだけの時間が経とうと、この気持ちが薄らぐ事はない。
(……でもね)
少しだけ。
少しだけ、君との未来を考えた時、楽になったんだ。
だから、私は君に、これを贈るよ。
君が寂しくないように。
雲が晴れ、窓から覗く大きな満月にそれをかざし、目を細めた。