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トンネルのうちそと

〈ぼんやりと毛ばを取りけり猫の戀 涙次〉



【ⅰ】


「だうにもコスト・パフォーマンスがなあ...」と安保さん、頭を掻いた。開發に莫大な資金をかけたテオの「新兵器」は、所謂「ジェット・モグラ」であつた。先端にドリルの付いた猫操縦による、地底探索車、である。安保宙輔(あんぽ・ちうすけ)、彼は「一味」のメカ担当なのである(本職は、下町精密機器部品工場の重役)が、たまにかう云ふ無茶な注文をしてくるテオ- を結局のところ、「可愛い愛弟子」だと思つてゐた。



【ⅱ】


 テオは意氣軒昂であつた。賞金首、怪盗「もぐら國王」なる男の首に、七千萬圓もの懸賞金が付けられている。そいつを捕まへてやらう、と云ふ譯だ。

 カンテラ「おいおい、俺たちは【魔】退治の専門家ティームぢやなかつたのかい?」テオ「この『もぐら國王』(以下、國王と略する)、實體は大もぐら、なんです。いつもは人間に化けてゐる、こいつ實は魔物なんですよ」カン「ほお、俺も一口乘つていゝかな?」テ「心強い限りです。兄貴がゐてくれるなら」



【ⅲ】


 國王、人間としての名を杉下要藏(すぎした・えうざう)と云ふ- は行きつけのステーキハウスで、サーロインを400㌘平らげた。何のこれしき。赤ワインで口を漱ぐ。向かひには情婦(人間の女だ)、朱那(あけな)が、やゝ呆れ顔で坐つて、タルタルステーキを食べてゐた。「あんた本当によく食べるわねえ」「俺のヴァイタリティの源泉は、肉、だよ。一般もぐらみたいに、しけた蚯蚓食つたつて、大きな事は出來ないさ」朱那、「蚯蚓」と云ふところで少し顔を顰めたが、まあ彼女にとつても、冒険児・もぐら國王は、實に魅力溢れるキャラであるのは、まづ間違ひなからう。


 カンテラ事務所。テオ「兎に角荒つぽい手口、ですね。防彈ガラス、赤外線防犯システム、全く眼中にない。たゞ、トンネルを掘り、現れて、盗み、とんずらするのが奴の美學」カ「今回はテオの指図に従ふ。何なりと要件は云ひつけてくれ」テ「御意」



【ⅳ】


 國王、次は「エジプトの秘寶展」に參上、と、大胆にも豫告してきた。テオ「ところが、飛んで火に入る何とやら、その自信が仇となる」

 政府後援の展覧會である。國王の犯罪が罷り通つたら、國際問題にまで、發展してしまふ...、警察サイドも、カンテラ一味に泣きついてきた。今回は、だうやらがっぽり儲けられさうだなあ、などゝ、カンテラは暢気、であつた。


 さて國王、いつもの通り、頭陀袋一つ肩に掛け、ゴーグルを装着し、トンネルから姿を現わした。防犯ベルが鳴り響く中、無茶苦茶にガラスケースをバールで叩き割り、ツタンカーメン王の黄金のマスク、を頂戴した。

 そして大もぐら姿で地底へ。いつもの手口を全くと云つて變へない國王。だが、確かにテオの云ふ通りで、それが仇となつた。


 ジェット・モグラで國王を追跡したテオ、彼のトンネルにバイパスを通し、そこに(カンテラが地上で待つてゐた)放水。堪らず國王、こちらもバイパスを作り水をそちらに逃さうとしたが、時既に遅かつた。



【ⅴ】


 なんとテオ、賞金七千萬、をゲットしてしまつた譯で、これでジェット・モグラ開發費用も、安保さんに支払えるし、ほくほく顔だつた。


 

 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈悠久の時経て單なるカネづるに成り下がりたる秘寶よあはれ 平手みき〉



【ⅵ】


 今回はボーナスはカンテラではなく、テオが皆に配つた。で、カンテラ、じろさん、深夜のお出掛けは、國王の影響か、さて何処に...。

 監獄の中で、國王、今は人間型だから、杉下、は、拘束衣を着せられ、これでは大もぐら姿に戻れない。と、カンテラが牢の外に、ふらり、立つてゐる。「あ、あんた、カンテラさん!」「ご存知とは、痛み入るよ、國王。今回はうちのテオが迷惑掛けた」大刀を拔き放つ。と牢の鋼鉄の柵を叩き斬つてしまつた。

「え! え!」カンテラとじろさん、拘束衣を脱がすのを手傳つた。

「別に俺たちやあんたが拘禁されてたつて、三文の得にもならんからな」と、じろさん。看守たちは、皆じろさんの不思議な體術で、眠らされてゐる...。


 そこから勇躍トンネルを掘つた國王。「アディオス・アミーゴス! あんたたちの事は忘れないよ!」



【ⅶ】


 誰も、知らなかつた。國王の破獄に、カンテラ・じろさんコンビが絡んでゐる事など。テオすらも、知らなかつた。テ「へえ、脱獄ねえ。まあカネ貰つてからの事だから、僕は知らないよ」


 めでたしめでたし。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈誰をしも射貫く彈丸壽のムードの中に春殺氣立つ 平手みき〉

  

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