6
左手のホルンを使い、会議を起こす。
死体の足場に円卓が形成され、6番まで招集されて会議が始まる。
先ほどの一蘭のように、各席はカーテンつきの個席になっており、5番のところは、カーテンが開けっ放しになっている。
『個人発言の時間です。残り30秒』
俺の前のカーテンが開き、次々と個人発言の時間がやって来る。
1「あー、死体位置は、廊下。停電が起こって、隠れて、開けたら廊下に5の死体があった。外傷はないんだが、息をしてないし、触っても反応なかった。通報前に、近くに3がいた」
2「え、えと。私は気づいたら部屋の中にいたので、部屋、出ないほうがいいのかなと思って、そのまま停電も、ずっといました」
3「ニマニマ」
3番のカーテンが上がり、先ほどの太っている男が、ニマニマなんてちょっと可愛らしいオノマトペが通じないほど、下卑た笑みを浮かべていた。
この、顔面パンパンマンが。
3「廊下って、どこの廊下だよ。おい、聞いてくれよ。1番のやつ、俺の目の前で5番の死体を見つけて、いやらしいことをしてやがった。信じられねぇよなぁ。死体を辱めるなんて人として最低だぜ。男としては共感しかねぇけどよ」
4「……アリバイを整理したほうがいいですね。私は2階のショールームに入り、ネクタイピンを入れ替えるタスクをした後に、書斎から書類をシュレッダーにかけました。その後、停電となり、魔法電力部屋に向かい、6と一緒に照明の魔動機を修復してします」
6「そっすね。エントランス湧きから食堂に向かうところで1と会って、食堂の食器タスク後、正面玄関で3と出会った。その後3と別れて、停電を4と直した」
あっという間に会議が流れていく。
5の不謹慎発言が俺に刺さる。
「ふざけんじゃねぇ」とか「俺はそんなことしてねぇぜ」としらを切ってもいいと思えた。
この個人発言が順々にされていく都合上、感情を抑える時間があるのはありがたい。
俺、すぐ顔に出るタイプだからな。
『全体会議を始めます。残り60秒』
2「し、死体を辱めたって、本当ですかっ!?」
1「本当に死んでるか、触って確かめただけだよ。3の言い方がアレなだけだ」
嘘である。
3「んん~? おっぱい触ってるように見えたけどな~」
1「心音を確認するのに、胸に手を当てただけだ」
嘘である。
2「わかりました……」
1「わかってくれたか。マジか」
3「お嬢ちゃんも気をつけなよ~?」
2は表情を曇らせたまま、話題を変える。
2「ところで、その……これって、死んだら、どうなるんでしょう。そこの、5番さんみたいに、なるんでしょう? そしたら……」
しん、と場が静まり返る。
今さら。
実に今さらな質問に、しかし死の恐怖を突きつけられ、動揺しないやつはいない(俺含む)。
4「……今は死後を考えるより、勝つ方法を考えましょう」
6「4に同意。タスク進捗は14%。2が動いていないことを考えると悪くない」
4「全員の発言を聞く限り、こなしたタスクの数は6個でしょう。それで14%ということは、総タスク数は約42です。あと36個のタスクを完了させれば、脱出できるはずです」
6「無理してキルを取ろうとすれば、必ずどこかでボロが出るはずだ。情報を精査して勝とう」
TRPG経験者のサラリーマン4と、美青年6はほぼ同じ思考のようだ。
すでに高度な会話を繰り広げている。
生死よりも勝利を気にするところあたり、生粋のゲーマーという感がある。
俺は──
俺は、死ぬのが怖い。
1「こんなデスゲームごめんだね。俺は部屋にこもらせてもらう。と言うやつの気持ちがよく分かったぜ」
4「1番さん、協力を.
タスクで勝てる状況を作れば、人狼側もうかつには動けないでしょう。」
1「わーってるよ」
自由会議の時間が終わる。
終わり際に、4がぽつりと呟く。
4「二人一組で動くのもアリかも……」
『自由会議終わり。投票の時間に移ります。残り20秒』
シャッとカーテンが降りて、左手のホルンが光る。
え、投票!?
ああ、そうか。初日と違って、もう吊る人を選んでいいのか。
しかしまぁ、投票することまで考えてなかったから、戸惑う。
うーん、吊るなら汚い笑みを浮かべる3番だよな。吊っても罪悪感少なそうだし……
いや、待て。
投票、誰に票を入れたか、バレるよな。
誰でも吊っていいわけじゃない。
誰でも吊っていいと考えるのは、人狼だけだ。
だから、意味もなく票を入れて、「なぜ入れたのか」問い詰められるのは避けたい。
「……棄権する」
左手のホルンに話しかけると、ホルンの光は静かに消えた。
投票が終わり、3番のカーテンの上に、カンという乾いた木を打ったような音とともに、1票入った。
『投票時間終了です。事件現場に戻ります』