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(……停電!?)
俺は思わず、通路の脇に置いてあったツボみたいな物の影に隠れる。
視野がほとんどない。手元を見るのでやっとだ。
自身に向けられている殺意に、俺は遅れて身の毛がよだつ。
そうだ。
これは人狼ゲームじゃないか。
殺すってどうやってやられるんだ?
俺、死んだらどうなるんだ?
もしかしたら初めての異世界転移で、舞い上がっていたのかもしれない。
俺は、このゲームで死んだら、死ぬのか?
想像すればするほど背筋が凍る。
ああ、油断した油断した油断した!
これが人狼ゲームなら、命を賭して挑まなければいけなかった。
などと、後悔している場合じゃない。夜はまだ続いている。
ぐし、と髪を掴むようにかき上げる。
何も見えないと、何もかもを悪い方向に考えてしまう。
俺は魔法殺人事件の模倣のために呼ばれた、と言っていた。
例えば、この世界は俺のいた世界より魔法の文明が発展したところで、世界間の渡航を可能にした世界だとしたら。
そこでは魔法を使った未解決殺人事件が横行しており、それに困ったお偉いさん方が「実際に魂を外部から取り寄せて当時と同じ環境で競わせてみよう」といったクソみたいな提案をして、なぜか通る。
他の世界にも人間がいるのなら、その魂を呼べるなら、人権なしで使えるじゃないか。
ああ、クソ。考えないようにと思ってたのに!
思考の切り替えなんて、うまくいった試しがない。
――停電が、長ぇ。
左手のホルンでマップは確認できるし、停電を直す箇所も赤く示されているが、当たり前だが、直しに行くつもりなどさらさらない。
そんなん、待ち伏せで1キルで終わりだ。
なら、ここで縮こまっているほうが安全……。
いや、本当に安全か?
停電で夜目が効かないのは俺たちだけで、人狼サイドは普通に見えているとかないか?
動く勇気などなく、結局、暗闇が晴れるまで縮こまっていた。
視界が戻る。
突然の閃光に目を焼かれる。
ズキンズキンと目の痛みを覚えた後、さっきまでの館に赤い廊下が伸びる。
よかった、生きてた。
緊張で固まっていた膝をほぐしながら立ち上がり、体の半分も隠せていなかった花瓶的なものを杖代わりにして立ち上がる。
少し歩いた廊下に、なにか落ちている。
そこには、タバコを吸っていた5番の女性が、仰向けになって倒れていた。
寝てんの?
と思った。
いやいや、ありえんだろ。
死ぬかもしれないこの状況で。
「何してんの」
メイド服というのも相まって、どこか人形めいた表情をしている。
ハイソックスにガーターベルト。
無表情、つまりいたって真面目な表情なので、すごくシュールで滑稽だ。
……え、いや、ちょっと待て、これ、まさか。
「死んでる?」
外傷はないが、口に手を近づけても、呼吸がない。
左手のホルンが光る。
死体を中心に会議を開くかどうか、って話か。
目の前で横たわる死体を前に、俺は……
むに。
むにむに。
むにむにむにむに。
おっぱいを揉んでいた。
「おい、おい」
後ろから声をかけられて、振り返る。
そこには、3番。
太っていて目が細くなっていて、それがさらに笑みで細くなっていて、顔面パンパンの悪魔みたいだった。