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世間がどれだけ不幸になろうとも、俺だけは幸せでいたい。
俺の家族はどうなってもいい、でも、俺だけは幸せにしてくれ。
そう願いながら、今日も俺はダラダラと仕事に励む。
今の世に生きてる連中は、みんなエゴイストだ。
将来のことなんて考えてないし、日本の未来なんてどうでもいい。
もしも本音でしか答えられないアンケートがあったら、きっと皆こう解答するだろう。
Q.「将来の夢はなんですか? あなたは何がしたいんですか?」
A.「家でずっとオナニーしてたいです」
退屈な日常。つまらない日々。一時の快楽。長時間の虚無。
あー、神様。このくだらない日常をどうか色どってくれませんか。俺の知人の人生をいくつか踏み台にしてもいいです。
はー、マジ宝くじ3億円当たらねーかなー。
そんな取り留めのないことを考えながら、人狼ゲームにログインする。
いつもと同じ館。いつもと同じ人間。ランダムな役割。
俺の役割は……【狂犬】。
……狂犬?
んな役職あったか?
表示がバグったかと自分の目を擦ると、擦れば擦るほど、まるで消しゴムのように世界が消えていく。
ごしごしごしごしごしごし。
「え、いや、なん、これ、は?」
思わず声が出る。
世界がすっかり漂白された後に、ぷかぷかと浮かぶシャボン玉みたいな球体が見えた。
犬のようなマークが描かれている。
なにこれ、新手の異世界転生?
シャボン玉に触れると、パチンと音を立てて割れてしまった。
それと同時に、この世界の天井も崩れ、星空が露になる。
ぽり、と頬を掻く。
なんなんだ、これ。
と、困惑していると、機械的な音声が流れる。
『これより、魔法殺人事件の再現を実施します』
「は?」
『貴方はこことは異なる世界から、魂を転移された存在です』
あー……。
異世界転生、いや、転移か。
実際にされるのって、こんな感じなんだな。
あのくそったれの世界から解放されて、うわーやったー、とかなるかと思ったが、案外、スンとしてる。
まぁ、イチイチはしゃぐ歳でもねぇしな。
感情はもう枯れちまってるみたいだ。
『これから連続魔法殺人事件の被害者または加害者となり、命を懸けて戦っていただきます』
俺は他人事ながら、理不尽だなあと思った。