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真面目ホラー

妖怪太しっこ

作者: 七宝

 その時、講義を終えたAさんはトイレへ向かって全力疾走していた。講義が始まってすぐに尿意を催したが、なぜかトイレへ立ったら欠席にされるという車校の学科みたいなシステムでやっている教授の講義だったため、90分も我慢していたのだ。


 爆発寸前の膀胱を気遣いながら、人を避けながら、確実に最短ルートを選んでトイレへ向かった。


 なんとか間に合ったAさんがズボンとパンツを足首まで下ろすと、彼のペニスは瞬く間に暴れ狂う龍と化し、レーザーのごとく尿を吐き出した(これを尿暴龍(にょうぼうりゅう)と云ふ)。


 小便器に穴が空いてしまいそうな勢いの尿を見ながらAさんは「こんなしっこ絶対ギネスだろ。これよりすごいしっこがあったら死んでもいい。いや、絶対死ぬ。切腹する」と勝手に1人で誓いを立て、スマホを取り出して記録のために尿にカメラを向けた。


 その時だった。


 ドーーーーーーン!!!!


 落雷の音がしたのだ。


 そして、その直後、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


 工事現場のような轟音が鳴り始めた。


 この日は雨の予報など出ておらず、ついさっきまで快晴だったはずだ。それがトイレに入って数分後に雷が落ちるなど、あるはずがない。それに、工事の予定も聞いていない。なのにこんな近くで轟音が聞こえるなんておかしい。


 そう思ったAさんが周りを見渡そうとすると、すぐ隣に1人の学生がいるのに気がついた。


 轟音は、彼の股間から⋯⋯いや、彼の股間から出たものが当たっている小便器から出ていた。


 常人の3倍はあろう太さのしっこが、かめはめ波よろしく便器を削っていたのだ。


 Aさんは「しまった」と思った。


 彼は21秒前に約束をしてしまったのだ。自分よりも上のシッカー(しっこをする人)が現れたら腹を切って死ぬと。


 Aさんはしっこを終えると近くのコンビニでカッターを購入し、「トイレ借りまーす」と店員に告げ、この世を去った。


 これらの文章は彼の遺書の一部であった。この他にはモー娘のことが9万字ほど書かれていた。


 この遺書が見つかってから1日も経たないうちに、太しっこの男の噂は広まった。


 当然警察も動く大事件となり、対太しっこ班という班まで組まれたよ。


 翌日、落雷を聞きつけた警察官数名が拳銃を構えて「大人しくしろ!」と言いながらトイレに入ったが、全員腰の辺りで上下に分断されて帰らぬ人たちとなった。


 しっこが終わったところを残りの警官が取り押さえると、男は「あれ⋯⋯? また僕なんかやっちゃいました?」と言うようなことを言い、あっけらかんとしていた。


 逮捕された男は3年の山田という学生だった。

 彼は「なぜ警官を殺したのか」と聞かれると「後ろからなんか聞こえたけど自分のしっこがうるさくて聞こえなくて、でも待たせる訳にはいかないと思って振り向いたらしっこで切り裂いてしまいました」と答えた。


 警官は全員「なんなんだこの事件」と思っていた。


 次に、「なぜそんなにしっこが太いのか」という質問が投げられた。


 それに対し山田は「これには深い訳があるんです⋯⋯」と過去の話を始めた。


 その日、山田は友人数名と河原にバーベキューに来ていた。

 肉を焼き、野菜を焼き、ビールを飲み、楽しくワイワイやっている時の事だった。


 加工肉&野菜担当の村井がフランクフルトを買い忘れていたことが発覚したのだ。


 村井以外の全員が激怒した。次の瞬間、何を思ったのか村井が山田のズボンとパンツを下げ、「ここにありましたーっ!」と叫んだ。


 買い忘れだけならまだしも、こんな死ぬほどつまらないギャグを披露して罪を重ねるのかと情けなくなった山田が悲しんでいると、突然村井が山田のフランクフルトを握った。


「えっ?」


 山田さんの理解が追いつく間もなく、下半身に激痛が走った。村井が割り箸を刺していたのだ。


『裂けるような、いや、実際に裂けている、燃え盛る炎を触ってしまったような冷たい激痛を感じながら、グリグリとねじ込まれていました』


 あまりの痛みに気を失ってしまった山田さんが次に目を覚ました時、今度は実際に燃えていた。


 割り箸の刺さった山田さんのちんちんが網の上に載せられているのだ。


「やめんしゃい!」


 そう言って村井をビンタし、山田さんのちんちんはようやく難を逃れた。


 周りの友人たちになぜ止めなかったのか聞いてみたところ「そういうプレイかと思った」と返ってきたという。「ちげーよ」と言うと皆ビックリして失禁した。


 そうして全員が村井の罪を認識したことで、村井は死刑となった。


「やだ! 死刑はやだ! やだよう!」


 そう叫ぶ村井に山田は情けをかけた。敵とはいえ、数分前までは友だった男だ。そう簡単に鬼にはなれないのだ。


「じゃあ切腹でいいぞ」


 村井はその言葉に安堵し、自ら腹を切ってこの世を去った。


 太いしっこはこの時の後遺症なのだという。


 この話を聞いた警官は首を傾げた。


「太くなるのは分かるけど、勢いが強いのはおかしくない?」


 当然の疑問である。


「それはですね、陰茎の内部でぐちゃぐちゃになった組織が癒着して固まって、尿道が普通の人より細くなったからです。太く見えてたのはその先の網状になった肉を通過した時に周りだけ霧みたいになったからじゃないですかね」


「生々しいのやめて」


 警官は泣いてしまった。


 そう、警官だって泣くのだ。人間なのだから。


 画面の向こうの憎い相手だってそう。


 人は誰だって人間だ。


 そんな当たり前のことを忘れてしまった多くの現代人。


 そんな現代人に足りていないもの、それはしっこだ。


 しっこを飲むことで他者への思いやりの心が生まれ、世界は良くなる。


 世界を良くしよう。


 しっこを飲もう。


 私は飲まんけど。


 気持ち悪いもん。


 しっこ飲んでるやつもキモいよ。


 は?


「ひどい、人は誰だって人間だって言ったのはお前だろ」だって?


 しっこ飲んでるやつも人間だろって?


 ( 'ω')?


 いや、しっこ飲んでるやつはバカにされて当然だよ。


 いいかね諸君。


 全ての物事には理由があるんだ。


 私がしっこしっこ言ってるのにももちろん理由がある。


 深い深い理由が。


 深緑より深い大事な理由が⋯⋯

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