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象の運転手さん

作者: 大枝 岳

 サバンナバスの運転手の象さんは今日も元気にバスを走らせています。毎日毎日暑くてたまらないサバンナで、このバスが一台あるだけでみんなが助かっています。しかし、上空では宇宙人がその隙を狙っていました。

 それでも、みんな仲良くバスに乗るためには我慢をしなければならないことも多く、象さんはいつもハラハラしながらバスを運転していたのです。


「おーい、象さん。乗せてくれー」


 象さんは手を振るライオンを見つけるとブレーキを踏んでドアを開けました。


「いやー、暑くてまいったまいった。助かるぜ」


 汗を拭いながらライオンがバスに乗り込むと、象さんは「しまった!」と声を上げました。バスの後ろに、シマウマの親子が乗っていたのです。上空では宇宙人がその隙を狙っていたものの、水場に向けてバスは発進しました。気の小さな象さんは気が気ではありません。シマウマ親子は楽しそうにしりとりをして遊んでいましたが、その様子を「うまそうだ」と声に出さんばかりに、ライオンが眺めています。


「ライオンさん、我慢だよっ」


 象さんが目を瞑りながらそう言って振り向いた時には時すでに遅し。目を開くとシマウマ親子はライオンにむしゃむしゃと食べられてしまってました。


「ぷっへー、ごちそうさん」


 おなかを擦りながら満足そうにバスを降りるライオンを見て、象さんは「まいったなぁ」と頭を抱えました。


 次の日。上空では変わらず宇宙人がその隙を狙っていましたが、またまた同じようにシマウマ親子が乗り込むバスにライオンが乗ってきました。昨日まで頭を抱えていた象さんでしたが、今日は違います。

 バスを発進させ、ライオンが「おいしそうだ」と言わんばかりの目をシマウマ親子に向けるやいなや、象さんは急ブレーキを踏み、その大きな身体を揺らしながらライオンに近付くと、何の迷いもなくライオンの頭を踏みつぶしてしまいました。


 ばーーーーーーん!


 という大きな音と一緒に、ライオンの頭は爆竹を仕掛けられたトマトのようにはじけ飛びました。


「ハッハッハ! なぁんだ、最初からこうしていれば良かったんだ!」


 象さんはとってもご満悦でしたが、シマウマ親子は引きに引きつった恐怖の憎悪を顔面に浮かべながら、バスの隅っこでガタガタと震えていました。その後も二匹、三匹とライオンのおいしそうな顔を見るたびに頭を踏みつぶす象さんでしたが、とうとうバス会社の社長に怒られてしまいました。


「象くん、あんまり殺してくれるな。このままでは乗客が減ってすぐに売り上げがなくなってしまうぞ」

「へい、すんまへん」

「頭を「つぶす」んじゃなくて、もっと頭を「つかえ」!」

「へい、わかりました」


 シュンとしてしまった象さんでしたが、すぐに気持ちを切り替えようとしました。

 またまたシマウマ親子が乗って来て、ライオンが乗って来て、そしたらライオンがシマウマを食べるから売り上げがマイナス二匹……。ライオンさんを乗せなければ暴動が起きるかもしれないし……うーん。象さんは悩みました。ぼんやり運転している間に手をあげるシマウマ親子、フラミンゴ、ライオン、サイ……次から次へと無視をして通り過ぎて行き、バッファローの大群を撥ねても、疲れて道端で眠っていたハイエナを轢いても、目の前を宇宙人が隙を狙ってUFOで通り過ぎようとも、ぼんやりバスは停まりませんでした。


 そうだ!


 象さんはついに閃きました。水場へ行こうとバスに向かって手を振るシマウマ親子を見つけましたが、象さんは無視をして乗せませんでした。どうせ食べられてしまうし、ライオンを怒らせると後が面倒だからです。それに、食い散らかしたシマウマの死体を片付けるのがもうとにかく面倒で面倒で仕方なかったのです。

 それからすぐにライオンを乗せると、ライオンは車内を見回しながら不思議そうな顔を浮かべました。


「おい、シマウマはいないのか?」

「さぁ、知りまへんで」

「まぁいいや。バスを出してくれ」

「へい」


 バスを発進させるとすぐにライオンが吠えました


「おい! シマウマだ! バスを止めてくれ!」


 ライオンはバスに揺られながらも、無意識にシマウマを探していました。なのでシマウマを見つけたライオンはいてもたってもいられず、お金を払ってバスを降りて行きました。シマウマ親子がすぐに追いかけられるのを見ていた象さんは、またまた閃きました。


「そうだ!」


 シマウマ親子が逃げる先にバスを走らせ、親子をバスに乗せました。


「象さん、おかげさまで助かったわ。坊やもホラ、お礼をしなさいな」

「象さん! ありがとう!」


 うんうん。これでよし。バスを発進させると、今度はライオンが手をぐるぐる回してバスを待ち受けていました。もちろん、バスの運転手の象さんはバスを停めました。


「シマウマの親子が乗っているだろう!?」

「いいえ。乗ってませんよ」

「えっ!」


 お金を払ったシマウマ親子は後ろのドアからさっさと降りて行き、ライオンだけを乗せたバスがとっとと出発します。


「もういい! もう停めてくれ!」

「へい、分かりました」


 象さんはバスを停め、お金を受け取るとバスのドアを開けました。

 そしてまたまたシマウマ親子を先回りして乗せ、お金をもらってまたまた降ろして、その隙を上空から宇宙人が狙っている間にもライオンを乗せ……。

 すると、五回目でシマウマ親子が困り果てた顔を浮かべながらこんなことを言い始めました。


「象さん、私達……もうお金がないのよ」

「さいですか。それでは」


 象さんはシマウマ親子を乗せませんでした。そうして後からやって来たライオンにつかまってしまい、むしゃむしゃと食べられてしまいました。 

 その日、バス会社に帰った象さんは社長からうんと褒められました。


「よくぞ頭を使って稼いでくれたな! 君はえらい!」

「やったぁ!」

「みんなも見習うように!」

「どうだ! まいったか!」


 こうして象さんは頭を使って稼ぐ立派な運転手として会社で褒められ、自慢の運転手になりました。

 今日もバスはたくさんの動物を乗せ、サバンナを元気に走り回っていますが、上空では宇宙人がその隙を変わらず狙っているのでした。

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