ユリウス陛下に謁見
久しぶりにユリウス陛下登場です。
王宮に到着するとすぐに私たちは謁見の間に通された。
程なくして、奥の扉からユリウス陛下が現れた。
相変わらずユリウス陛下は威厳に満ち溢れていた。王宮だとやっぱり畏れ多くて身が引き締まる思いがする。前回はお外だったから、ちょっとだけ気楽な感じだったけれど。
玉座に座ったユリウス陛下と目が合った途端、ユリウス陛下は私に手招きした。
ん、とぉ……『おいで』ってこと?
チラリと私の横に並んで立っているホワイトナイト様の顔を伺うと、ホワイトナイト様は私に頷いて見せた。
これは、『行ってこい』ということなのかな
? どちらにしても、手招きとはいえ王命みたいなものだから、行かないと駄目よね。
手招きされる意図の分からないまま、ユリウス陛下の許へ行くと、
ひゃい!
いきなりユリウス陛下に手を掴まれ引っ張られた。
ひやあ!
私は、軽々と抱き上げられユリウス陛下の膝の上にストン。
何でえ?
ハッ! これって、この前のヴィオラス王国と周辺諸国交流パーティーの時と同じじゃあ?
あの時もユリウス陛下の膝の上に座らさせられて、物凄く恥ずかしかったのを覚えている。
「ユリウス陛下?」
ユリウス陛下の顔を首を傾けて見上げると、ユリウス陛下は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
細められた透き通るような水色の瞳にドキッとする。
不意に額に柔らかい感触がした。
わわわっ!
ぶわっと顔が熱くなる。
ユリウス陛下にキスされた!
額に手を当て、『何をするのですか!』と言わんばかりに目で抗議すると、ユリウス陛下はクツクツと喉の奥で笑った。
「私の唯一であるのだから可笑しなことではないだろう?」
むぅぅぅぅ。
甘やかさの欠片もないユリウス陛下なのに私の顔が赤くなっちゃったじゃないの!
私は、顔をしかめてしまった。
これは、演技だ。ユリウス陛下は、常に私を婚約者候補として扱う。
何て言うか、ユリウス陛下はたちが悪い。
事も無げに、私が愛しい振りをしてくるのだから。
「ティアーナ、怒るな。それに、エンデストリア王子には貴女が私の領分に在るとわきまえて貰わねばならぬからな。影の報告でやつの貴女への接触が多いと聞いている。私はやつを牽制しておくべきだろう?」
うっ、どこから突っ込めばいいのか。
今、やる必要が? まだレオンハルト様はいないのに?
それに……影って。
時たまホワイトナイト様が口にしていたから、過保護なお父様やメイヴェの国王様や、もしかしたらクラウスも、私に影をつけているんだろうな? とは思っていたよ。うん。……で、これ、ユリウス陛下もってことだよね? どれだけ私は影をつけられているのだろう? 改めて考えると怖いのだけれど。私の個人情報……駄々漏れでは?
……と、いうことは、魔法技術の教室へレオンハルト様に抱っこされて運ばれちゃったのとか……ユリウス陛下も知っていたり? ああ、それで牽制。ユリウス陛下……レオンハルト様をやつって呼んでいたし。
でも、そこまでしなくても良くない? 偽物の婚約者候補なんだし。
ユリウス陛下って実は完璧主義者なのかな? 婚約者候補に対する態度が演技とは思えないくらい秀逸すぎる。私は、さっきみたいに演技でもドキッとしちゃうし、顔が赤くなってしまう。
真実を知らない人が見たら、ユリウス陛下が本気で私のことを好きで焼き餅を焼いていると思っちゃうよ?
そんなことを考えていたら、眉間に皺がよっていたのかな?
ユリウス陛下の指が私の眉間の皺を伸ばすように撫でていた。
「可愛い顔が台無しだな。……ところで、アレクセイよ、エンデ王国第二王子についてはこちらも把握している。我が国もメイヴェ王国と足並みを揃えることにした」
んんん?
「ご配慮ありがとうございます」
ホワイトナイト様が恭しく頭を下げた。
ヒューベルトくんのことだよね? やっぱりユリウス陛下にも情報いっていたんだ。だけどこの話しぶりだと、クラウスから聞いたというより国家間のやり取りがあったみたいな?
「ユリウス陛下?」
……それは、どういう?
首を傾げて問うようにユリウス陛下を見ると、ユリウス陛下は私の頭を撫でた。
「少々妬けるが、貴女が信奉しているものを疎かにはできないだろう? メイヴェリア国王と話をして決めたのだ。メイヴェリア国王との対話はなかなか愉快だった。貴女を私の唯一にしたことに対しては腹を立てていたがな」
う、あああ!
信奉って……私がヒューベルトくんを推しているのをユリウス陛下が知っている? 何で? 何で? 今日二度目の私の個人情報漏洩が酷すぎる件……。今まで目に見えないから影の護衛がついている意識ってあまり無かったのよね。だけど、こうして目の当たりにすると……色々なことを見られていたり聞かれていたりするのかな……そう思い始めたら滅茶苦茶恥ずかしくて泣きそうなんだけど。
「陛下、エンデストリア第一王子殿下がおみえです」
ツカツカと足早にやって来た二十代後半くらいの男性がユリウス陛下に耳打ちした。
あれ? 何か気安い?
その男性は私の目を引いた。
威厳と高潔さに溢れ……王としての風格に圧倒されそうなユリウス陛下に普通に耳打ち? 前振りもなく? すごいな。きっと……すごい人だ! この人!
水色がかった銀の髪を後で一つに濃紺のリボンで結わえている彼は整った顔立ちをしていた。アイスブルーの瞳は知的な感じがする。綺麗な人だなあ。
あ、リボンの色ってユリウス陛下の色だよね?
思わずまじまじと見つめていると、それに気がついたユリウス陛下が苦笑した。
「ティアーナ、私の唯一、私以外をそう見つめてくれるな。これは、私の宰相だ」
宰相だったのか。
それなら納得。宰相といえば王の右腕だし、ユリウス陛下が、私の宰相と言うからにはかなり信頼しているのだろう。でも、私のって……ユリウス陛下って意外と独占欲強いのかな?
それにしても若そうな宰相だなあ。ユリウス陛下も年季の入った王の貫禄あるけど若そうだから、丁度良いのかな? 気があったり仲良しだったり? 想像していたら何だか微笑ましくなってきた。
「私の唯一、何をにやけている? 貴女は私のことだけ考えていれば良い」
う。
ユリウス陛下って本当に演技力がヤバイ。
妬いているようにキコエマス。
「別室を用意した。そちらへ移ろう。アレクセイも付いて来い」
へ?
ユリウス陛下は私を膝から抱き上げるとそのまま立ち上がり歩きだした。
うわ、待って!
「ユリウス陛下! 私、自分で歩けます!」
慌てる私にユリウス陛下は流し目を送った。
「私の唯一を私が離すとでも?」
えっと? 意味がわからないんですけど?
おまけに、流し目でそう言うことをサラリと言うのやめてください。
心臓に悪いです。
「私の唯一はなかなか顔を見せてはくれぬからな。久しぶりの逢瀬なのだからこのくらいは許してくれるだろう?」
ちょっと、待って。
私と会ってからずっと、唯一、唯一と連呼しすぎでは?
それに、何となく……。
ジーッとユリウス陛下の顔を見る。
顔が楽しそうな……っていうか、すこぶる機嫌良すぎじゃないですか?
冴冴とした水色の瞳がキラキラとしている。
「ユリウス陛下、私で遊んでいません?」
心外だというように問い質すと、ユリウス陛下は肩を震わせた。
これ、絶対笑いを堪えているよね?
「貴女で遊ぶのではない。これから遊ぶのだ」
これから?
これからって……えええええ!
ユリウス陛下は私を抱っこしている腕に力を込めて私の耳許で囁いた。
「やつが変な気を起こさぬよう、私たちの仲を見せ付けねばな」
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




