週末の約束
「おねえさま、ねえ、おねえさま」
……うううん。
「起きてください。おねえさま」
髪の毛を梳かれるような感じと、耳たぶにあたる暖かい感触がくすぐったくて……。
ううん……なあに? これ?
何故かほっぺがツンツンされている感触。
「おねえさま、今日は、お城へ行く日だとホワイトナイトさんが言っていましたよ?」
んんん……。
お城へ行く日?
私は、パチッと目を開けた。
んあ? ふええ! 綺麗なエメラルドグリーンの瞳! 長い睫毛! ひょええ! 推しが、推しがいる!
……つ、あああ!
そうだった! 今日は、学園がお休みの日で、レオンハルト様との約束の日だ!
結界を纏う訓練からの昨日のリュミエール殿下との会話で疲れすぎて、今朝は寝坊をしてしまったみたい。
おまけに、目を開いた先にヒューベルトくんのキラキラとエフェクトのかかった麗しい顔があって、私ったら……危うく昇天するところだったよ。危ない、危ない。
でも……流石に疲れるよね。精神的ストレスが半端ない。結局、昨日は、リュミエール殿下と親睦を深めるということになってしまったし、それだけでも、何で? って感じだったのに……気がついたときには、リュミエール殿下からシェザリオン様と呼ぶことを厳命されて、私はティアーナと呼ばれることになってしまっていた。その上、親睦を深めるために、時々お茶をご一緒することを約束させられたのよね。一人だとたまったものではないから、私も頑張ってソルジュを巻き込むことに成功したのだけれど、ロベールさんからの冷やかな視線が私に突き刺さっていて痛かった。
だけど、何はともあれ、女神セレネ様の神聖な気配は上手く隠せたみたいだったな。……ということは結界が上手く纏えるようになっているってことよね? 訓練したかいがあったのかな?
「おねえさま!」
ヒューベルトくんの声がして、私は意識を引き戻された。
「ベルくん、おはよう。起こしてくれたの? ありがとう」
にっこり微笑むとヒューベルトくんは嬉しそうに瞳を煌めかせた。
ん?
視界に白いものが掠める
ん、あああ! 何てこと!
ヒューベルトくんのお尻の辺りから長い尻尾がフワフワ揺れていた。
ぅひゃあ! ヒューベルトくんの尻尾? 尻尾が出ているの? え? あ? なに? これ……ご褒美?
可愛い!
白い尻尾がご機嫌よさそうにフリフリしている。
私は、ガバッと跳ね起きて
「ベルくんん! 可愛いいい!」
思わずそう叫ぶと、ヒューベルトくんに勢いよく抱きついた。
もう、むぎゅーだよ。むぎゅーっ!
そして、可愛さのあまりヒューベルトくんの頬っぺに私の頬っぺを擦り付けてスリスリしてしまった。
不可抗力よね。
だって、ヒューベルトくんのスベスベぷにぷに頬っぺがこんなに近くに!
「おねえさま……」
ヒューベルトくんの戸惑う声がする。
「おねえさま、僕、急いで成獣になりますから。待っていてくださいね。そしたら後尾しましょう」
うへ?
何かヒューベルトくんからとんでもない言葉が聞こえたような?
ヒューベルトくんのお口から交尾なんて言葉が出るはずがないよね?
「こんなに愛らしい……いとけないヒューベルトくんが、交尾なんて……」
「お嬢様、確かに仰っていました」
サリナが近くで様子を見てしっかり聞いていたらしい。
えええ!
嘘お?
信じられない思いでいっぱいになっていると、腕のなかにいたヒューベルトくんが掻き消すように消えてしまった。
え?
「本当に、物分かりが悪くて困りますね? いとけないと言いながらベルくんに発情ですか? 不埒どころか、犯罪ですよ?」
ホワイトナイト様が空間からポンと、現れた。腕にはヒューベルトくんを抱えている。
「な、何で発情? 変なことを言わないで!」
どうして発情ってことになるの?
五歳のヒューベルトくんに発情なんてするわけがないじゃない!
「そんな薄い寝衣で身体を密着されれば、そう思われても仕方がありませんよ? ティア? 少なくとも、ベルくんはそう思われたみたいですね」
薄い? 寝衣?
私は改めて自分の身体を見下ろした。
確かに薄いかもだけど、たまに一緒にヒューベルトくん私と寝ているよね? 今更だよね? それに、まだ子ども!
「ふふふ。おねえさまは、柔らかくて気持ち良いです。隙がありすぎるのはどうかと思いますが、僕には良いですよ。僕と結婚しましょう」
口に両手をあてて楽しそうにヒューベルトくんが言うのをホワイトナイト様が睨み付けた。
「……マセガキが」
ちょっと、ホワイトナイト様、ヒューベルトくんは王子様なんだから毒づいちゃだめだよ。
何かホワイトナイト様は、白だとカミングアウトしてから言葉遣いが悪くなっていない?
「良いですか? ティア。むやみやたらと雄に抱きつくのはやめてください。もう何度目でしょうね? これを言うのは。特に今日は、レオンハルト様と会うのですよ? 全く、呆れますね。いつも以上にベルくんの匂いをつけてどうするのですか?……ああ、いつものアレをそんなにやりたかったのですか? それは、私も想定外でした。手加減しすぎですね。ディーンに注意しておきましょう」
え? アレって何? ディーン様って匂いの上書きのこと?
でもさ、結界纏えるんだからもういらなくない?
何やら不穏な気配がホワイトナイト様からするんだけど……。
「まだ、結界は安定していないでしょう?」
ホワイトナイト様が、特大の溜め息をついた。
入浴後、私はいつもより入念な匂いの上書きをディーン様からされて、腰が抜けそうになった。
ひぇぇ。ホワイトナイト様、酷い。
そうして、数時間後……。
私はホワイトナイト様と共にお城へ向かったのだった。
『おねえさま、お気をつけて』
出掛けにそう言ってくれたヒューベルトくんが淋しそうに見えて……。
私は、大好きなお兄様から命を狙われたヒューベルトくんの気持ちを考えたら切なくなった。
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




