ちょっと大きくても子猫は子猫
猫ちゃんを抱っこしてホワイトナイト様と皆のところまで戻ると、サリナがとてつもなく怒っていた。カイルとユノーも勝手に行動した私に言いたいことがあるだろうと思うのにサリナに任せることにしたのか、目を反らしている。
「ティアーナお嬢様、急に走って行かれないでください。何かあったらどうするんですか!私を殺すおつもりですか!サリナはお嬢様にもしものことがあれば生きてゆけません!」
猫ちゃんの所へ一刻も早く行きたかったの。
ぐすん。サリナが怖い。あまりの剣幕に泣きそう。
サリナに懇々と叱られる。
「ごめんなさい。」
サリナはいつも私のそばに居てくれて、私のために心を砕いてくれる。
危険なのに武器を手に取り私を守ろうとさえしてくれているのに、軽率だったと反省して項垂れた。
項垂れた目の先には白い猫ちゃんがいる。
この子が無事で良かった。
あんなふうに襲われて助かったのは奇跡だと思う。
たまたま、私たちが居合わせていなければあの傷だ。死んでしまっていたかもしれない。
あり得たかもしれなかった事を想像してブルリと震えた。
今、私の腕の中に眠っている猫ちゃんの体は暖かい。ちゃんと生きているとわかるから安心する。
サリナの声を聞きながら猫ちゃんのお髭がぴくぴくしていることに気がついて、
可愛い。
思わず微笑んでしまった。
サリナは咎めるように私を見たが、つぎの瞬間プッと、吹き出した。
「全く、ティアーナお嬢様には敵いません。その猫が無事で良かったですね。」
お説教は終わったようだ。サリナににっこり笑った。
「ええ。こんなに小さい子猫ちゃんなのに、あんな目に会うなんて。」
「小さい子猫?」
サリナがおや? って顔をする。
「結構大きくないですか?猫にしては。」
サリナの後ろからカイルがひょいと覗き込んだ。
「でかいな。」
ユノーも覗き込んで言う。
「えっ? 子どもの猫だと思うのだけど。」
違うの? 言葉につまる。
どこから見ても子どもだ。
それ以外に見えない。
ひょいと私の腕の中から、ホワイトナイト様が猫ちゃんを取り上げた。
「これは確かに子どもですね。猫であるかどうかは別として。」
「猫よ。ちゃんと猫の形状をしてるでしょ?」
何故か猫だと断言することに否定的なホワイトナイト様に反論するも、
「では、そういうことにしておきましょう。」
軽くいなされてしまった。
「こう言っては何ですが、その子猫……通常の4倍くらいありますよ?」
ユノーが釈然としない顔をしてまじまじと猫ちゃんを眺めていたが、うん!と一つ頷いて「がははは
!」と豪快に笑った。
「ティアーナさまが子猫とおっしゃるのなら、そうなのでしょう!これは子猫だ!」
サリナとカイルも一緒にうんうんと頷いてユノーに続く。
「「おっきな子猫ちゃんです!」」
何か煙に巻かれた気がするけれど、
まあ良しということにする。
大きいのかしら? でも子どもに見えるのにね。
ホワイトナイト様に抱かれている猫ちゃんを見る。
本当に可愛いわ。
「これは、私が運びます。ティアーナ様は歩くことに集中してください。」
私が抱っこしたかったけれど、確かにずっと抱っこしているには重いのよね。
猫ちゃんの白い毛は、毛足が短く滑らかで肌触りがすごく良くて癒されるのに。
本当は頬ですりすりしたいのを猫ちゃんが眠っているから遠慮しているのだ。
馬がいるところまではまだ距離がありそうだし。
私が下手に体力を消耗して動けなくなったら皆に負担がかかるから、大人しく言うことを聞くことにした。
「では、先へ進みましょう。」
ホワイトナイト様のかけ声で皆は再び歩き始めた。
その後は順調に進み、馬が繋いであるところまでたどり着いた。
ただ、もう私はヘトヘトだった。
こんなに歩いたのは人生で初めてだ。
今まで、家とお城への馬車での往復に、お妃教育、お庭の散歩、夜会やお茶会への参加くらいしかしてこなかった私は明らかに運動不足だ。令嬢としては普通なんだろうけど。サリナを見れば疲れた様子もなくケロリとしている。重い鞄も持って歩いていたのに!
何だか負けたような気がして、
これからは、お勉強とかだけではなく体も鍛えようと、こっそり心に決めた。
「大丈夫ですか?」
地面にへたり込みそうになっていると、ホワイトナイト様が猫ちゃんを抱っこしていない方の手を伸ばし私の頭を撫でた。
「よく頑張りましたね。」
と、優しく微笑みをうかべる。
あれ?
何だか身体が撫でられているところからじんわり暖かくなる。疲れた身体が癒されて元気になっていくようだ!
これは癒しの魔法?
目をぱちくりさせた私を面白そうに眺めてから、ホワイトナイト様は抱っこしていた猫ちゃんを渡した。
「貴方には重いかもしれませんが、持っていてください。私は貴方を抱きますので。」
へ?
って思った瞬間、猫ちゃんごと抱き上げられて私は馬にのせられた。
そして、軽やかに私の後ろにホワイトナイトさまが跨る。
「それを落とさないようにしてくださいね。貴方が泣きますから。」
……つまり、自分はどうでもいいと?
こんなに猫ちゃんは可愛いのに、あまりに薄情なのでは?
すこし抗議しようと構えた途端、片方の腕で抱きよせられて固まる。
もう片方で馬の手綱を操りながら、彼は抱きよせる手に力を込めた。
「貴方も落ちないようにしっかり抱かれててくださいね。」
言い方!
それぞれ乗馬した私たちは、馬車のある中継地まで馬を走らせた。
何とサリナは乗馬ができた!
カイルやユノーと馬を並べて走っている。
そして、私は、もう一つ心に決める。
乗馬もできるようになろう!
それらは私の役に立つはず。
アスラン様のための調査にも。きっと。
読んでくださりありがとうございますm(_ _)m